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実はしたたか 上川陽子外務大臣がWPSを掲げて女性活躍の新組織を立ち上げる

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連日「政治と金」の問題を考えていると一つの問題が浮かび上がってくる。金権政治から政策ベースの政治に脱却すべきだというが「そもそも政策って何だろうか?」という問題だ。

例えば池田勇人の「所得倍増」は政策の一つだった。国の独立や国際社会でのプレゼンス回復よりも「とにかく経済を優先させるべきだ」というのが岸内閣から池田内閣の時に起こった路線変更だった。政策というより「路線の代替選択肢提案」というべきだ。派閥はもともと政策と人事が一体になったものだった。常にバックアップになるプランが用意されていたのだ。

例えば岸田さんと茂木さんの間にどのような路線の違いがあるのか。これを説明できる人は誰もいないだろう。少なくとも安倍政権(清和会)から岸田政権(宏池会)へのトランジションでは代替選択は行われなかった。

このようなことを考えていたところ「上川陽子外務大臣が女性参画のための新組織を立ち上げた」というニュースを見つけた。WPSというそうだ。女性の社会参画を目指す運動の具体化を目指タスクフォースを立ち上げた。この代替選択肢を国民が選択するかどうかは脇に置いて「男性だけでなく女性も幅広く社会に参画すべきだ」という提案は十分に「新しい路線」になる可能性があると感じる。

他にも例えば大胆なDX推進というような代替選択肢も考えられる。考えてみれば色々な提案は可能だが、問題はおそらくこれらを国民が選べないという点にあるのだろう。現在のやり方では全て不透明な政局で路線が固定されてしまう。

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WPSとは(Women, Peace and Security)女性・平和・安全保障という意味の略語である。日本では2022年12月にWPS議員連盟が作られ上川氏が会長をしている。また、外務大臣就任時にもWPSについて言及されていた。ウケ狙いで今言い出したわけではない。上川さんの一貫した政治テーマであることがわかる。今回のタスクフォースは理念と要望だけでなく、実際にWPSを実際に試す試みだ。理念倒れに終わる可能性もあるし「意外と良かったね」になる可能性もある。

麻生太郎大臣が「カミムラは自分でアポを取って人に会っている」と評価していたが、実はそれは当たり前だった。ハーバード大学大学院に留学し上院議員の政策立案スタッフを務めた経験を持つ。英語力が堪能な上に独自のパイプも持っているのだろう。さらにウクライナ問題への関与を見ていると理念を行動に移すだけの実行力もあるようだ。

NHKの記事によると、国連安全保障理事会が2000年に提唱した概念だそうだが、上川さんは男女共同参画担当大臣を務めた時に可能性に気が付きその後ライフワークとしてきた。WPSは紛争の当事者になりがちな女性が紛争の予防や紛争後の和平に主体的に参画した方がより実効性の高い政策が立案できるのではないかという考えに基づいているという。

会社の役員会にせよ政治にせよ女性の参画は極めて難しい。

しかしながら社会としての意識が遅れているからこそプロジェクトに困らないというメリットもある。今回の外務大臣就任をチャンスと位置づけて自分のプロジェクトを立ち上げたことになる。外務省だけでなく他省庁と連携し「オールジャパン」の組織を作りたいと考えているようだ。強い意欲とリーダーシップが感じられる。

上村氏は一貫した考えを持ち自分の立場を生かして実際に行動している。この上川氏と比較すると常に何となく偉そうだが何をやっているのかよくわからない麻生太郎氏が「似合わない帽子で取り巻きに囲まれていい気になっているだけのおじいさん」に見えてしまう。共同通信は「麻生氏の意識は立ち遅れている」と批判しているが、おそらく高齢の麻生氏には意識改革は不可能だろう。

前回観察したように岸田文雄総理大臣は総理大臣になるために議員の数を集め維持しておかなければならないと考えている。そのためにはお金が必要でありまた世襲による人脈を抑えている長老に忖度しなければならなくなる。茂木敏充幹事長も事情は同じだ。多様性のない政治家ばかりになると差別化が難しくなり最終的には「相手の陣営からどれだけ人をぶんどってくることができるのか」だけが重要になる。現在の日本の政治膠着の根本にあるのは「アイディア」の不足だ。そしてアイディアの不足は消耗戦の原因になる。

このように膠着した自民党で女性が活躍するためには男性社会におもねって生き残りを図るしかなかった。安倍政権下で増殖した「威勢のいい女性政治家」がその典型だ。もう一つの類型が森喜朗氏が好きな「わきまえた女」である。

上川陽子氏の登場は女性の活躍にはそれ以外の選択肢もあるのだということを示している。海外経験の豊かさからきているのだろう。経験の違いがアイディアの多様性をもたらす。

もちろん上川陽子外務大臣を手放しで礼賛するつもりはない。ビジョンを示した上できっちりとした形を示すべきだ。今回も単なるタスクフォースにすぎない。さらに言えば、「これまでのような男性優位の社会を維持すべきだ」という人たちもいるだろう。選べることが重要だ。

現在の小選挙区比例並立制のもとでは「麻生さん的な旧態依然とした自民党を応援するか」「DXを推進したい若手自民党(例えば河野太郎大臣のような)を応援するのか」「上川さんのような新しい可能性を応援するのか」という選択肢はない。日本の政治が停滞している理由の一つには選挙システムと実際のリーダー選定過程が遊離しているという日本ならではの事情があるのだろう。

日本には公開され有権者が参加できる「政策コンペシステム」がない。

コンペシステムというとアメリカ合衆国のような二元代表制の国でなければ無理なのではないかという気がする。だがイギリスも議員内閣制ではあるが政策コンペをして代表者を選んでいる。

もちろんこれが完璧というわけではない。イギリスの保守党はジョンソン首相の後継を選ぶ時に「お金持ちでいけすかない」スナク氏ではなく勇ましい発言が多かったトラス氏を選んだ。さらにコンペには保守党の党員でなければ参加できなかった。しかしながらトラス氏の政策は金融市場に受け入れられずトリプル安(通貨、国債、株)の要因になる。保守党の有権者たちは選択を誤った。そもそもジョンソン首相のEU離脱(BREXIT)が正しい選択だったのかも疑問である。行き詰まったトラス氏は短期間で政権をスナク氏に譲り渡すことになった。

ただしこの例を引き合いに出して「国民が政策を選択できる制度そのものが誤りだ」と断定するのはあまりにも乱暴という気がする。

つまり、どんなシステムにもそれなりの問題点はあるのだが「それでも全く選べないよりはマシ」という気がする。総裁になるためには「政治の「自由」を守るためには公開されないお金が必要なのだ」と堂々と国会で答弁する総理大臣よりもマシな人を選ぶことができる。

いずれにせよ、今の日本の政治に新しいビジョンがないというわけでもなさそうだ。単に多様性のある人材が浮上できないような仕組みが出来上がってしまっているだけなのである。

今回の報道で残念だったこともある。マスコミの注目は麻生氏の発言にフォーカスを当てたものが多く上川陽子外務大臣が外務省でどのような取り組みをしているのかを紹介したものはなかった。おそらくは政策よりも「誰が何をしでかした」という政局報道のほうが数字が良いのではないかと思う。

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