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静かに進む少子化対策における国民の負担増議論 政府の説明のどこに「嘘」があるのかを調べてみた

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国会が劇場化している。与党は政治とカネの問題について説明するつもりがなく野党も本気で戦うつもりはなさそうだ。実はその裏で少子化対策費用の負担増議論が進んでいる。議論がわかりにくいこともあって人々の関心は高くない。そこにわかりやすい与野党対決の構図が持ち込まれたせいでさらに議論が埋没した。結果的に劇場化した裏金国会は国民の将来負担増に道を開くものになっている。

将来何もしないと負担が増える。玉木雄一郎氏によると具体的には4兆円増えるそうだ。これを仮に1兆円減らすことができればそれが財源になると政府は言っている。つまり4兆円増は自然増加であって政府のせいではないから関係ありません。これが政府の説明だ。もちろん国民負担は増えている。だからお財布から出てゆくお金は増える。でも岸田総理はそれでも「実質的な負担は増えません」と説明している。

さすがに官庁はこの説明に無理があることがわかっているようだ。だが、岸田総理が「実質負担ゼロ」と言ってしまったために官庁は異議を唱えられなくなっている。裏金国会が盛り上がりを見せる中「そんなことより中央公聴会の内容を聞いてくれ」と情報発信している議員もいる。

当初これについて調べるまで「おそらくどこかのメディアが内容をまとめているだろう」と思っていた。だが、誰もまとめている人がいない。ただ本能的に「実質負担ゼロ」が虚偽であることはわかる。だからこのままでは国民は子供を作らない方向に流れてゆくだろう。わからないなら何もしないのが一番である。

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しくみは3層になるのでこれを一つひとつ紐解いてゆく必要がある。

  1. 将来の負担増を少し減らして「新しい財源」のように見せている。
  2. あるかないかわからない賃上げを導入しインフレを無視している。つまり実質賃金が下がることは想定していない。
  3. 社会保障の仕組み(受益と負担のリンク)を壊そうとしている。

マスコミが記事をまとめていないのでSNSのXを調べてみたのだが情報が混乱している。実質所得は下がっているのだから負担増になるだろうとするものが多い。名目賃金と実質賃金の話がごっちゃになっているようだ。

そのうちに国民民主党の玉木雄一郎さんのXの投稿が見つかった。当初は何が書いているのかさっぱりわからなかった。玉木さんも「何が何だかわからない人がほとんどだろうが」と言っている。

落ち着いて読んでみると次のようなことが書いてある。当然玉木さんの説明なのでマスコミはこの内容を検証する必要があるだろう。

  1. 歳出改革をしないで放置していると社会保障費は74兆円(2028年)になる
  2. これを73兆円に抑制したとする(仮定)
  3. すると1兆円抑制できたことになる。
  4. この「仮定で浮いた」1兆円を子育て支援に回す
  5. だから実質的な負担は増えない

問題は2つある。自然増で負担は増える。つまり国民のお財布からは実際にお金が出てゆく。これを1兆円抑制したところで負担が増えることに変わりない。さらにそれを別の予算の財源として使うと言っている。今はそのうちの1兆円分の新しい負担について話をしており、その時点ですでに「一人平均500円の追加負担が必要である」と試算している。つまり4兆円自然雑になったら誰からいくら持ってくるつもりなのだと疑いたくなる。

さすがに玉木さんの発言をバックアップなしで採用するのは危険なので裏どりをした。東京新聞に記事があった。「帳尻合わせ」だと書いている。つまり単なる仮定なので1兆円が捻出できない可能性もあるということだ。

独自の解釈によって、28年度までに必要な「支援金約1兆円」と同等の負担軽減ペースになるよう帳尻を合わせた。政府が説明で多用する「実質的な負担軽減効果」は、少子化対策の財源確保策として新たに設ける「支援金」を徴収するにあたって政府が打ち出した概念。

東京新聞と玉木説には違いがある。玉木さんは4兆円増えると言っているが東京新聞はそれは書いていない。グラフを見ると単純に1兆円削減できるようにも読み取れる。東京新聞が問題にしているのは実は別の点だ。「医療従事者に対する賃上げの原資」である。これは今回の試算から除外していると書いている。

そもそも仮定に過ぎない歳出改革の中に「医療・介護従事者の賃上げなどで生じた負担」は加えないとしている。医療従事者の賃上げも行うが他の人たちの給料も増える(はず)なのだから、それは計算に入れないでいいでしょうという理屈らしい。その一説がこちらだ。

厚労省では、毎年度の保険料の軽減効果を「歳出改革による負担軽減額」と「(保険料引き上げにつながる)制度改正による追加負担額」の差で算出。追加額のうち、医療・介護従事者の賃上げなどで生じた負担は除いて計算した。担当者は「賃上げには保険料収入が増える効果があるので、そのための負担は除外する」と説明した。

