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流れに乗るべきか乗らざるべきかそれが問題だ 株価4万円目前だが「安易な投資は控えるべき」と警告する専門家も

デイリー新潮が「バブルの再来? 株価4万円目前だが専門家が「投資は控えるべき」と語る理由」という記事を出している。株価が絶好調だと聞いているのに「なぜ?」とクリックしてしまいたくなるようなタイトルである。これが週刊誌の狙いなんだろうとは思ったが釣られてみることにした。結果からいうと両論併記した後でNISAの仕組み(損をしても控除が受けられない)について解説し、最後に余裕のない人は投資は控えましょうというだけの内容だ。しかし構成が工夫されており最後まで「どっちなんだろう?」と読ませる構成になっている。

記事を調べる一環としてBloombergの記事も読んだ。こちらはAIがバブルだと考えていた人たちにも「この動きを無視できない」と考えるようになったという内容だった。「知らずの米株、ウォール街の弱気派は出遅れ挽回に躍起」というタイトルである。「所詮バブル」と思っていても無視できない程度の熱狂にはなっていることがわかる。

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日経平均株価が40,000円まであと10円というところまできた。証券会社に電話が殺到しているというニュースも流れる。こんなニュースを見たら誰だって「ほう、株式というのはそんなに儲かるのか!」と思うだろう。日本人はやはり周囲の動向に敏感だ。友達から「自分は株でこんなに儲けた」などと聞けばやはり自分もやらなければいけないのではないかと思ってしまう。テレビ朝日はこう伝える。

またTBSも日本企業の稼ぐ力が回復しているから今の株高は本物であると鼻息が荒い。友達から話を聞いた後でこの手のニュースを見ると「ほらやっぱり」と思ってしまう。

そんな中で新潮は「投資は控えるべき」というタイトルの記事を書いている。その根拠が知りたくなる。非常にうまいタイトルの付け方だ。

エコノミストたちは日経平均はさらに上昇を続けるだろうと予想をしている。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストやマネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストなどの発言は強気だ。ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏は企業は業績を低めに予想するだろうからいったん株価の伸びは停滞するだろうとしているが今年後半に株価は4万円を超えるだろうと言っている。好業績を予想する人たちはバブルの株価上昇と違い今の株価上昇には裏打ちがあると主張する。当然ながら証券会社などの関係者が多く「ポジショントーク」的な色彩もありそうだ。

一方で現在の株高はアメリカの株高の流れを受けたもので長くは続かないだろうという人もいる。小林慶一郎慶應義塾大学教授などはやや冷ややかである。さらに国内企業の潜在成長率を見ていたインフィニティ合同会社チーフ・エコノミストの田代秀敏氏はバブル期に比べると日本の企業は稼ぐ力を失ったと言っている。経済産業研究所の竹森俊平上席研究員も株価と国民生活は分離していて株価だけが盛り上がっていると主張する。

新潮の記事の構成が上手なのはこの楽観論と悲観論が交互に出てくる点である。「結局どっちなんだろう」と思っているうちに最後まで読んでしまう。

アメリカにも今の株式市場はバブルだと考える人たちはいた。ところが説明がつかない熱狂が起きていて弱気だった人たちもこの流れに乗らないわけにはいかなくなっている。その牽引の中心が言うまでもなく生成AIである。Bloombergがこんな記事を書いている。

新潮の記事はこのように楽観論と悲観論の間を行き来する。最後のオチに使われているのが経済アナリストの森永卓郎氏である。「バブルなんだからいずれ崩壊する」と言っている。大恐慌まで引き合いに出して「私はほとんどの株式は処分しました」と言い切っている。

ところが新潮の記事はなぜか投資などやめてしまえとは言わない。記事の後半はなぜかNISAの紹介になっている。萩原博子氏は次のように説明する。だが、この説明を読んでもこれまで投資をやったことがない人には意味がよくわからないのではないかと思う。

つまり、通常の課税口座ならば利益と損失を相殺する「損益通算」及び、株の損失を3年間繰り越してその間の利益と相殺する「繰越控除」が可能だが、それが(新)NISAでは許されないというのである。

実は確定申告などで株価の損失を報告し経費として控除を受けるという伝統的な仕組み(繰越控除)がNISA枠では使えない。今、税務署に問い合わせると税務署は盛んにこれについて教えてくれる。かなり批判されると身構えていたようだ。ところが現在は株価が好調であるため人々はこの控除がなくなったことに気がついていないかあるいはそれほど重要視していないようだ。

おそらくこの改変が問題になるのは株価の下落局面だろう。投資で得た金を全て失っても控除が受けられない。やはり「投資の自己責任化」は進んでいるのだ。

現在の好調が崩れる可能性はかなり大きい。アメリカのAIバブルが崩壊する可能性もあるが、政府のデフレ脱却宣言で日銀の曖昧戦略の政策的根拠が失われた結果アメリカの好調な株価の恩恵を受けられなくなる可能性もある。「周りがやっているから」という理由で投資を始めた人たちは「騙された」と思うはずだ。政府ではなく証券・投資会社の窓口に「元本を返せ」とか「どうにかしろ」と言ってみても後の祭りである。

新潮の記事はその点でもうまく考えられている。株式投資は長期的な視点が必要だから投資したらほったらかしにしましょうと提案した後で貯金が100万円くらいしかない人は投資を控えた方がいいでしょうといっている。なけなしの金を投資に突っ込むと火傷(やけど)をしますよという忠告である。

森永卓郎さんは「ババを引きたくないのであれば今はやめておけ」と言っている。株価が好調なのは間違いがない。だが今株価が好調なのは「株が絶好調だ」ということを聞きつけて後から参入してきた人が大勢いるからである。つまり今株価に目をつけてももう遅いとほのめかしているのである。

実際に10月にアメリカの株が下がった時に株を買っていた人は黙っていてもだいたい17%程度の儲けを得ているはずである。さらに言えば120円近辺でこれから円の価値が落ちるということを正確に見極めることができた人もドル円だけで20%以上の儲けが出ているはずだ。おそらく長期的に株を持っていればこの先も経済が成長する限り株価は上がり続けるだろう。その意味では「ほったらかし投資」が最も確実な選択肢である。

結局、資金に余裕がない人と情報を掴むのに遅れた人たちは今のお祭りを遠くから眺めているほかないということになる。

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