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岸田総理の「政治活動の自由と国民の知る権利のバランス」発言は、実は論理的なおかしさが簡単に説明できる

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政治と金の問題をめぐり集中審議が行われた。野党は激しく岸田総理を追求していたが結局中身のある回答は引き出せなかったようだ。この中で盛んに「政治活動の自由と国民の知る権利のバランス」という言葉が使われていた。落ち着いて考えると論理的におかしい発言なのだが気がついた人は多くなかったようである。政治批評ではなく「国語」の領域といえる。

この説明だと「国民が知る権利を行使すると政治活動ができなくなることがある」ということになってしまう。だがこんなことは民主主義社会ではあり得ない。政治家は主権者(国民)のエージェントだからだ。だから質問者は「国民の知る権利が政治活動を阻害する実例」を聞けばよかった。

だがこれについて考えると「そもそも誰に説明できないのか」ということも見えてくる。政治家は何らかの理由で手の内を明かさないで済むお金を必要としている。これが政治を歪め国民が「コレジャナイ」と感じる理由になっている。

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政治批判の文脈ではなく国語の問題として考えてみよう。政治活動の自由と国民の知る権利のバランスという言葉には「政治活動の自由と国民の知る権利は両立しない」という暗黙の前提がある。だから「国民の知る権利が政治活動の自由を制限するという事例を示しなさい」と質問すれば簡単に論破できた。だが、それをやった人は誰もいなかった。

ワードを抜き出してニュース検索してみた。政治活動の自由と国民の知る権利のバランスという表現を盾にゼロ回答でしたとする記事は見つかったが「そもそもこの言葉はおかしい」ことを説明した記事は見つからなかった。ああこんなものなのかと感じた。例としてNHKを挙げておくがどこもこんな感じだった。少なくとも、岸田総理がいうような歴史は(岸田総理の頭の中以外には)ない。

これに対し岸田総理大臣は「わが国では政党などの政治活動の自由という観点と、国民の知る権利の2つのバランスの中で議論が行われてきた。独立した機関の設置となると政治活動の自由と密接に関連する。各党・各会派で議論を行い、自民党もこの議論に真摯(しんし)に向き合っていきたい」と述べました。

仮にこの言葉を是とすると「国民に全てを知らせてしまうと政治活動が行えなくなる」ことになる。つまり総理大臣は繰り返し「いちいち法令遵守なんかしていたら政治なんかできないですよね」と主張していたことになる。

ややテクニカルになるのだが民主主義でなぜこの言葉が成り立たないのかを説明しておきたい。高校を卒業したくらいのレベルの人にとっては完全な蛇足だろう。

憲法は国民を主権者だと定めている。だが国民がいちいち全ての政治はできないので政治家を選んで権限を移譲する。権限を移譲するのだから何をやったかについては説明してもらわないと困る。どの程度政治に関わるかはもちろん主権者一人ひとりによって意識が異なるだろうが、聞かれた時には答えられるようにしておくべきだ。

株主と経営者の関係と国民と政治家の関係は似ている。

株主が説明しろと要求したら経営者はこれを拒めない。そして株主(投資家)が経営者が何をやっているのかを判断するためにさまざまな記録を残しておくことが求められている。経営者は「エージェント(代理人)」でエージェントが権限を移譲してくれた人に状況を開示することを「アカウンタビリティ」という。日本語では説明責任と訳されるが「責任(レスポンシビリティ)」という言葉は入っていない。経営者が説明責任を果たすことができないと罪に問われる。背任罪という。

政治家は国民から見るとエージェントである。エージェントは裏切る(背任する)ことがあるので常に監視をしなければならない。そのために憲法は国会に監査権限を与えている。国政調査権という。岸田総理の発言は「私は憲法を理解してません」というものなので、単にそれを追求すればよかった。

難しいことは実は何もなかった。

ではなぜそれができないのか。追求する側とされる側の双方に原因があったように思える。まず自民党側だ。おそらく国民に説明できないお金の使い道は権力闘争だろう。この結論に至る過程もそれなりに複雑だが、それは省くことにする。例えば「単に非課税のお金でいいものを食べていいところに住みたかっただけでは?」など複数の可能性があるのでそれを排除しなければならない。

岸田総理は「総理大臣になるためには配下の国会議員と地方組織の支持が必要だ」と感じているはずだ。そのためには自分が自由になるお金が必要なのだろう。

傍証が二つある。一つは河井克行氏の広島での行動である。公職選挙法で逮捕されているのだが、これを証明するために検察はかなりの無理をしている。公職選挙法には実効力がない(見つかっても被買収側の証言が必要だ)ため、やめるとしたらみんなで一斉にやめなければならない。この小さなケースが江東区で起きている。こちらは柿沢未途氏が買収容疑で逮捕されている。地元の議員の「気持ち」をお金で買おうとした。

