ガザ地区で支援物資を待っていた人たちにイスラエル軍が発砲し100名以上が亡くなった。日本でもニュースになっているのだが「一体何が起きたのか情報がなくてよくわからない」というようなあいまいな扱い方をされている。アメリカ合衆国のバイデン大統領も同じ考えのようで情報が入ってくるまで内容はわからないとしている。バイデン大統領はウクライナとガザの区別もよくできなくなっているようだ。
国連の調査ではイスラエル軍が群衆に発砲したことまでは分かっている。イスラエル軍の残虐さがよくわかる動かぬ証拠である。今回の事件からは3つのことがわかる。
- ガザ地区の人々の飢えは究極の状態になっている。
- イスラエル軍は残虐な行為について良心の呵責を感じていない。これは心理的にかなり異常な状態だ。
- 国際社会はこの状況を解決できていない。
パレスチナ自治区ガザ地区の保健省は2月29日にガザ地区北部で食料や支援物資を持っていた人たちに向けてイスラエル軍が発砲し少なくとも112名が死亡したと主張した。負傷者も760名おりかなり大規模な発砲があったことがわかる。マンスール国連大使はイスラエルでは民間人の殺害が行われているとした上で即時停戦を求めている。CNNがまとめているが他のメディアの情報にもこれに矛盾するようなものはない。小麦粉などの食料を求める人たちが多数亡くなったとBBCはその痛ましさを短い映像にまとめている。
イスラエル軍は「支援車列に人が群がってきたのでそれを解散させるために警告射撃を行った」と説明している。つまり治安維持の一貫だったという。だが国連は多くの負傷者や死者はイスラエル軍に銃撃されたとしている。運び込まれる患者や遺体に銃槍が向けられた跡が確認されたそうだ。また大勢の人がトラックに轢かれたとする証言もある。
国際社会からの即時停戦圧力が高まっていたがアメリカは拒否権を使い訴えをブロックし続けている。確かにすでにイスラエルを含む和平合意ができておりハマスに提示されている。しかし、今回の件で3月4日までの合意形成は難しくなったとバイデン大統領は悲観的な見通しを述べた。3月10日からはラマダンも始まるため早期の停戦がなければアラブからの反発はますます強まることが予想される。
ガザ和平交渉は大統領選挙とリンクしている。トランプ陣営はバイデン大統領の政策は失敗したと言いたいがバイデン大統領は自分の努力で和平が実現したことを証明したい。ところがこのように次から次へと問題が起きるため和平交渉は遅々として進まない。もはや手詰まりといった状態である。
とにかく今そこにある危機をなんとか打開しなければならない。
バイデン大統領はアメリカ合衆国が自ら物資を大量に届けることができないかを検討し始めた。ただし空中投下が実施されても「やっている感」の演出にしかならないだろうというのが関係者の見立てのようだ。抜本的な解決は陸路による支援物資の運び込みであるがその見通しは立っていない。
バイデン政権は当然ガザ地区に米兵を送ることに対しても消極的な姿勢だ。初回に投下された食料は3.8万人分だった。ガザ地区の人口は220万人でありその多くが極限状態の飢餓に晒されていることを考えるとまさに焼石に水だった。しかしアメリカ合衆国にはイスラエルを支援することでガザ地区の人々を犠牲にしているという良心の呵責がありもはや何もしないという選択肢はなかったのだろう。ただバイデン大統領はウクライナとガザ地区の区別がつかなくなっている。先日はエジプトの大統領とメキシコの大統領を間違えており一連の状況を持て余しているのは明らかだ。
ガザ地区では食料が不足しておりお腹を空かせた家族たちはサボテンを葉っぱを食べて飢えを凌いでいる。実は食べることがあるそうだが葉っぱは他のものとまぜて家畜の餌にするしかないような代物だそうだ。日本であれば小学校に行っているような子供たちも家族のために食べ物を探して一日中歩き回るそうだが、手ぶらで帰ることも多いとBBCが伝えている。それでも家族がいて生きている限り諦めることができない。そんな状況である。
UNRWAがハマスに関与していたという疑惑はまだ解消されておらず国連の支援が滞っている。北部の状況はさらに悲惨だ。そもそも治安が崩壊しており国連の支援が全く到達できない。
日本ではTBSがこの問題について熱心に伝えている。ある番組では「ロバの餌を食べている」という現地の声を伝えている。
TBSで最近までガザ地区を取材していた記者のXアカウントには連日心無い投稿が寄せられていた。こうした投稿を寄せる人たちもおそらく感情的にかなり飢えているのだろう。日頃の自分の憂さを紛らわせる材料を一日中血眼になって探している。記者は最近まで真摯に彼らに対して対応していたが投稿に対する攻撃はエスカレートするばかりだった。ガザ地区の人権状況もかなり悲惨なことになっているのだが実は日本の言論空間もかなり救い難いことになっている。実際の飢餓と精神的飢えの間には大きな隔たりがあるが、熱心に対応していた記者はガザ地区の状況をただ見ているしかない状況に絶望しつつ日本人の精神的飢えにも対応できないと悟ったようである。
今回の一件でもう一つ明らかになったのがイスラエル軍の感情の麻痺だ。戦争の過酷さがわかる。
今回の北部での悲劇についてBBCはイスラエル軍のドローン映像を交えて次のようにまとめている。一日中お腹を空かせて支援を待っていた人たちがいた。トラックは夜明け前に到着し人々の食料を配ろうとしていた。いきりたった人々がトラックに殺到するとイスラエル軍が発砲したというのだ。
そもそもイスラエル軍はなぜドローン映像を公開したのか。
もともとハマス側が「戦車で人々を轢き殺している」と主張していたようだ。そこでイスラエルは説明を迫られた。そこで世界に向けて「なぜガザの人々はおとなしく食料を待てないのか?」と批判したというわけだ。イスラエル軍こそが危機に瀕していて仕方なく人々を銃撃したと言っている。
食べ物も将来の展望もない人たちに「おとなしく列を作らなかったから殺されて当然」と言っていることになる。置かれた環境次第で人はどこまでも残酷になったり愚かになったりするものだ。
アルジャジーラの英語版の記事をざっと見るとイスラエルは元々支援トラックを収奪しようとした暴徒を鎮圧するために攻撃したと説明していたようだ。だがSNS時代に完全に情報を隠蔽することなどできない。そこでトラックで支援物資を運び込もうとして騒ぎになり仕方なく発砲したと説明を変えている。これに対して国連やフランスなどは独立した調査を求めているというが当然ながら実現の見通しは立っていない。
確かに凝視しても状況が変わるわけではない。だが、それでも我々は状況を見続けなければならないと思う。そしてその先にテレビカメラのない他の地域があるということも想像してみるべきなのかもしれない。人はどこまでも愚かになることができるし、我々はそれを解決できていない。