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アメリカの「保守主義者」の集まりCPACが大盛り上がり 民主主義の破壊宣言や陰謀論が飛び交う

アメリカ合衆国でCPACが行われた。元々は保守主義者の集まりだったそうだが最近ではトランプ氏を信仰する人たちの集まりになっている。大統領選挙直前ということもあり今年は特に「トランプ再戦」で大いに盛り上がった。

「民主主義を転覆しろ」という発言はスティーブ・バノン氏のセッションに参加したジャック・ポソビエツ氏から飛び出した。ジャック・ポソビエツ氏は極右の活動家と紹介されている。彼のいう民主主義の定義が何なのかはわからないが、おそらくは1月6日の議会襲撃を指しているものと思われる。その後に「議会ではなく神の声に従うべきだ」と主張している。つまり現在の多文化化したアメリカ合衆国を受け入れず自分達の宗教的・道徳感情を優先すべきだと言っている。

トランプ氏も「11月の大統領選挙は最後の審判の日になる」と主張する。民主主義という敵が滅ぼされ神に守られた自分達の正義が実現するであろうという予言だ。

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アメリカはイギリスの王権から逃れてきた人たちが作った民主主義の総本山である。このためポソビエツ氏の「民主主義を転覆する」という発言は民主党支持者や中道の共和党支持者からの非難を受けている。国是を否定するような発言だからだ。このNewsweekの記事もその一つである。だが、下のメーターを見ると「この記事は著しく左に傾いている」との評価を受けている。民主主義そのものが「著しく左に傾いたものだ」と考える人もまた増えている。

今、共和党の支持者に何が起きているのか。ニッキー・ヘイリー氏が地元のサウスカロライナでトランプ氏の敗北した背景をCNNが分析している。

サウスカロライナの有権者は4割がMAGA運動の一員であると自称しておりバイデン大統領が正当な勝者だと認める人は1/3しかいなかったそうだ。大卒以上の人たちの半数はヘイリー氏を支持しているが、高卒以下だと3/4がトランプ氏を支持している。彼らは何かと戦ってくれる大統領を求めておりヘイリー氏よりもトランプ氏の方がそれにふさわしいと考えているようだ。

このCNNの記事で最も顕著なのが以下の項目である。「全体の経済」が悪いと答えている人が多く現状にも怒りを覚えている。だが「ところであなたの経済状態はどうなんですか?」と聞くとほとんどの人が「いや私の経済状態は大丈夫です」と答える。何かがうまくいっていないが「恥」の意識がありそれを表に出せないのであろう。

サウスカロライナ州の共和党予備選挙に投票した有権者全体でみると、約40%が移民問題を最大の争点として挙げた。経済問題を争点として挙げたのは約3分の1、外交政策または中絶問題を挙げた人はごくわずかだった。90%近くが国の現状に不満を抱えており、40%以上が怒りを覚えている。経済状況が良好だと回答したのはわずか6人に1人。だが家計の状況については約80%が良好、またはどちらとも言えないと回答した。約60%は安定した家計状況が続いていると答えた。

不満を持っていて怒りすら覚えているがそれを表立っては言えないという人が多いことがわかる。この内面的な怒りを解消してくれるのがおそらくはトランプ氏なのである。トランプ氏はCPACで自分は誇り高い反体制派であると宣言した。

トランプ氏は「私たちは今地獄にいる」と主張する。バイデン大統領が民主主義に脅威を及ぼしているからである。だがそれももう終わるだろうとも予言している。自分が大統領に再選されればそれは支持者にとっては「解放の日」になり政敵にとっては「審判の日」になるからだ。

これは聖書のヨハネ黙示録を踏まえた発言だ。キリスト教では世界の終わりに審判の日がやってくる。この時に悪者は地獄に堕ち正しいものだけが救われるというわけだ。

ただトランプ氏は単に天から審判が下るとは言っていない。去年のCPACでは次のように言っている。

トランプ氏は昨年のCPACで「皆さんのために報復する」と述べ、今秋の大統領選に向けたその後の遊説で同様の主張を展開してきた。

過去にも就任初日は独裁者になると主張しており批判を浴びていた。つまりトランプ氏はあなたたちのために今の社会システムに報復してあげると言っている。この正当化のために利用されているのが聖書と道徳だ。おそらくトランプ氏が大統領になれば日本をはじめとする同盟国に対しても同じような主張を展開するだろう。

そんな大盛り上がりのCPACでは他にもスターが誕生した。それがトラス前首相だ。CPACに集う保守派たちは「ディープステートセオリー」を展開している。イギリスなどの影響を受けたディープステートたちが闇からアメリカ人を搾取しているというような理屈である。トラス首相はこれに合わせて自分は優秀な首相だったがディープ・ステートに貶められたと主張した。選挙に敗れたのを認めたくないトランプ氏と同じ理屈である。毎日新聞の記述だ。

トラス氏は今月22日、米東部メリーランド州で行われた「保守政治行動会議(CPAC)」に参加。その際、トランプ氏の側近だったバノン元首席戦略官とのテレビ対談にも出演し、「私は減税や小さな政府を望んだが、英国の支配層は現状維持を望んだ」と語った。さらに英紙フィナンシャル・タイムズを手に取り、「彼らはディープステートの友人だ」と述べ、自身を辞任に追い込んだのはこうした既得権益を守る層だと主張した。

この発言ではイギリスではかなり深刻に受け止められている。仮にも首相を経験した人が外国に行って陰謀論を仄めかすとは何事かというわけである。だがトラス氏は既に首相を辞任してしまっておりある意味「無敵の人」状態になっている。彼女にはもう失うものはない。

もう一人の出席者がアルゼンチンのミレイ大統領だ。ミレイ氏は世界が危機にあるのは社会主義のせいだと主張し、トランプ氏と共に「アルゼンチンを再び偉大に」と宣言したそうである。

日本では「もしもトランプが再び大統領になったら」と語られることが増えた。インフレが加速するのではないかとか同盟国との関係が危なくなるのではないかというようなことが語られている。だがその背景に民主主義に疲れた人たちが多くいてその支援を受けた指導者も増殖している。確かにCPACは極端な人々の極端な集まりにしか過ぎないがそれでも世界の民主主義がどんな危機に直面しているのかをわかりやすく我々に示している。

理念に疲れた人たちは道徳や宗教に傾斜するようになり「戦い」にこだわるようになるのである。

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