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アメリカやイギリスの選挙の影響を受けて停滞するガザの和平交渉

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バイデン大統領が怒りに満ちた顔でドローン攻撃に対する対応を決定したと記者団に述べた。ただし詳細については明らかにしなかった。現在、イスラエルのガザ侵攻についてはカタールの仲介で和平提案が進んでいるがイランを刺激すると仲介プロセスが停滞する可能性がある。さらに緊張が高まればアメリカとイランの間で本格的な戦争に移行する可能性もゼロではない。イランにもアメリカにも戦争を拡大させたくない意向はあるのだが偶発的な危機の可能性は高まっている。

一方でイギリスのキャメロン外相は「パレスチナの国家承認プロセスを前倒しする用意がある」と提案した。この提案の意図は明らかではないがイスラエルの態度を硬化させるかもしれない。

各国の選挙事情を踏まえたさまざまな情報発信が行われているが、ガザ地区をめぐる状況はいまだに混乱が続いている。国連支援機関からの資金引き上げも解決の目処が立たず、むしろ悪化の一途を辿っているといえるかもしれない。

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ヨルダンに駐留するアメリカの基地に攻撃が加えられた。基地に戻ってきた米軍のドローンに紛れ込んだドローンが基地を攻撃したものと見られているそうだ。結果的に3名のアメリカ兵が亡くなった。アメリカ人にとって戦争の犠牲者は単なる統計的数字に過ぎないが米兵は例外だ。決して損なわれることがあってはならないとされている。国防長官も「怒りと悲しみ」を表明した。

バイデン大統領は選挙キャンペーン上は強い大統領を演出しつづけなければならない。しかし実際のアメリカのプレゼンスは弱まっており戦争に圧勝できるだけの余力はない。バイデン大統領は国内向けに強いアメリカという像を示しつつ状況を制御可能な状態に収めておく必要がある。BBCは「大規模な攻撃に陥ることはないだろう」としているのだが、偶発的な危険性は高まっている。イランを名指しした瞬間にイランを刺激し大規模な戦争に発展する可能性があるためアメリカ側はこの作戦をどう表現するかにも極めて慎重になっている。

そもそも、米軍に攻撃を加えたのがイランであるかどうかすらわからない。このため今回の対応の対象が何になるのかも名指しされていない。相手が特定できない場合はそもそも報復もできないはずだがアメリカは具体策はあるとしている。

イランも複雑な状況にある。実は国内事情が安定しておらずイランの指導層は戦争はしたくない。しかしながらこの弱腰に苛立っている人たちもいる。そこで代わりにパキスタンを攻撃するのだがパキスタン政府から反撃され一時はお互いに外交官を引き上げるという事態に発展していた。

選挙キャンペーンの影響を直接受けそうなのがガザの和平交渉だ。

ガザ地区からの難民が流入しかねないエジプトがアメリカやイスラエルの情報機関との間で戦闘休止の提案をまとめた。ハマスの幹部がこれを受け取ったため「戦闘中止間近なのではないか」と日本では伝えられている。和平提案は3段階に分かれたかなり練り込まれた内容となっている。しかしながらハマスの幹部は提案を受け取っただけであると言っている。さらに面倒なことにネタニヤフ首相自身が「戦争継続」に意欲を燃やしている。ロイターの表現では「ガザからは撤退しない」になる。イスラエルにはアメリカに近い人たちとネタニヤフ首相に近い人たちが分かれており意思統一できていない可能性も高い。ネタニヤフ首相も自分の選挙要求を抱えており今のままでは選挙に勝てないだろうと言われている。

いずれにせよ、今回のバイデン大統領の報復がイランに向かえばカタールがまとめようとしている和平交渉に大きな影響が出る。ロイターは次のように伝える。

カタールのムハンマド首相は29日、パレスチナ自治区ガザで拘束されている人質の解放に向け週末に行われた交渉について、良好な進展が得られたとの認識を示した。また、米国がヨルダンの米軍基地に対する無人機攻撃に報復し、交渉を後退させる可能性に懸念を示した。

アメリカとイスラエルの国内事情によって和平提案は揺れ動いている。イスラエルは国連組織のUNRWAの職員の多くがハマスに参加しているという理由でUNRWAを非難している。アメリカをはじめとして日本を含めた10カ国がUNRWAへの資金提供を止めておりガザ地区の人道状況はかなり悪化している。ロイターは医師を目指す学生の夢の実現が遠のいたとするレポートを出している。アメリカ人にとっては単なる数字だがガザ地区の人々にもそれぞれの人生がある。

これらの情報をまとめていたらキャメロン外務大臣が「パレスチナの国家承認を前倒しすべきだ」と情報発信をしたという記事が新たに見つかった。これまでガザや西岸の統治構想はアメリカとイスラエルが主体となっていたが「30年間何も進展がなかった」としている。ここにイギリスが割って入ることで国際的なプレゼンスを増そうとしているのかもしれない。イギリス保守党は選挙での劣勢が伝えられておりなんらかの思い切ったメッセージングが必要だとキャメロン卿は判断したのかもしれない。しかしEU離脱の国民投票を提案しイギリスを混乱に陥れた前科もあり「なんらかの勝算があって発言しているのだろうか?」と疑う人たちもいる。

さらにこのイギリスの提案はネタニヤフ首相の態度をさらに硬化させるだろうとする人もいた。ネタニヤフ首相は一貫してパレスチナ自治政府には統治能力がないと主張しており現在もその主張を変えていない。

ガザ地区の状況は各国の選挙事情を受けてかなり複雑な状況に陥っている。各国の指導者がリーダーシップを強調すればするほど現地の人道状況が悪くなってゆくのだ。

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