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金融リテラシーのある人は気がついている「悪夢の岸田政権」が国民生活を困窮させる少し複雑な構造

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日本人は政治に関わらないという記事を見つけた。「「政治と関わりたくない人たち」がもたらす政治的帰結」というNewsweekの記事だ。

記事は日本人は政治に関わりたくないという人が多くその結果として「自助社会」が作られるとしている。流行の言葉だと「自己責任社会」ということになる。米国、英国、フランス、ドイツ、日本、中国、韓国、インド、香港を比較するとこのような傾向があるのは日本と中国だけなのだそうだ。

中国と日本にはある共通の傾向がある。どちらも金融資産が外国に逃げている。記事は政治に関わる人とそうでない人をわけているのだが政治に関わらない人の中には「金融リテラシがある人とない人」という区分があると言えるのかもしれない。これを合成すると「岸田政権がなぜ国民生活を破壊するのか」が理解できる。気がつく人は気がついているがそうでない人もいる。国民が政権を信じられないと「思わぬ日本売り」が起きてしまうのだ。

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そもそのの政治研究は政治に対してどんな認識を持っているのかを知るところから始まる。ところがこの前提で日本を研究することはできないと記事は主張する。そこで日本の分断は政治に参加する人政治に参加しない人の間にあるのではないかという仮定を置いて調査をやり直した。

政治に関与したくない人は「政治に関わりたくない」という人と「私生活を大切にしたい」という人に分類できるそうだが、どちらとも「公共に期待せず自助努力を強調する」側面があるのだそうだ。一方で普通の国に見られる「保守と革新」のようなイデオロギー対立では自助努力に対する姿勢には違いが見られない。記事は「政治から撤退する人が増えれば増えるほどセーフティーネットの縮小につながるであろう」と指摘しており「もっと政治に参加するべきではないか」と結んでいる。

ただこの記事を読んだあとでも「では政治に参加するといいことがあるのか」という気持ちになる。自分一人だけが政治に参加しても世の中が変わるような気がしない。

日本と中国には政治参加意識だけでなく経済的にも共通点がある。日本で金融リテラシーがある人は海外に資産を逃避させている。投資が不安だと感じる人も多いため人口としては限定的だがそれでも円安の一因になっているのではないかと指摘する声がある。これは前回のエントリーでもご紹介した。

中国人も中国政府が信頼できないために外国の金融資産を買っている。半分ほどがアメリカに向かっているそうだが、20億ドルのうち2億ドル強が日本に向かっているのだそうだ。中国は5年ぶりに資金流出超過となっている。おそらくこれが今の日本の株高の要因の一つなのだろう。ただし中国人の資金の流れは政府当局の規制とその抜け穴探しのいたちごっこである。またチャイナマネーは資金のほんの一部に過ぎず影響は限定的という人もいる。

「中国本土から日本株に入ってきているお金は300億円ぐらい。アメリカやヨーロッパ、その他の地域から2兆円とか3兆円近く来ている。その中のごくわずかなんですよ。チャイナマネーというのは。日本株の上昇への影響というのは、そんなにないものだろうと思います」

日本企業の収益が海外から流れ込むので国際収支は黒字になり上場企業の収益は好調そのものだ。最新のデータでは3兆円も業績が上振れした。海外から流れ込む黒字の総額は20兆円だ。

日本という国は世界中からのマネーを引きつけている。また企業業績も好調そのものだ。つまり日本は儲かっているのにGDPで見ると停滞か後退かという「予想外の」状況になっている。これが「悪夢」の中身である。日本企業は海外からの投資を引きつけているがこれが国内に還元されることはない。だから株価だけが上がり続けている。そしてこの株価の上昇は外国からの資金逃避の結果なので、しばらくは続くのかもしれないし日本の政策とは関係なくある日突然「終了のお知らせ」が来るかもしれない。

企業の儲けは国内では放出されず企業が内部に溜め込むか海外での投資活動に使われる。国内で事業を展開してもさほど儲からないからだ。ではなぜ儲からないのか。それは消費者がお金を使ってくれないからだ。ではなぜ消費者はお金を使わないのか。

自民党は企業を優遇すればその儲けが回り回って国民生活に循環するであろうという昭和的な見込みを維持している。かつては正しかったが今もそうだと考える経済学者はあまり多くないはずだ。日本は内需主導の国になった。

自民党には法人から献金を通じた働きかけがあるため自民党は法人の期待に応えようとする。さまざまな政策が総動員されている上に外国の環境変化もあるため企業業績は絶好調だ。つまり政策そのものは狙った効果を出している。問題はここから切り離された国民経済が存在し有権者の数としてはそちらの方が多いという点にある。

いずれにせよ、おそらく法人も資産家と同様に政府をそれほど信頼していない。そのため子育てなどの社会資本の蓄積のための負担は避ける傾向にある。政府は国民経済と医療福祉を支えるために消費税の割合を増やす。また子育てのための資金も国民から徴収する考えだ。1名500円と言われる子育て支援金の閣議決定も行われた。

