ざっくり解説 時々深掘り

物語を作り、おびえる人たち

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オバマ大統領が広島に来ることが決まった。就任後「核なき世界」を標榜しておりノーベル平和賞を取っている。その総仕上げの狙いがありそうだ。
だが、それは長い間かなわなかった。2つの理由があるようだ。アメリカでは共和党を中心に原爆投下を正当化する意見が大きいのが最初の理由だ。もう一つの理由は日本政府が国内の反核派の台頭を恐れているからであるだとされる。麻生総理大臣時代の藪中外務次官は「オバマ大統領の訪問は反核派を活気づける可能性がある」と主張し、オバマ大統領の訪問を断ってしまった。この時期は自民党政権末期にあたる。いわゆる「左派の台頭」を恐れたのではないかと考えられる。「民主党が勝っては困る」と思ったのかもしれない。
今回はオバマ大統領にとっては最後のチャンスになる。そこでワシントンポストに「リーク」という形で流してサウンディングした。当初、安倍政権は「当惑したものの静観する」という姿勢だったようだが「オバマ歓迎(あるいは積極的に反対せず)」という姿勢が広がると今度は別の物語を作ろうとする人が現れた。
ある人は「安倍首相の外交的成果だ」などと言い出した。安倍首相は予定をキャンセルしオバマ大統領に付いて回るだろうという話も出ているようだ。経緯を知っている人から見るとかなり興ざめな内容だが、今の状態が淡い予想を持っている人たちはそれで構わないらしい。物語を作って、それにすがって生きてゆきたいのだろう。
端的に言ってオバマ大統領にはオバマ大統領の狙いがあるのだろう。それを理解して従うならば、安倍首相の「サポート」は歓迎されるのかもしれない。が、日本の政治家の行動はどこまでも内向きで「アメリカと仲良くしている姿を見せつけて政治的なハクを付けたい」くらいの意図しか感じられない。オバマ大統領はこうした日本のフリーライディングを嫌悪しているようだし、同じ調子でロシアの大統領にも近づいているのだから警戒心もあるのではないかと思う。安倍首相の行為は国益を損なう可能性が高い。
オバマ大統領にも過度な期待はできない。2009年のプラハでのスピーチをしてから核兵器の削減は進まなかった。北朝鮮は「自分たちは責任ある核保有国なので、核軍縮に協力する」などと言い出したしている。端的に言えば、北朝鮮は持っても良いが韓国や日本には持つなということだし、アメリカの真似をしているわけだから、アメリカはこの理屈に対抗できない。国内では格差を放置したせいで、トランプ候補の台頭を招き、国務長官を務めたクリントンはTPPへの反対表明を余儀なくされた。
反核派も「アメリカ大統領の訪問」を神話化しようと試みるかもしれないのだが、それも多分止めた方がよさそうだ。それでも大きな一歩だとは思うのだが、実質的には儀式としての意味以上のものはなさそうだ。
新聞各紙はアメリカの状況と中国・韓国の状況だけを伝えている。アメリカの新聞はおおむね好意的で、中国と韓国は「日本が被害者面をするのは気に入らない」のだそうだ。やはり実際に被害を受けた国でないと「広島・長崎の問題は被害者面をするために政治利用できるような性質のものではない」ということは分からないのだろう。
右派は日本の国防を真剣に考えるなら「虎の威を借る羊外交」を放棄すべきだ。トランプ候補がどのような主張を持っているのか分からないが、アメリカの民主主義の結果が日本外交を振り回すのは国防上危険きわまりない。一方、左派も本当に核なき世界を目指したいなら、アメリカ大統領を神話化するのはやめるべきだろう。
右派左派ともに言えるのは、70年も経ったのだからアメリカから精神的に独立すべきだということではないだろうか。