もう一つの傍証が権力に固執する人たちと派閥の関係だ。次の総理を狙う茂木敏充氏が「いわゆる派閥は解消する」と言っている。だが政策集団は残したい考えだ。なぜ茂木氏は自分のグループにこだわるのか。

茂木氏は岸田氏の次を狙っておりそのためには集めた仲間を維持する必要がある。議員たちは大勢の配下の地方議員を抱えておりその権力基盤を維持するためにはそれなりのお金がかかっている。茂木氏には年間10億円近い政策活動費が渡っているとされるがその使い道を示す必要はない。朝日新聞は「手の内を明かさずにすむ便利なお金だ」と解説している。この「手の内」は国民に対する手の内ではない。対立野党や党内のライバルに手の内を明かしたくないのだ。

幹事長に「絶大な権力がある」とされるのはこの政策活動費のためだろう。こうなると岸田総理も自分の影響力のある人を残しておきたいと考えるはずだ。

中には誰かを担ぐことで政権に影響力を残したい人もいる。麻生太郎氏が「それほど美しくないカミムラさん」に興味を持ったのもその一例である。自分の意のままに操れる総理大臣を担ぎ上げ人事優遇などを通じて影響力を維持するという作戦だ。ただ、上川陽子氏はさすがに度胸が据わっている。

麻生氏の発言については、上川外相は周辺に「昔はもっとひどいこと言われたもの。麻生先生は何をたくらんで、わたしの名前なんて挙げたのかしら?」と話し、笑っていたという。

つまり「私を利用して権力を維持しようとしているのね」と見抜いていることになる。小池百合子東京都知事も石原慎太郎氏の「厚化粧」発言を逆手にとって選挙戦で利用していた。現代日本の女性政治家はこれくらいでないと男性優位の社会でやっていけないということがわかる。ある意味男性よりも鍛えられている。

つまり「国民に説明できない」のは権力闘争だということになる。そもそも国民も眼中になく「お互いに手の内が明かしたくない」だけの話だ。

小選挙区比例代表制のもとで国民は実質的に政権を選ぶ権利を奪われている。政権は選挙ではなく自民党内の派閥争いで決まるがそのためにはお金が必要なのだ。これを岸田総理は「政治活動の自由」と呼んでいることになるがそれは憲法に定めた結社の自由や表現の自由とは全く別の「自由」である。

ここまで考えると、岸田総理は党内の派閥関係にがんじがらめで身動きが取れなくなっていることがわかる。派閥と呼ぼうが政策集団と呼ぼうがお互いに「手の内を明かしたくないライバル関係」でありしがらみから自由になれない。出来の悪いポーカーゲームに夢中になっているために国民に視線が向かない。今後作られる新しいルールの中で「うまく裏金を作った人」が国民の意思とは関係なく次の総理大臣になるのだろう。そこで実施される政策はおそらく国民の要望とはかなりずれたものになるのだろう。これが「コレジャナイ」という私たちの違和感んの正体だ。

総理は「党内で関係者を事情聴取する仕組みを作る」というが「敵陣営に手の内を明かしたくない」と考えるひとが多ければ全容の解明には至らないだろう。ただこれを第三者委員会にやらせてしまうと野党に手の内を明かすことになる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024012900098&g=pol&m=rss

自民党は裏金作りを止めるつもりはないようで「餅代と氷代がダメなら花代にすればいい」とする人もいるそうだ。岸田総理はこの問題では「プレイヤー」なのでどうせ改革などできないと考える人が多いのだろう。自民党の中からはこんな発言も飛び出す。時事通信の一説だ。

存続を探る麻生派などからは「議員がパーティーで資金を集め、派閥に寄付すればいい」などと、早くも「骨抜き」を画策する声が漏れる。派閥から所属議員に活動費として配る「氷代」「餅代」も廃止されるが、党幹部の一人は「花代に改称すればいい」と冷ややかに語った。

一方で立憲民主党の追及も不発に終わった。岸田総理の説明は論理的に破綻している。衆議院ですでにこの発言を連発しており参議院でこれを論破するのは容易かったはずだ。だが、参議院で質問に立った小西洋之氏は自分の作ったストーリーに固執し「普通に考えればおかしいとわかる」総理大臣の説明について異議申し立てをすることはなかった。中途半端に頭がいいのも考え物である。

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