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二つの地方選挙は岸田政権に厳しい結果 分かりやすかった前橋市長選挙と分かりにくかった京都市長選挙

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前橋市と京都市で市長選挙が行われた。与野党対立構図が作られた前橋市では野党系新人が勝った。一方で分かりにくい構図となった京都市長選挙では共産党系の候補が自民・公明・立憲・国民が相乗りする候補に肉薄したがが及ばず、相乗り候補の松井氏が逃げ切る形で終わった。

与野党対立構図を作り選挙を行えばおそらくは岸田政権にとってかなり厳しい結果になるのだろう。共同通信JNNの世論調査が出ているが岸田政権の支持率は底辺付近で停滞している。しかし、野党もチャンスを生かしきれていない。そんな内容だった。

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前橋市で市長選挙が行われた。保守系の現職が新人に敗れた。保守王国と言われており動揺が広がっている。

  • 小川晶、無所属・新。当選。6万486票
  • 山本龍、無所属・現。4万6387票

NHKは「自民党から票が流れた」と書いている。前回の選挙が保守分裂であり地元にしこりが残っていたことが理由の一つのようだが「政治とカネ」の問題が影響した可能性もある。

この選挙からは二つのことがわかる。

  • 普段「みんなが自民党に入れているから」という理由で自民党に投票している「なんとなく保守」の人たちが離反すると自民党系の候補が負けてしまう。今回勝った小川氏は
  • 自民党といってもそれぞれの「系列」がある。利権・分配構造が崩れてしまうとその一部が動揺して「勝てる候補」に流れてしまう可能性がある。今回も野党系の新人小川氏に流れた人がいるようだ。中央政界で行われている「派閥の解体」によってこういった系列が見えにくくなる。

小川晶氏は女性弁護士という肩書きを持つ。群馬県議会議員としてのウェブサイトにはこう書かれている。女性の政治参加が進んでいない分だけ有権者の不満が燻っていたことがわかる。

子育て支援は最優先課題です。若者や女性が働きやすく、子育てしやすい仕組み を充実させ、子育て世代が流入する前橋をつくります。また社会を支える医療・ 介護・福祉・保育に携わる人材の確保に全力で取り組みます。市内経済を元気に するために、市内企業の優先発注を徹底、循環型の経済にシフトします。

これを踏まえて京都市長選挙を見てゆく。

こちらは極めて分かりにくい構図だった。結果的に勝ったのは自民・公明・立憲民主・国民民主が相乗りする松井氏だった。これだけを見ると「立憲民主と国民民主が自主候補を立てなかったのでは?」という印象になる。だが松井氏は旧民主党政権(鳩山政権だそうだ)で官房副長官だったという経歴を持っている。これが最初のわかりにくさである。

「反自民党」というわかりやすい構図で立憲民主党を支持している人たちは「中央政界では散々罵り合っているのに京都では手を携えて選挙を戦うのか」と感じたことだろう。「なんだかなあ」という印象だ。共産党との連携に期待している人たちもいて「福山氏を攻撃するとは何事だ」と憤っていた。立憲民主党の泉健太代表の選挙区は京都市伏見区を含んでおりいわば地元の選挙戦だった。泉さんは政権欲しさに中央では「プロレス」をやっているだけという印象になってしまう。辻元清美氏も今回の選挙では「自民党と仲良し」だった。

ただ、実際には立憲民主党は単独では共産党系の候補に負けてしまうという実情がある。これが今回の選挙結果だった。

  • 松井孝治、無所属・新。当選。17万7454票
  • 福山和人、無所属・新。16万1203票
  • 村山祥栄、無所属・新。7万2613票
  • 二之湯真士、無所属・新。5万4430票
  • 高家悠、諸派・新。2316票

では自民党は一枚岩だったのか。今回5万票余りを獲得した候補の名前にはどこか聞き馴染みがある。一時期文春で盛んに報道されていた二之湯智さんの次男なのだそうだ。自民党の一部が支援していた。

