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なぜここから始めなかったのだろう? 政府が子育て関連業務のオンライン化を推進 まずは出生届のオンライン提出から

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時事通信が「出生届がオンライン提出できるようになる」と伝えている。マイナポータル経由なのでマイナンバーカードを作る必要がある。例によってケチをつけようと思ったのだが、子育て世代はスマホに慣れているのだからおそらく抵抗も少ないのではないかと感じた。さらにうまく仕組みを作ることができれば育児でやらなければならないこと(例えば定期検診や予防接種)がスマホで整理できる。

つまりケチのつけようがない。「なぜここから始めなかったのだろうか?」とさえ思った。

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時事通信のニュースのタイトルは「出生届、オンライン提出可能に 今夏に暫定整備、26年度全国で―政府」である。まずは試験導入を行い将来的にはオンライン提出を基本とする計画だそうだ。

現在は戸籍情報とマイナンバーシステムが結びついていないため本格導入のためには市町村と医療機関を結ぶネットワークを整備する必要があるのだと説明されている。詳しいことはわからないので「ああそういうものか」と思うしかない。えてして日本の報道機関のITに関するニュースは要領を得ないものが多い。

いずれにせよ、本格導入が終わると医療機関の情報が直接地方自治体に送られるために手入力の手間がなくなるとされている。それまでの間は届出をする人(多くの場合は父母)が医療機関の出生証明書を写真で撮影して送ることになる。地方自治体は写真データから子供の身長や体重を書き写すため事務作業の手間が発生する。つまりヒューマンエラーによる間違いが起こる可能性がある。

2022年12月の読売新聞に「出産・子育ての行政手続き、全面デジタル化へ…民間のスマホアプリと連携検討」という記事が出ていた。マイナンバーカードの専用サイトマイナポータルを使うことを前提にして行政への申請をマイナポータルで一元管理しようとしている。確かにこれは便利そうだ。子供ができてから出生を経て予防接種まで「いつ何をすればいいのだろうか?」と疑問に感じる人もいるだろう。これらのメニューが全てスマホで出てくるのだから管理も非常に楽になるはずだ。

日本のDX化の最大の難点は高齢者対策だった。スマホなど使ったことがない人にスマホを使わせるのが難しいのだ。子育て支援にはこの障壁がない。むしろ「いつ何ができるかがわかって便利だ」というスケジュール管理上のメリットを享受することもできるだろう。

では実際に政府はうまくやり遂げることができるだろうか。ここで障壁になるのが地方自治体と政府DX部隊の温度差だ。

このシステムの前提になる「戸籍情報などの一体化」だがおそらくガバメントクラウドと呼ばれる共通基盤の整備が前提になっている。ビジネスITの報道によると2021年9月1日に施行され、2025年度末(2026年3月末)までに住民基本台帳や税に関わる20の基幹業務について、標準に準拠したシステムへの移行が義務づけられたとされている。

ただ、このガバメントクラウドに関しての当惑が広がっているそうだ。地方自治体は国が全てのアプリケーションを準備してくれると思っていたようだが実際には材料だけが渡されて「さあ好きに使ってください」という状態なのだそうだ。ビジネスITは「カレーライスを期待したらじゃがいもやニンジンなどの材料が出てきた」と表現している。国は「地方自治の本旨」の原則に従って地方自治体の自主的な取り組みを期待する。だが、地方自治体は総務省が手取り足取り指導してくれる状態に慣れてしまったようだ。「なんだ自分で考えろというのか」と文句を言っているのだ。おそらく言われるまで何もやらないという自治体も多いのではないかと思う。

おそらく現在最も重要なのはこの地方自治体の意識変革だろう。そのためには周りを巻き込む力のあるリーダーが求められる。

そう考えると、なぜ政府は最も面倒な健康保険証の置き換えから作業を始めてしまったのかという気がする。使える人から使ってもらえれば「ああこれは便利だ」と実感する人が増えていたかもしれない。そもそも地方行政の意識変革が難しい上に最もDX導入が難しい高齢者を変革に巻き込もうとしてしまったのである。丁寧に作り込んだシステムで便利さが実感できるようになればおそらくマイナンバーカードシステムへの理解は広がってゆくだろう。そうなれば自治体の首長の選挙などで「私が市長になったらこんなDXをやります!」と宣言して競争が生まれるのではないだろうか。

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