共和党側のスーパー・チューズデイは事前の予想通りトランプ氏の圧勝で終わった。好調な日経平均を背景に「トランプ氏が勝った場合に日本の株価はどうなるのか」と考える人が多いようだ。
Bloombergは日本株にはポジティブな影響が出ると書いている。ただし全ての株が上がるわけではない。ボラティリティが上がるため投資家には更なる情報収集が必要だ。投資家の情報リテラシーも問われる。
ニッキー・ヘイリー氏は撤退を表明したため共和党の候補者はほぼトランプ氏で決まりになった。バイデン大統領は民主党での勝利を確実にしたものの再選を不安視する材料が出ており、読売新聞などは民主党に差し替え議論があると紹介している。トランプ氏の再選を防ぐためにはプランBも必要というわけである。
スーパーチューズデイは撤退候補の最後の舞台になることが多い。今回も例外ではなくニッキー・ヘイリー氏が撤退を表明した。ただし1972年生まれのニッキー・ヘイリー氏は十分次を目指すことができるためトランプ氏からは距離を置く考えのようだ。事前にはトランプ氏を支持するか周囲からさまざまな声が寄せられたそうだがトランプ氏を支持するとは明言してない。BBCが今回の選挙について取材をしている。既得権にうんざりした人たちがこぞってトランプ氏を応援する一方「かつての共和党は無くなってしまった」と嘆く人もいる。
バイデン大統領にとってはやや厳しい選挙になった。ライバル候補がいないため圧勝だったが「支持候補なし」の抗議票が意外と多かった。トランプ氏との対決になればトランプ氏有利という世論調査も散見される。読売新聞が「8月の党大会までに差し替えが行われる可能性」について報じている。民主党の勝利を確実にするためにはプランBが必要であるということになる。ただし引き摺り下ろされることはなく本人が撤退を表明する必要があるようだ。
日本人が最も気にする点は2つある。安全保障に関する影響と日本株への影響だ。日本株に関する影響については「ポジティブな変化」があるのではないかとする報道がある。特に自動車などに期待が持てるという。一方で安全保障に関しては懸念が大きい。
アメリカのウクライナ支援はかなり厳しい状況に置かれている。大統領選挙とは直接関係がないが国務省のナンバースリーだったヌランド氏が退任する。プーチン大統領はトランプ氏とは話ができると考えていたがウクライナの強力な支援者だったヌランド氏の地位が上がったことで対話を諦めたとする話もある。前の民主党のオバマ政権はウクライナの大統領に積極的に働きかけてきた。ウクライナをアメリカに引きつけてウクライナを自国権益にする狙いがあったなどといわれている。そのときに活躍したのがヌランド氏だった。退任に際してブリンケン国務長官は(ヌランド氏がいなくなっても)ウクライナ支援が揺らぐことはないと明言しているが、却って状況の深刻さを窺わせる。NATOの動揺はさらに広がりそうである。事務総長の交代時期に差し掛かっていてオランダの首相経験者のルッテ氏の名前があがっている。ただし全員一致が必要なNATOではハンガリーがルッテ氏の事務総長案に反対しており状況は極めて不透明だ。
日本株の影響についてはBloombergが「トランプ氏返り咲きは総じて日本株にポジティブ-市場関係者の見方」という記事を書いている。どちらかと言えば共和党寄りのメディアなので割り引いて考える必要はありそうだが内容をご紹介する。
トランプ大統領になれば財政政策・関税政策共にインフレが予想される。当然ドル高・円安となり日本株には好条件だ。またトランプ氏は民主党の環境政策を敵視しているためEV(電気自動車)にも消極的である。つまりトヨタ自動車・日産自動車など日本の自動車産業には好材料であろうと予想される。
このEVに関する観測は、EVがあまり得意でなかった日本の自動車産業にとっては追い風だがテスラなどの株を持っている人には懸念材料となるだろう。中国での売上が思わしくないという理由で株価が7%下がったばかりだが、アメリカで政権の支援がなくなればさらに経営に悪い影響が出かねない。
さらに、トランプ氏が再選されなおかつ民主党が議会を支配するようになると政治状況が不安定となり「ボラティリティ(変化の度合い)が高い」市場環境となる。非常に興味深いのはFRBに利下げを迫るのではないかという指摘だ。バイデン政権はあり得ないことだがトランプ氏は何をするかわからないところがありやりかねないという気がする。またトランプ再選シナリオが現実のものなればドル資産が流出するのではと懸念する人もいる。現在の日本株の好調はアメリカの株高の余力なのだから当然日本株には悪い影響が出る。
Bloombergの記事もよく読むと不確実性(ボラティリティ)について触れている。タイトルがポジティブなっているのはBloombergの政治的なポジションによるものだ。これまではヘイリー氏がいたため共和党寄り・トランプ嫌いという色彩も強かったが今回の件で状況は変わった。
NRIは「「もしトラ」で「トリプル安」懸念」とボラティリティに注目する記事を書いている。Bloombergでは「金利維持のドル高」を予想する人がいるが、NRIは株価、債権、通貨(ドル)のトリプル安を懸念する。つまりイギリスのトラス・ショックのようなことが起こると言っている。また、こうしたことが起きないにせよFRBと対立し安いドルを望む可能性が高いとも書いている。いうまでもなくアメリカの製造業にとっては有利な条件だ。結果的に日本は円高・株安のリスクがあるという結論となりBloombergの記事のタイトルから受ける印象とは一致しない。
貯金から投資へという流れが加速する中、投資家は金融リテラシーを高めてゆく必要がある。だがアメリカではメディアにも色がついている。このため情報リテラシーも同時に上げてゆく必要がある。
今回のスーパーチューズデイ分析で最もニュートラルな表現をしていたのがロイターである。「焦点:トランプ氏に勢い、リスクかチャンスか 金融市場は頭の体操」となっている。「頭の体操」とはさまざまなシナリオをあらかじめ想定しておくという意味のおじさん用語である。つまり気まぐれなトランプ氏が何をやるかはそのときになってみないとわからないと言っているのである。多岐にわたる可能性については原文を参照してほしい。