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自民党岸田文雄 vs 立憲民主党泉健太 政治とカネの問題でより深く傷ついたのはどちら

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朝日新聞がいくつかの記事を出している。一つは岸田総理に関するものだ。岸田政権は元々は岸田・麻生・茂木の三頭体制だった。だが、最近の岸田さんは麻生さんと茂木さんに距離を置かれている。総理大臣のために泥を被ってくれる人もおらず党内で孤立しているという内容だ。

もう一つの記事は立憲民主党についてのものである。当初は立憲民主党の今回の抵抗は「昭和の政治」であって到底国民の支持を得られるものではなかったというタイトルになっていたがのちにタイトルが改変されたようである。共同歩調のはずの国民民主党や維新からも離反され空回りしてしまったという内容になっている。

この二つの記事を読んで率直に「なぜこんなことになってしまったのだろうか?」と考えた。結局双方共に痛手を負ったがかといって何かが解決したわけではない。さらに最後に書くように状況はかなり不安定なものになってしまった。国民の無関心は今に始まったことではないが総裁の党内での孤立は自民党の内部統治にかなり深刻な影響を与えるのではないかと思う。

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岸田総理が党内で孤立しているらしいという話はよく聞くようになった。今回の政治倫理審査会に総理大臣が自ら出席したのもその表れだとされている。特に茂木幹事長の機能不全には目に余るものがある。能力がないのかサボタージュしているのかはよくわからないが森山氏が政倫審に出席するように清和会幹部を説得しているのに茂木さんは何もしなかったなどと伝える記事もある。

前回お伝えした「デフレ脱却宣言」もおそらくその一環なのではないかと思う。岸田総理は政治的成果を宣伝し支持率の大幅上昇につなげたい。だが、世間は「なぜ今デフレ脱却宣言なのか?」とか「そんな実感は全くない」と戸惑うばかりである。総理の意図は周りに伝わらず国民の反応も総理に入ってこないという病状はますます悪化しているのかもしれない。

SNSのXで緊急アンケートを取ってみたが1/3が賛成で2/3が反対というものだった。Quoraではコメントもついたが「まだ宣言していなかったのか」という人もいれば「全く実感がない」という人もいる。反発というより当惑した人が多い印象だ。

では立憲民主党がこの状況をうまく利用できているのか?ということになる。今回の一連の騒動で立憲民主党の支持者たちはかなり腹を立てていたようだ。

政治倫理審査会は単なる弁明の場でありここから新しい情報が引き出せると思っていた人は多くなかったはずだ。当然「何か落とし所があるはず」と考えていた人も多かっただろう。

だが、立憲民主党は支持者たちの期待を煽り過ぎてしまった。1日目の審議は比較的落ち着いていたが2日目には焦りの色も見られた。状況的にはほぼ自白しているようなものだ。だがかといって決定的な自白も引き出せない。さらに岸田総理側が「禊(みそぎ)は済んだ」と言わんばかりに3月1日の強行採決に動いたことで態度を硬化せざるを得なくなってゆく。これも予想された動きだが、その後の反発を見ると立憲民主党の執行部が落とし所を検討していなかったことがよくわかる。

最も意外だったのは朝日新聞に「昭和のやり方」などと書かれたことなのかもしれない。SNSのXを見ると支持者たちの間には敵意に近い反発が広がったようだ。のちに朝日新聞は「政治倫理の継続審査を勝ち取った」と表現を軟化させた(記事のタイトルも変えたようだ)が支持者たちの怒りは収まらなかった。

今回の朝日新聞の記事は前のめりになっている立憲民主党の幹部たちと周囲の間にかなり温度差があったという内容になっている。読売新聞も「SNSで生解説」について代表のやることなのかと疑問視する立憲民主党の内部の声を伝えている。共同歩調をとっている国民民主党と維新も「このやり方は周囲の支持を得られていないのではないか」と考えるようになり結果的に立憲民主党は議会の日程闘争を諦めた。

玉木雄一郎氏はSNSのXで「日程闘争をするなら獲得目標を明確にすべきだった」と指摘している。そう思うなら事前に擦り合わせておけばいいのにとは思うが、内部にいる人たちも「落とし所は何なんだろう?」と戸惑っていたということになる。この投稿も朝日新聞と合致する。

支持者たちの気持ちはよくわかる。だが、今回なぜ立憲民主党のやり方に支持が集まらなかったのかを冷静に考えることも重要だ。

第一の理由は既に述べた。行動が何を獲得するためのものなのかを事前に擦り合わせていなかった。国民民主党との間にも連携がなかったことから政党を超えて調整をする地下水脈のような人脈がないことがわかる。

第二に日本人はやはり予定調和が乱されることが嫌いだ。

アメリカでは実は国家予算が決まっていない。共和党の強硬派が予算を人質にしている。このため数ヶ月ごとに「政府閉鎖」の危機がやってくる。さらにギリギリまで採決を引き伸ばすために議会を二週間休むと宣言してしまった。バイデン政権に「我々は休んでいるのだから何も決められません」と主張するためである。もちろんこれを嫌う人も多いが共和党強硬派の支持者たちは「議会はよくやってくれている」と拍手喝采だ。

これに比べると立憲民主党の「闘争」は非常におとなしいと言えるだろう。

最後におそらく国民は痛みを感じていない。「自分達のお金が盗まれた」と思っている人が少ない。

この背景がよくわかる質問があった。立憲民主党の女性議員が子育て支援金について「結局それぞれの家庭はいくら払っていくらもらえるんですか?」と主張していた。個別に全部教えてくれないと検討できないと言っている。いくらなんでも無茶苦茶な提案だと思うのだが、おそらく車座集会の率直な感想なのではないかと感じた。国民はすでに社会の支援を期待しなくなっている。大切なのは自分の財布からいくらなくなりどれくらい戻ってくるかである。

今回の朝日新聞の記事に対する反応を見てもそのことがよくわかる。タイトルに反応している人が多い。人々の関心は非常に狭いものになっており議論の詳細も読まなくなっている。

これを延長すると多くの人にとって持出になる政策はもう何も許容されないことになってしまう。特に少子高齢化を背景にして財源が足りないことが問題になっている現代では全ての改革は負担増につながる可能性が高い。少しでも複雑な改革は全て反対されるだろう。タイトルだけ見て「反対」を叫ぶ人が多い。

これが与野党共に創り出してきた政治不信の行き着く先だった。

国民の支持も得られず党内で孤立を深める岸田総理が今後どのような戦略で政権を維持するのかをどうしても考えてしまう。

岸田総理は党内に味方が極めて少ない。だが、総理大臣は最終破壊兵器を持っている。それが解散権だ。いつでも議会を破壊してやるぞと仄めかしつつ公認権を盾にとって人心を掌握するという手法が有効になる。いわば「あの人は何をしでかすかわからない」と周囲に思わせるという狂人理論だ。

これは政治と金の問題の党内処分についても同様である。「岸田総理に逆らうとどんな処分がくだるかわからない」と考えているかぎり清和会の人たちは表立って岸田総理に逆らえない。例えば支部長解任=公認しないというのは政治家にとっては死を意味する。

ただし恐怖政治にはいくつもの弊害がある。おそらくネガティブな情報は一切岸田総理には上がってこなくなるだろう。場当たり的な指令を繰り返しつつ支持率が長期低迷を続けているのに議員たちは動くに動けないという状況だ。これが自民党にとって良い影響を与えるとはどうしても思えないのだ。

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