日経平均が最高値を更新した。AIブームを背景にしてアメリカの半導体メーカーNVIDAの業績が好調だったことを受けた流れとされている。日本経済は好調な株価・企業業績と疲弊する国民生活の二重状態にある。植田日銀総裁は国会で「もはやデフレではない」という認識を示しており「デフレマインド」が続く国民生活は切り離されようとしている。
このまま好調な株価が続くかどうかは全てアメリカの金融政策次第だが岸田総理は株価が動き出したのは自身の政策が金融市場に評価されたからだという楽観的な見通しを示した。もはや周りが全く見えていないことを示す「認識」といえるが、国民はしばらくはこの総理を所与のものとして自分の生活を防衛しなければならない。
日経平均が終値でバブル期に記録した3万9098.68円を記録した。34年ぶりの高値更新になる。今回の株価更新を支えたのはAI需要に支えられた半導体株だった。
NVIDIAといえばパソコンのグラフィックボード製造会社だというイメージがある。Quoraで質問したところ次のような回答があった。
NVIDIAは元々パソコンのグラフィックボードを作っていた会社だ。CPUを改良しパソコン向けのGPUという概念を提唱した。このGPUで生成AIを演算させたところ飛躍的な性能を示した。これがきっかけとなり生成AIにおけるNVIDIAの地位は揺るぎないものになった。
前年同月比で8.7倍の純利益を得たことからAIブームが持続性のあるものであるということわかる。
NVIDIAの業績が市場予測よりも良かったことで「AIブームは本物なのだろう」という認識が生まれ関連株も買われたというのが今回のバブル超えの真相だったようだ。東京市場では東京エレクトロンやアドバンテストなどが買われているという。もちろん中国経済の不調を理由にチャイナマネーが東京やニューヨークに流れ込んだという要因もあるものと思われる。
純粋な株式投資の視点から見ればこのAIブームが一過性のもので終わってしまうのかあるいは持続性があるものなのかという点を評価しなければならないということになるだろう。2000年ごろの「インターネットバブル(英語ではドットコムバブル)」の時にも同じような傾向はあった。確かにインターネットは単なるブームではなくその後の経済を大きく変えた。だが、やはり株式市場はバブル状態であった。この時に容易に資金を集めることができた会社はのちにその多くが倒産の憂き目にあっているとされる。
その意味では岸田総理の認識は随分と自分勝手という気がするが、もはや岸田総理の「認識」にたいしたニュース価値はない。総理の頭の中ではそういうことになっているというくらいの印象である。共同通信によれば次の通り。
岸田文雄首相は22日、日経平均株価の史上最高値更新に関し「賃上げや投資促進、科学技術イノベーションに力を入れてきた。日本経済が動き出している。国内外のマーケット関係者が評価してくれていることは心強く思う」と強調した。官邸で記者団の質問に答えた。「デフレ脱却に向けて官民の取り組みを加速させたい」とも述べた。
いちいち反論するのも面倒なので問題点だけをおさらいすると次のようになる。
- 国民生活と企業業績・株価が乖離している。企業業績が良くても国内消費が伸びないため結果的にGDPの成長は停滞・縮小する。
- 製造業に代わる新しい産業が生まれていない。これまでの伝統資産などを細々と活用する観光のような産業でコツコツ稼ぐしかなくなっている。国家インフラをGAFAMに握られてしまっているためコツコツ稼いでもその儲けをGAFAMに献上しなければならない「デジタル小作人」状態に置かれている。
- また新しい産業を起こそうにも人材教育ができなくなっている。台湾の私立大学は九州の高校生に台湾留学を呼びかけ「日本には半導体人材を育てられる人はいないであろう」と言っている。残念ながらこれに反論できる人はいない。
- 企業に社会貢献意欲がなく防衛や少子化などの財源の多くが困窮しているはずの国民生活の支出になりそうだ。これにより積極的な人材育成ができないどころか国民の数までが減りそうになっている。
有権者は将来不安は感じているが大きな政治的変化は望んでいない。このためこうした状態が改善することはなさそうだ。となるとこの状態を「所与」とみなしてどのように自分の生活を防衛するかを考えなければならないということになる。
この状態がいつまで続くのかについて第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんが次のように書いている。
筆者を含めて多くの読者が知りたいのは「理屈はわかったが、この構図はあとどのくらいの期間続くのか」という論点だろう。2024年内か、それ以上なのか。いや、賞味期限はもっと短いという見方もあるかもしれない。
確かにその通りだ。理屈ではなく「この流れに乗るべきか」を決めたいという人は大勢いるだろう。熊野さんは全てはアメリカ次第だろうと結論づけている。つまり現在の日本の経済は(岸田総理の頭の中を除いては、だが)アメリカの従属経済になっている。
せめてもの救いなのは、林官房長官が生活実感の乖離を認識していることが確認できた点にある。政府にいる人たちすべてが「株価が好調なのは自分達のおかげでありこれで全てが丸く収まる」とは思ってないということだ。だが、残念ながら林官房長官が予算や政策の骨組みを決めているわけではない。
今回の日経平均超えの陰に隠れてあまり注目されていないが、実はもう一つ大きな節目となる発言があった。日銀の植田総裁が「現在はデフレではなくインフレである」との認識を示した。
金融市場関係者の中では政府がいつデフレ宣言をするのかに注目が集まっていた。事前の予想とは違い華々しい脱デフレ宣言はなく国会の答弁でひっそりと発表されたと言っても良いだろう。読売新聞は次のように書いている。実はかなり思い切ったエポックメイキングな発言だった。
日本銀行の植田和男総裁は22日の衆院予算委員会で、今後も物価上昇の動きが続くとの見方を示した上で、日本経済について「デフレではなくインフレの状態にあると考えている」と述べた。植田氏が公の場で物価情勢をインフレと表現したのは初めてとなる。
野党は依然「政治とカネの問題」が最重要課題だと考えているようだが、おそらくは総理大臣のあやふやな経済認識を問い予算の正当性について質問をした方が良かったのではないかと思う。現在の支出は「デフレからの脱却」で説明しているものが多くこれが物価高対策と入り混じっている。
しかし3月2日までに衆議院を通過しないと「暫定予算」になってしまうという恐れがあり野党もまた責めあぐねているようだ。政治倫理審査会の出席者も「え、この程度で許してしまうの?」という程度のものにすぎず本気で政権に対峙するつもりがあるのかも怪しい。
この辺りのカンの悪さや勝負度胸のなさが野党の支持率の伸び悩みにつながっているのかもしれない。
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