柿沢未途氏の公職選挙法違反事件を受けて東京15区では4月に補欠選挙が行われる。政治とカネの問題が争点になるはずなのだがどうも様子がおかしい。日本の政党は既に政策立案ができなくなっているがついに候補者選定もできなくなってしまったようだ。各政党の候補者選定が「お祭り状態」になっている。なかでも、国民民主党のラウンジ騒ぎと自民党の小池頼みが注目を集めているようだ。
本来なら「有権者は政策に注目して候補者を選ぶべきだ」と書きたいのだが、もはやそんな理想論を掲げたとて何の意味もないほど政党の候補者選定機能は劣化している。
国民民主党から立候補を予定していた高橋茉莉氏が出馬を取り消す事態になっている。立教女学院から大学まで進学する予定だったが父親の会社が倒産して生活が困窮した。この頃に生活保護を受けていたものと思われる。その後、奨学金をもらい慶應の文学部を卒業しアナウンサーとして活躍した後にアクセンチュア勤務を経たという経歴なのだそうだ。
「キャラ」としては申し分ない気がする。
だが、高橋さんが主張するところによれば党側は「ラウンジ」勤務を理由にして辞退を求めてきた。国民民主党側はこれを否定しており「改めて記者たちに説明する」と言っている。また高橋さんには「生活保護を受けながらラウンジに勤務していたのか」などの批判が殺到しSNSを閉鎖する騒ぎになっているそうだ。「キャラ」が立ち過ぎたのだろう。
- 国民民主から立候補断念強要と主張の高橋茉莉氏がX全削除、生活保護不正受給?「法令抵触恐れ」(日刊スポーツ)
- 元フリーアナ、「生活保護を受けながらラウンジ勤務は事実ではない」 涙で暴露から一転「政界を引退します」(中日スポーツ)
国民民主党側の運営や候補者選びに問題があったことは間違いがない。政策よりも「こういうキャリアが有権者に受ける」というキャラ重視の姿勢が招いた問題であろう。ただし、そもそも国民民主党に決まった政策的ポジションがない上に有権者も政策より分配に期待をする傾向がある。有権者の側にも「自分と似た人の方がより多く分配してくれるだろう」という期待もあるわけで、党の候補者選びの問題であるとばかりは言い切れないのかもしれない。
では自民党の場合はどうか。こちらはもっと酷いことになっている。読売新聞に記事があった。
八王子の市長選挙では萩生田氏が応援する候補が辛勝した。「萩生田さんは政治とカネの問題で反省していないが小池百合子さんが加われば匂いが消える」と自民党本部は考えたようだ。キツイ匂いがする肉にハーブを混ぜれば美味しく食べられるというような作戦だ。
八王子市長選挙は小池百合子氏が候補者支援をすることで勝てたのだから、東京15区も同じやり方をすれば勝てるかもしれないというのが自身にも政治とカネの問題で疑惑のある小渕優子選対部長の方針だ。
一部では小池百合子東京都知事自身が鞍替えするという観測もあるようだが田崎史郎氏は可能性は低いのではないかとみているようだ。岸田総理は続投が難しいと考えられており、小池氏が今このレースに参入したとしても総裁になる見込みが立てられないからだろう。総理大臣になれず単に一議員になるくらいなら都知事を継続した方が存在感をアピールできるはずというのが田崎さんの読みのようである。今混乱する自民党に戻って「ハーブ」になっても仕方がないということもあるのかもしれない。
さらに自民党本部は公明党の支援も重要だと考えているようである。自民党東京都連の高島直樹幹事長(2023年10月に亡くなっている)は足立区が地盤だった。公明党は足立区に新設される東京28区を自分達の縄張りにしたいという意向だったのだが高橋氏がこれに反対し公明党は候補の擁立を諦めたと考えられている。
これがきっかけとなり東京都連と公明党の関係が悪化する。一旦は東京での選挙協力が解消されるところまで冷え込んだが、茂木幹事長らが必死に取りなしなんとか選挙協力体制を復活させた。こうした経緯があり「公明党との調整なしに候補者を決めることができない」ということになっているのだろう。
それぞれの事情はよくわかる。だが、よく考えてみれば単なる政党同士の縄張り争いに過ぎず政策とは全く関係がない。
日本の有権者は「改革」を望むことがあるのだが、本音では大きな変化は望んでいない。このため政策では違いを出せない。自民党の東京都連は狭い縄張りにしか目がゆかず全体像や地元の有権者が見えていない。結果的に政策も有権者も不在になり「誰を候補者にするのか」というキャラの問題と政党の縄張りばかりが取り沙汰されることになってしまう。そしてそれが全てSNSによって拡散されてしまうのだ。
読売新聞は東京15区の状況を次のように書いている。候補者は多いが政策的にはどれも変わり映えがしないという選挙戦が展開されるのかもしれない。
野党では、東京15区補選を巡り、日本維新の会、共産党がすでに公認候補予定者を発表した。立憲民主党も擁立を模索しているほか、野党系の無所属参院議員の出馬も取りざたされ、乱立の様相を呈している。
小選挙区制のもとでは実質的に当選する候補者が少なくなりがちでありかつ負けても比例復活がある。このため個人的には「候補者が少なく有権者には選ぶ権利がない」との不満を感じる。だが候補者が多くなったとしても「誰を選んでも変わり映えがしない」という状況がさほど変わることはないんだなあと感じた。