つまり、そもそも仮定である歳出削減にさらに仮定である「給料は全体的に増えるはずだ」という想定を入れている。またインフレによる給料の目減りについては考慮していない。そもそも歳出削減が仮定なのでこの時点でもう何が何だかわからないことになってしまっている。

なぜこんなことになるのか。それは総理大臣が「実質負担は増えません」と言ってしまったからである。岸田総理お馴染みの「突発性決断症候群」の副作用である。この場合は「突発性いい切り症候群」ということになるかもしれない。そのために内閣の他の閣僚が「負担が増えます」と言った途端に閣内不一致が起きてしまう。

賃上げについては別の懸念もある。東京新聞に別の記事を見つけた。共産党が賃上げのない高齢者の負担について心配している。これについても岸田総理は「実質的な負担は増えません」と言っている。とにかく「実質的な負担は増えません」と言っておけばなんとかなるという考えのようだ。だが具体的な支援策については一切触れていない。閣内不一致を避けるため武見厚生労働大臣は「実質的な負担増にはならない」と書いている。政倫審と同じような構図で「ほぼ認めるのだが最終的には認めない」という姿勢になっている。

15日の衆院予算委員会。共産党の宮本徹氏は、歳出改革によって医療や介護の公費による支出が減る分、利用者の自己負担は増えると主張。武見敬三厚生労働相は「一定の負担が増える世代層が特に高齢者層に出てくる」と認めたが、「実質的な負担増とはならない」とも強調し、首相と同じ主張を繰り返した。

このようにそもそも仮定から始まっている。そこに仮定の賃上げや仮定の支援金などの「想定」が次々に出てくる。具体的なことがわかる人は誰もおらずおそらく総理大臣にもわかっていないのではないかと思える。

この文章をここまで到達できた人はかなり少ないと思うのだが実はまだ続きがある。それは保険制度についてである。国民民主党と維新は実は別の心配もしている。人々が政治とカネの問題と大谷翔平選手の結婚に夢中になっている間に予算委員会の締めくくり審議が行われた。それをNHKが伝えている。

内容を理解するためには解説が必要になる。社会保障が税から切り離されている理由は「負担をするひととサービスをする人が一対一で結びついているから」である。健康保険の場合は健康保険料を払っている人(負担)がいざという時に医療費の補助(受益)をしてもらえる。政府はここに「少子化対策」という別の受益者を持ってこようとしている。これをやられると「誰がいくら払って、誰がいくら受け取っているのか」がわからなくなってしまうのである。

これを受益と負担のリンクと言っている。維新と国民民主党はこれが破壊されることを懸念しそれに反対する専門家を呼んできた。だがマスコミはこの話題をスルーした。大谷さんと政治とカネの問題で急がしかったからだ。

日本維新の会と教育無償化を実現する会が推薦した学習院大学教授の鈴木亘氏は、少子化対策の財源として公的医療保険を通じて集める支援金制度について、「社会保険は、医療なら医療、介護なら介護と、受益と負担がリンクしているのが原則だが、子育て支援はそうではない。支援金制度は社会保険制度を壊しかねず考え直したほうがよい。子育て負担の新たな税制や保険を作るのも1つの手だ」と述べました。

国民民主党が推薦した日本総合研究所理事の西沢和彦氏は、少子化対策の支援金制度について、「年収の低い現役世代にとっては、所得税、住民税より社会保険料の負担のほうが重い。そこに、さらに支援金を上乗せしていいのか。負担と受益がリンクするからこそ納得感が伴う。租税のほうが公平だ」と述べました。

東京新聞の記事にも西沢氏のコメントが紹介されており、一部では問題になっていることがわかる。

西沢氏は「歳出改革で社会保障給付費を抑制した際に自己負担が増えれば、それは『負担』だ。医療や介護の人材不足や質の低下が起きれば、それもサービス低下という『負担』になる」と指摘。その上で「負担がないことを是としていること自体が間違っている。正直に負担内容を説明し、給付と負担が見合うかどうかを国民に問うのが政治の責務だ」と話す。

実は同じような議論はすでに年金で行われている。年金は元々積立方式だったが徐々に行き詰まってゆく。そこである時期から「世代間の仕送り(賦課方式)ですよ」という説明に変わった。これが現在の年金議論が分かりにくい原因だ。年金を払いたくないという人が多い理由の一つに賦課方式があるがこれを止めるためには長い時間がかかると考えられている。

劇場型の政治は確かに面白おかしい。誰が吊し上げられるとか、国会議員徹夜して議論するかしないとかそんな話題である。だが実はそれは壮大な目眩(くらま)しに過ぎない。

詳しい仕組みはわからずとも「なんとなく政府に騙されているなあ」と実感している人は多いのではないだろうか。色々な調査を読むと「子供はお金がかかるからもういらない」と考えている人が多いという結果になっていることが多い。

例えばその一例としてロート製薬の調査では55.2%が子供が欲しくないと答えているという。調査を始めて4年だそうだがその割合は年々増加傾向にあるそうだ。

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