CNNが日米韓の共同作戦について報道している。以下抜粋だ。
アメリカ・韓国・日本が来月、共同で対ミサイル訓練を行う。北朝鮮の脅威に対抗したものだ。三か国は2014年に情報の共有協定に合意している。ハワイのヘッドクオーターでコントロールされるリムパックの一環として位置づけられている。
北朝鮮は長距離ロケットの発射実験を繰り返しており、核兵器の搭載が可能だと主張している。日本と韓国は過去の経緯から共同軍事作戦には消極的だったのだが、北朝鮮という共通の脅威があり、共同作戦の必要性を認識するようになってきている。
この訓練ではデータの追跡だけを行い撃墜訓練は行われないが、将来のもっと洗練された訓練の布石と考えられる。現在のシステムでは単発的に発射されるミサイルに対応できても、一斉射撃のような攻撃には対応できないため、THAADのようなミサイル防衛システムの導入が検討されているが、中国やロシアは地域の軍事バランスが崩れるのを警戒し、韓国がTHAADなどのミサイル防衛システムに組み込まれることを反対している。
いくつか考慮すべき点がある。第一に、最近の「個別的自衛権」「集団的自衛権」の議論はもはや無効だということだ。もう自衛隊が合憲か違憲かというレベルではないのだ。
長島昭久議員にTwitterで尋ねたところ日本はNATOのような集団的自衛構想には加われないだろうということだが、実際の軍事システムは情報の共有とオペレーションの一体化を前提に動いており、国の枠を超えている。こうしたスキームは70年前にはなかったものだ。日米韓が絡むことからNATOのような「多国籍集団的自衛」の枠組みになっているのだが、条約上は日米と日韓の条約は別建てになっている。日本国憲法の関係を考えてもこれは不自然だと言わざるを得ない。現状を容認するかどうかは別にして、現在の仕組みに付いて認識しておく必要がありそうだ。
日本人のいわゆる「ネット右翼」の人たちは韓国への蔑視感情があり朝鮮半島情勢に日本が巻き込まれることに消極的だとは思うのだが、実際には一体化への圧力が強まっているというのもポイントだろう。
次にアメリカがなぜこの訓練に熱心なのかが分からない。熱心に地域防衛をしてくれているという見方も可能だが、北朝鮮を積極的な本土(およびグアムやハワイなどの島嶼部)への脅威だと見なしている可能性がある。このCNNの報道を見ても、意図がよく分からない。本土でも見方が錯綜している可能性がある。トランプ候補は「アメリカが極東アジアを守ってやっている」と考えており、それを支持する人も多い。一方で安倍首相は北朝鮮を念頭に「アメリカにミサイルが飛んでいったら日本が守って上げます」といって、アメリカ議会で拍手喝采を浴びている。集団的自衛権の行使に期待するアメリカ人は多いのだ。
今のところ内外の議論をうまく使い分けているように見えるのだが、実際には自国防衛と他国防衛の線引きは曖昧になっている。ロシアや中国の懸念を見ても分かるとおり「米国ブロック」のようなものが極東地域で意識されている。
最後に軍事システムの複雑化が挙げられる。北朝鮮が洗練された核兵器を持つと、防衛システムを洗練させる必要が出てくる。しかし、システムが複雑化するということは導入費用も巨額になるということだ。実際にどの程度のシステムが必要なのかということもよく分からない。アメリカ一国で巨額のシステムを負担することはできないのだから、当然日本にも費用負担が求められる。現在の憲法の制限では「日本防衛に資する」必要があるのだが、実際にはアメリカ防衛の為に負担をするということになるのかもしれない。と、同時にアメリカの軍事産業は公共事業化しており(ある意味、将来起るであろう巨大地震に備えるという名目で地域に公共事業をばらまくのに似ている)その負担の一部を日本が担うということでもある。
もちろん、例え福祉や子供関連の予算を削ってでも日米同盟を積極的に堅持し韓国を含めた極東地域の防衛に積極的な貢献をするのだという意思が日本国民にあれば良いのだとは思う。しかし、実際にはそうした気持ちを持っている日本人は少ないのではないかと思う。
右翼左翼で無意味な論争を繰り広げるのは楽しいとは思うのだが、こうした議論とは距離を置いて、何が起きているのかを冷静に捉える必要がある。