政治とカネの問題を見ていると「日本人は総括ができない」と感じる。野党は予算日程を盾にして開催を迫っている。ここでなんらかの材料を引き出して選挙を有利に進めたいのだろう。だが自民党もこの政治倫理審査会を単なる禊(みそぎ)にして終わらせたい。
結果的に有権者にはもやもやしか残らない。「何かが変わった」と言う実感が得られない。このもやもやをどうやって解消するのだろうかと思っていたのだが「なるほどな」と思った。税務署の窓口にいる末端職員にクレームを言う人が増えているのだそうだ。中にはかなり怖いクレームもあるようで危機感を感じる人もいるという。
税務署の末端職員にクレームを言ったところで状況がよくなるわけではないが、投票行動に移してしまうと今の政治体制が崩れ大きな変化につながりかねない。それは避けたいという心理状態なのではないかと感じる。実はそれだけ現在の体制に依存している人が多いのだ。
政治倫理審査会が2月28日を軸に調整されている。参議院での開催は初めてになると言う。議員には応じる義務はなく偽証罪も適応されない。単なる「ご説明」の場にすぎない。
それでも自民党はできるだけ参加人数を絞りたかったようだ。人数が多すぎると予算日程に影響が出ることが予想される。また人数が多すぎると事前に口裏合わせができない。予習不足で野党に言質を取られても困るという恐れがあったのではないかと思われる。
二階幹事長は晒し者にされるのを嫌って出てこなかった。嫌なことを引き受けるのがナンバーツーの武田亮太さんの役割だ。安倍派では萩生田さんの名前がなかった。事務総長を経験していないと言うのが理由だそうだが、萩生田さんは多額の裏金を受け取っているため出てくると集中砲火だったことだろう。うまく逃す口実を見つけたと言う気がする。このスキームについて知っている可能性のある森喜朗氏に至っては名前すら出なかったが証人喚問くらいやってもいいのではないかと思う。
考えてみれば自民党の対応はおかしなものだ。国民が気にしているのは「これが脱税につながったか」である。つまりもらった人が政治倫理審査会に出なければおかしい。しかし自民党は「昔から行われていました、事情はよくわかりません、認識不足でしたこめんなさい」で終わらせたい。
全く反省していないのだ。
とはいえ、野党の意図もわかりにくい。おそらく野党は今回の追及が倒閣につながるのは避けたいのではないかと思う。岸田総理がやめてしまうと野党は攻撃材料を失ううえに選挙協力もできていない。つまり政権交代につながるチャンスを生かし切る自信もないのだろう。総合的に考えると岸田総理のままで選挙をやってもらった方が良いと言うのが本音のはずだ。
このため野党が持ち出したのが「岸田総理のメンツ」である。前例踏襲型の日本では期限までに予算が上がらないことが恥になる。衆議院から参議院に予算案が渡った後30日以内に議決がなければ衆議院の議決が予算になる。つまり3月2日までに予算を衆議院で通す必要がある。
時事通信の表現は次のとおり。
国民生活に支障が生じないよう予算案の3月中の成立を確実にするには、3月2日までに衆院を通過させる必要がある。憲法の規定により、参院への送付から30日で自然成立するからだ。
与党には反省の色が見られないのだが野党も本気で岸田内閣を潰すような抵抗はしていない。このため結果的に政治倫理審査会は単なる儀式になってしまっている。政治制度の枠組みについては令和臨調の枠組みで与野党協議を行うようだ。つまり政治倫理審査会で何が出てきたとしても(何も出てこなくても)あまり本筋の議論には関係がない。
このような馴れ合いの儀式に納得する国民はいないだろうが、政権交代のような大きな変化も望んでいない人が多い。実名で社会に対して不正を訴えるようなこともやりたくない。そもそも政治について職場や学校で話し合うのもためらわれる。政治について実名で発言すると日本では危ない人扱いされてしまうという研究もあるくらいだ。
個人的には「このモヤモヤを人々はどうやって解消するのだろうか?」と思っていたのだが、答えが見つかった。最も無難なのは非正規などの窓口職員に当たり散らすことだったようだ。テレビ朝日が取材をしている。「職員に言って」と言われていると言うことなので、この人は非正規のようだ。
税務署で働く女性(20代)
「『クレーム言われた時は職員に言って』とは言われていたが、やっぱり言いに来る人はいました。自分らに言われても怖いなっていうのはある」
これに対するトップの認識は極めていい加減なものだった。鈴木財務大臣は「窓口でクレームを言ってください」「現場が丁寧に対応しますから」と言っている。結局全ての責任を押し付けられるのは現場なのだ。嘘だと思う人がいるかもしれないのでテレビ朝日の記事の該当箇所を抜き出しておく。
鈴木財務大臣は「納税は国民の理解と信頼のうえに初めて成り立つ」と強調したうえで、「国民の皆さんが不公平感を抱くことがないよう丁寧に窓口等で取り組んでいくことが重要だ」と述べました。
税務署はせめて非正規を含めた窓口職員に対して「不快手当」くらいは支払うべきであろう。