バイデン大統領がガザ地区に港を設置する意向と伝えられている。もともとヨーロッパがキプロスを経由した物資の補給を計画しておりそれに合わせた動きとみられるがEUフォンデアライエン委員長の計画との関係は不明だ。ガザ地区にとってはポジティブなニュースだが、和平交渉が行き詰まっているという証でもある。
アメリカで一般教書演説が行われた。日本ではトランプ氏との対立姿勢が明白になったと大きく報じられている。バイデン大統領が顔を歪めて誰かを罵っている写真が外信で出回っておりアメリカの威信を大きく傷つける。一般教書演説の内容はBBCが詳しい。
さらに今回はスウェーデンのNATO入りが重なった。スウェーデンの首相がホワイトハウスを訪れている。時期としては偶然の一致だがバイデン政権としてはNATO支持の姿勢を鮮明にすることでトランプ氏との対決姿勢を鮮明にする狙いがあるのだろう。スウェーデンは200年の中立を破ってNATO入りを決めた。ナチス・ドイツが席巻していた時代も中立だったことになる。ロシアのプーチン大統領の脅威の大きさがわかる。
さまざまな発表があったが、その一環としてバイデン大統領はガザ地区に港湾を建設する意向を表明した。毎日トラック数百台分の支援物資を搬入できるという。準備に何週間もかかると書いているが少なくとも「何ヶ月ではないのだな」と思った。
アメリカ合衆国はこれまでガザ地区の状況に直接関与してこなかったが埠頭の建設は直接介入の小さな一歩になる。ただしバイデン大統領は米軍関係者は上陸させないと言っている。恐る恐る一歩を踏み出した印象である。
このニュースだけを見るとアメリカのイニシアティブのように思えるがアイディアはヨーロッパ主導のようだ。フォンデアライエン欧州委員長はキプロスを訪問した。キプロス経由でガザ地区に支援物資を届ける海上人道回廊を設置するのが狙いである。ただし、ガザ地区には港がないためイスラエルのアシュドッドの解放を求めるとされていた。ガザ地区のすぐ上がアシュケロンでその北にある港である。EUはすぐに支援物資を送る手筈を整えたがいまだにアメリカの計画との関係も具体的な上陸先も明らかになっていない。バイデン大統領の一般教書演説に合わせた急な計画だったためEUとの具体的な擦り合わせができていないのかもしれない。
実は2023年12月にはイスラエルとキプロスの間でも人道回廊の設置協議が行われていたとCNNが伝えている。また2024年2月初頭にも「イスラエル首相府が人道回廊の設置を検討している」とする報道があった。こちらは共同通信の記者に答えたものだった。
このやり方は極めてイスラエルらしいと感じる。おそらくイスラエルの目的はガザ地区からパレスチナ人を追い出すことなのだが西側が反対していることも知っている。このため表面的には西側の要望を検討しているような体裁で状況を引き延ばす傾向がある。
ヨーロッパの人道回廊設置にもおそらく隠された狙いはある。
ヨーロッパでは難民・移民に関する敵意が高まっており極右の台頭が懸念されている。EU議会の最大政党が「難民を第三国に追い返す」ことを公約化すると言われている。ただし穏健な中道右派なので「移住希望者」を「安全な第三国へ」ということになっている。フォンデアライエン欧州委員長はこの最大政党を率いていて6月の選挙を率いることが決まった。多数派を維持できれば欧州委員長に再任される。実はアメリカと同様にEUにとってもこれは「選挙がらみ」なのだ。
AFPの記事では100万人がヨーロッパの移民を希望していると書かれている。わざわざ危険を冒してヨーロッパに渡ってきた人たちがアフリカに戻りたいと考えるとは思いにくいが移民排斥の極右政党の躍進が予想されているため苦肉の策といったところなのだろう。フォンデアライエン委員長は少なくともガザから新しい移民が発生することは避けたい。このため人道支援物資を送りパレスチナ難民を事実上の監獄であるガザ地区に封じ込めておきたいのだ。
エジプトはガザ地区からの難民流出を恐れておりラファゲートの周りにバリケードのような施設を作っている。仮にラファゲートが解放されてもここから先には一歩も入れないぞという決意を感じる。いかにも残酷という気がするがエジプトにも事情はある。南隣のスーダンでは2,500万人以上が食糧不安と政情不安の悪循環から抜け出せていない。世界食糧計画WFPは世界最大の飢餓を警告している。20年前のダフルール危機の時には世界の国々が協力してたが今はトラブルが多すぎてもうスーダンまで面倒を見ていられないという状態になっているそうである。