政治倫理審査会の開催が迫っている。自民党は議員の傍聴は認めるが議事録と記者の同席を認めない方針だ。何を恐れているのかはよくわからないがとにかく何らかの理由で証拠を残したくないらしい。なんとなく「太陽にさらされるとひからびてしまうのか?」と言った風情である。
清和会の清算チームは裏金を一度返金してもらい寄付をするという新しい方針を打ち出したようだ。これまでの説明は「適切に使用されているはず」というものだったのだから死蔵されている還付金などないはずだ。自民党全体の方針と清和会清算チームの提案は明らかに論理矛盾を起こしており「ほぼ自白した」と言って良いだろう。
鈴木財務大臣は納税は議員個人の判断としており国民からの反発が強まっていたが、中小事業者の集まりである全国商工団体連合会が国税庁に対して税務調査を依頼した。仮に死蔵されている資金があるとすればそれは「所得」であり税務上の処理が必要になる。裏金の逆還付提案が清和会清算チームから出ていることを知りながら国税が何もしないということになれば財務省は職務怠慢で公務員義務規定に違反するのではないか。野党はこの辺りをきっちり整理した上で政府が適切に処理するようにきちんと監視すべきだろう。
政治倫理審査会の議論が迷走している。野党が予算審議の日程を人質に政倫審を要求してきたため自民党は応じざるを得なくなっている。しかしながら自民党側はマスコミを入れて記録を残すのは絶対に避けたいと考えているようだ。証拠を残したくないのはやましいところがあるからである。
野党の追求を恐れている可能性もあるが、おそらく本当に恐れているのは検察審査会なのではないかと思う。一応不起訴ということになっているのだが検察審査会に審査請求が出ている。ここで証拠を残してしまうと今後の審査に影響が出かねない。ただこうしたメンタリティに陥るのは「自民党」に何かやましいことがあるからだろう。
ではこの「自民党」とは一体誰なのか。
これがわかるのが脱然問題だ。こちらもほぼ自民党は「自白」している。政治資金としてもらったお金は使い切れば政治資金だが使い残せば所得に当たる可能性がある。所得は当然申告する必要があり申告しなければ追徴課税される。これが「裏金脱税」問題である。
これまで岸田総理は「各議員が適切に処理をしている」と「認識」していると説明していた。鈴木財務大臣は「各議員が判断することだ」と発言しSNSのXで炎上する。仮に適切に処理されているならば特段の措置は必要がないはずなのだが、安倍派の清算チームは「使い残した還付金(裏金のこと)を返してもらえればこちらで処理しますよ」と持ちかけている。「処理」は寄付などを想定しているという。
つまり自民党全体の説明と清和会の実処理が矛盾している可能性がある。こうなると公開に反対しているのは清和会で岸田総理はそれをコントロールできていない可能性が高いのではないかと思う。
今回の件で最も怒っているのは中小の事業者のようだ。インボイス制度が始まり電子帳簿の導入も求められている。中小業者はシステム対応などで出費を迫られていることだろう。にもかかわらず議員たちは帳簿の付け方も税務処理も極めて杜撰である。ついに中小事業者が加盟する全国商工団体連合会が国税庁に税務調査を依頼するまでになった。
この試算を踏まえて全商連は要請書で、中小業者には厳しい税務調査が行われる一方、申告・納税しない政治家を放置すれば「税務行政に対する信頼は失われ、納税意欲にも悪影響が及びかねない」と指摘した。政党から党幹部ら個人に渡され、使い道を明らかにしなくていい「政策活動費」と合わせて調査するよう求めた。
清和会の対応は「所得として算入の対象になる使い残しの存在」を示唆するものになっている。つまりこれはほぼ周知の事実だ。仮にこの周知の事実を知っていながら国税庁が何もしないとなると職務怠慢になる。つまり公務員の職務義務違反に当たる。野党は当然鈴木財務大臣に対してこの点を強く質すべきだろう。
野党が厳しく追及しても政府が守っている限り議員が逮捕されることはない。このため「こんなことをしても無駄なのではないか」と思っていた。だが、どうもそれは違うようだ。世間の自民党議員に対する視線は日に日に厳しいものになっている。こうなるとSNSのXなどで一挙手一投足が全て監視対象になってしまう。いわゆる「針の筵(はりのむしろ)」という状態だ。民主主義から逃れるのは容易だろうが日本の村落的な縛り合いから逃れることができる人は誰もいない。
そんな中で「反主流派」の動きも加速している。まず、二階氏と菅氏が会食をおこなっている。
石破茂氏も予算委員会で質問に立ち総理大臣に論戦を挑んだ。選挙で政権交代が実現することはないが、総裁選で疑似政権交代が実現する可能性は低くない。石破茂氏の戦略は裏金には触れずに安全保障や防災などの「安全安心」で国家観を示すことで次期総理としてのプレゼンスを確保することにあったものと思われる。岸田総理の表情は終始不満気であった。
次期総裁選の前哨戦なのかと聞かれ、本人はそんなつもりはないと否定したようだ。だが、いつ何があってもいいようにと準備をするのは「たしなみ」であると独特の表現で意欲を滲ませているという。
石破氏は予算審議のテレビ中継では質問者の背景に映り込むという「ベスポジ(ベストポジション)」を確保している。この日も国民民主党の斎藤アレックス氏の防衛に関する質問に対してさながらワイプ芸のような表情で後方支援をおこなっていた。おそらく石破氏と近い考えなのだろう。
この日の国会論戦にはいくつかの注目ポイントがあった。斎藤アレックス氏は現在の情勢を踏まえ「アメリカの民主主義が有事の際に日本の期待に応えてくれない可能性もあるが」と総理大臣の認識を質していた。斎藤氏の要望は「だからこそ日本は独自防衛を進めるべきだと国民にきちんと説明して欲しい」というものだった。維新の別の議員は「少子化対策において国民負担が増えない」という厚生労働省の説明は破綻していると主張した後で「そんなややこしい論理を持ち出すくらいなら正面から「少子化対策に協力してくれ」と国民に正面から訴えて欲しい」と要望していた。そしてそのためには政治とカネの問題をきちんと処理すべきであると迫っていた。
至極もっともな要求であり提案だ。
いたずらな政局質問に頼らず「必要な負担があるならばそれをきちんと説明して欲しい」が「そのためには政治が国民から信頼されていなければならない」と考える真面目な野党国会議員も増えているようだ。だが、これらの一連の質問はマスコミからは無視されていて独立したニュース記事になっていない。政治記者たちの注目は今後の政局にばかり集中していると言った印象だ。
あるいはこのマスコミのある種の怠惰さもまた糾弾されるべきなのかもしれない。