岸田政権はデフレからインフレに転換するかしないかのうちに「将来は良くなるからとにかく政府を信じて負担を増やすように」と国民に命令をくだした。これが防衛増税と子育て増税である。仮に国民が岸田総理の言い分を実感していたならこれほどの反発と支持率の低下は起こらなかっただろう。ところが国民はこれを目の前の物価高と合成してしまい「将来はもっと悪くなるだろう」と予想した。結果的に消費を縮小させている。現在は2期連続のGPD縮小である。実際には停滞というべきなのだろうが、技術的には「テクニカルリセッション」に分類される。つまり景気後退とみなされてしまうのだ。

これが岸田政権がもたらした効果だ。

  • 国内経済と企業経済がどういうわけか分離しているが政府は政策変更をせずに昭和的な政策を続けている。
  • 投資家や起業家など金融リテラシーある人は日本の将来についての政府の言い分を信頼しない。だから海外投資は増えない。
  • 一般の国民も政府の言い分を信頼しないので消費を抑えており国内市場を冷え込ませている。

政府がこのテクニカルリセッションを重く受け止めていると感じられるコメントは出ていない。鈴木財務大臣は所得税などの定額減税は単年度しか実施しないと宣言している。そのうちなんとかなると思っているのだろう。新藤経済再生担当大臣は「具体策は日銀にお任せ」「政府は企業に一生懸命に賃上げを要請している」と言い続けている。さらにNHKの討論番組では「日本の高齢者は世界一元気なのだからもっと働くべきだ」と仄めかして顰蹙を買っているという。林芳正官房長官は評論家のようなコメントを出している。バブルで企業の成長は抑制されたが今になって明るい兆しが随所に出ていると分析している。

そもそも岸田総理は政治とカネの問題の統一教会の問題も解決できていない。今回の政治とカネの問題は政治家の「脱税」が問題なのではない。政治家の中で問題が起きたとしてもそれを解決する意欲も能力もないということを示し続けている。これが問題なのだ。

自分達の問題も解決できない人たちが社会課題を解決できると考えるのはあまりにも楽観的な考え方だ。おそらく国民は政府を信頼していない。投資ができる人は海外に投資する。投資できない人は今持っている預貯金をそのまま手元に持っているしかない。消費が抑制され国内経済が成長しない。

外交的にもかなり舐められている。北朝鮮の金与正氏は「拉致問題などというありもしない問題を放棄するならお前らと話し合っても良い」としているそうだが、林官房長官は「留意している」と発言するのが精一杯だ。岸田総理は「私自身が条件をつけずに話し合いをしたい」と言い続けているのだが、北朝鮮が出してきた条件は「拉致問題の放棄」だった。

北朝鮮は岸田総理が何を熱望しているのかがよくわかっているのだろう。ミサイルで恫喝しつつ「お話し合い」を希望している。比較的国際社会で孤立している北朝鮮からもこのような対応をされる岸田総理が難しい国際情勢に対応できるとは考えない方が良いのだろうが「自民党総裁戦ガチャ」で当たりが出るまではこうした状態が続くだろう。

このような状況を改善するためには「日本はかつてのような外需牽引の国ではなくなっている」という事実を受け止めた上で共有したうえで経済対策を講じる必要がある。だが野党も含めて政治家からそんな提案が出てくることは期待できそうにない。労働組合をバックにした野党も実は自民党と似たような構造に絡め取られている。

こうした中で政治に興味がなくかつ金融リテラシーがある人たち(資産家と経営者)はある意味「正しい」判断をしていると言えるのかもしれない。自助努力で自分達の資産を守らなければならない。となると事業や金融資産を海外に逃避させることは極めて合理的な判断であるといえるだろう。現在の円安が全て資産逃避で説明できるわけでもないのだろうが、円安の一つの要因となっており物価高を通じて国民生活の困窮化につながっている。日銀にもこれを解消する意欲はなさそうだ。

日本人が政治参加を忌避する傾向は昔からだそうだが若者ほどデモなどの政治参加に否定的になっているいう研究もある。このnippon.comの記事は「若者に余裕がなくなった」「周囲から浮くことを嫌う人が増えた」などさまざまな理由が挙げているのだがこれと言った決め手がない。さらに政治に参加することは重要だとしてはいるが「それがどんなトクになるのか」も書かれていない。有権者の選択肢が限られる現在の選挙制度しか知らない人たちにとってみれば当然の感覚なのかもしれない。

「悪夢の岸田政権」というレッテル貼を嫌う人もいるのだろうし今始まった問題ではなく過去からの累積であることも確かだ。岸田政権は日本の政治の行き詰まりを単に可視化して見せているだけという側面はあるのだがそれでもやはり「悪夢は悪夢」である。

知識があり行動を起こせる人たちは日本への投資を避けておりこれがますます国民生活を困窮させる。日本の場合は国民が政治に関わりたがらないという独特な事情もあり「支持政党なし」が6割になってもなお代替選択肢が出てこない。

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