二之湯智氏は旧統一教会との関係が指摘されていたほか「京都独特のあるスキーム」を考案したのではないかと疑われていた。国政選挙の前に候補者からお金を集めてきて地元の政治家に配るというスキームで文春は当時「マネーロンダリングだ」などと指摘していた。

今にして思えばこのスキャンダルを自民党が潰しておけば清和会安倍派が解散することはなかったのかもしれない。この時の二之湯智氏は盛んに「党勢拡大のためのお金だ」と主張していたが実際には地元の議員達を繋ぎ止めておくためにお金を配っていたものと考えられている。

ザル法と呼ばれる政治資金規正法と公職選挙法のもとでいくら週刊誌が「事実上の選挙買収だ」などと騒いでも実際にそれが罪に問われることはない。結果的に問題が制御不能になるまで放置されたことになる。とはいえ金額自体は大したものではない。一人当たりに支払われる金額はわずか50万円だ。

ところが今回の選挙結果を見ると「わずか50万円でもそれに恩義を感じる人は大勢いたんだな」と感じた。5万人という数が松井さんに乗っていれば「共産党に肉薄された」というような印象にはならなかっただろうが「世話になった恩」を感じていた人も大勢いるのである。

京都市長選挙の結果にはもう一つの驚きがあった。「偽装パーティー騒ぎ」の村山さんが7万票余りを獲得している。今回村山氏は維新と国民民主党から維新に移った「前原新党(教育無償化を実現する会)」から支援されるはずだった。だが、直前に偽装パーティー疑惑が持ち上がる。村山氏は疑惑を否定したものの日本維新の会、教育無償化を実現する会、地域政党「京都党」は推薦を取り消した。選挙直前に問題が見つかったために代わりの候補を立てることができず結果的に自主投票に追い込まれた。このため、維新の事実上の不戦敗となった。

この不戦敗が良かったのか悪かったのかはよくわからない。仮に村山氏がそのまま維新の推薦を受けていたとしても万博騒ぎで票を落としていた可能性がある。つまり試合に参加しなかったことで「負けずに済んだ」可能性があるといえる。

京都の共産党は志位体制を批判した人たちの分派・除名騒動があり運動に影響があるのではないかと言われていた。だが今回の選挙結果で集めた16万票を見る限り組織の動揺は軽微なものだったようだ。

今の状況で岸田政権が総選挙を行うとかなり厳しい結果に終わるだろうと感じた。

小渕優子選対本部長は京都市長選挙で「今年最初となる大型選挙で、わが党が支援した候補者が勝利した意義は大きく、今後の選挙に向けた弾みになる」との声明を発表している。だが実際には小渕さんも茂木さんも二之湯さんの出馬を止めることができていない。仮に二之湯さんが出馬していなければ松井さんに票が流れていたはずで「接戦」にはなっていなかっただろう。そもそも前橋市の前回の市長選挙が自民党系3名の保守分裂選挙であり、今回もその余波が残っている。群馬県が小渕氏の地元であるということを考えると「群馬県の混乱は収められなかったんだな」ということがわかる。小渕氏の見解を聞きたいところだが特に情報発信はしていないようである。

岸田総理の雰囲気とは別に今の自民党の選挙対策機能にはかなり不安が残る。「茂木派」を繋ぎ止めるための人事で必ずしも実力による適材適所ではない。

「政治とカネ」の問題として語られがちだが実際には自民党が系列議員をまとめきれなくなっているということがわかる。それぞれの派閥がお金を蓄積せざるを得なかった裏にはおそらく地方組織の動揺もあるはずだ。

京都市は財政破綻一歩手前と言われていた。門川市長が「緊急記者会見」を開いて市の財政状況を訴えていたのが記憶に新しい。コロナ明けで税収が回復して単年黒字を達成したものの過去に累積した赤字の解消には道筋が立ってない。松井新市長は「門川体制を引き継ぐ」と表明している。自民・公明・立憲・国民民主の議員たちはそれなりに居心地の良い体制が形作られているためそれを崩さずにやってゆきますということなのかもしれない。財政再建のための緊縮財政の是非やオーバーツーリズム対策などが市政の重要な課題と見做されており今後の手腕に注目が集まる。

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