政治とカネの問題で自民党が追い詰められている。しかしながら立憲民主党や国民民主党の支持率も上がっておらず有権者からは政権を担える政党とはみなされていない。これはなぜなのだろうか。
先週にかけて玉木雄一郎代表と前原誠司氏・岡田克也氏の間に小競り合いがあった。SNSを通じて「コップの中の嵐」が起きている。おそらくまともな有権者はこうした政党を支持したいとは思わないだろう。小さな違いにこだわり「運転席に座るのは自分だ」と彼らは主張し続けている。彼らには彼らなりの見込みと理屈があるようだが国民には「有権者そっちのけ」にしか見えない。
政権の受け皿になり得る野党が生まれない状態は変化と成長を希望する有権者にとっては気の重い状況といえるだろうが、野党が我々の懸念に応えてくれる日は当分来ないのかもしれない。
一時、玉木雄一郎氏が自公政権に加わるのではないかと囁かれたことがあった。麻生・茂木両氏が公明党(創価学会)とのパイプを持つ菅義偉前総理大臣に対抗するために労働組合の連合を引き入れようとしたという見立てが一般的だ。玉木雄一郎氏はガソリン価格を下げるためにトリガー条項凍結解除を求めこの協議を足がかりにして幅広い連立を模索するものと見られていた。
しかしながらこの枠組みは自民党の派閥が破壊されたことで実質的な意味を持たなくなる。公明党は国民民主党を警戒しており自民党も選挙支援してくれる企業を優遇したい。結果的に玉木氏は行き場を失いトリガー協議から撤退した。憲法改正議論も先の見通しが立たなくなっている。
ここで泉代表が玉木代表に対して「一緒にトリガーをやりましょう」と持ちかける。玉木氏にとっては渡に船だったことだろう。これに水を差したのが代表選挙で玉木氏に敗れ分党していた前原誠司氏だ。玉木氏に「政治的責任を取るべきだ」と迫った。つまり議員辞職覚悟で臨んだのではないですかと嫌味を言ったのである。前原氏は前原氏で維新との連携を模索していたが足元の京都市長選挙で推薦候補のスキャンダルが発覚し「不戦敗」になっている。維新も万博問題に足を取られ支持が伸び悩んでいる。前原氏は自分が扇の要になって「立憲と維新を結びつけたい」と考えている。つまり玉木・泉体制ができてしまうと自分が割り込む余地がなくなってしまうのだ。
泉氏も京都市長選挙で自民党・公明党と組んだことで一部の支援者から批判されている。国政選挙では対立姿勢を見せながらも京都では手を結ぶのですかというわけだ。日本共産党とどう協働してゆくかは地域ごとに情勢が違っている。支持者はかなり動揺していて「日本共産党を排除するリーダーは支持できない」という人もいれば「小さな違いに足を取られていては政権が取れないから自民党を利することになる」と警戒する人もいる。
泉氏と玉木氏の間に協力関係が構築できると期待した人は多かったことだろうがここにまた別の人が出てきた。それが岡田克也幹事長だ。どういうわけかわからないがものすごく上から目線で玉木氏に対応している。
岡田幹事長は「考え方を改めて、野党がまとまっていくべきだと考えるなら、懐深く対応していきたい」と言っている。おそらくこの発言は「自民党に擦り寄ったことを間違いと認めるならばまた話し合いに応じてやってもいい」という意味だったのだろう。
玉木氏も薄々は「自民党に接近したのは間違いだったかもしれないなあ」と感じているのかもしれないが、表立ってこんなことを言われてしまうとさすがにごめんなさいとは言いにくくなる。SNSのXで次のように強がって見せた。
我が党が「考え方」を変えることはありません。「対決より解決」政策本位で国民のための政策を推進するのみです。
ところが「空気が読めない」岡田克也幹事長はこれに追い打ちをかけるように「合流を目指す」と発言した。話の流れから見ると吸収合併を目論んでいるように見える。支持率で見ると「どんぐりの背比べ」なのだが、おそらく岡田氏の中には立憲民主党が圧倒的優位にいるという認識があるのではないかと思える。
これに対して玉木雄一郎氏は次のように発信した。
いろいろご心配いただいておりますが、結党以来、国民民主党の考えは明確です。政策本意で、国民のためになる政策実現には与野党超えて協力します。同時に、安全保障、エネルギー政策、憲法など基本政策の異なる政党と政権を共にすることはありません。ましてや合流をや。
この一連の流れを見ると立憲民主党と国民民主党にはまとまるつもりが全くないということがわかる。泉代表は長期的な連立を諦め「短期的なアジェンダでまとまってゆこう」としたのだろう。これが「ミッション型」の意味なのだと思う。だがそもそも短期的なミッションですらまとまる気配がないのが今の野党だ。
代わりに誰が運転席に座るかで延々と揉めている。
自民党も派閥の内部で似たような小競り合いを繰り返してきたがさすがにこれが有権者に漏れると嫌われるということはわかっている。だが、立憲民主党と国民民主党の間にはそうした遠慮がなくSNSで盛んにこの手の内輪揉めが漏れてくる。それぞれが面子と従来の主張という系を吐き出しコクーン(繭)が生まれている。
繭から出ない限り彼らが新しい政治的アジェンダに対応したり国民の要請に応えたりすることはかなり難しいものと思われる。国際情勢も経済状況も日々変化を続けているが彼らは繭の中から相手を攻撃し続けていてあたらしい変化を見ようとはしない。
結果的に政治とカネの問題で行き詰まった自民党に代わる選択肢が国民に提示されない。変化と成長を求める有権者にとっては極めて気の重い状況だ。