ざっくり解説 時々深掘り

ドイツに続きフランスの農民もトラクター反乱 一部はパリ封鎖を目指す

先日ベルリンがトラクターで封鎖されるというニュースを見た。どうやらこの動きはパリにも広がっているようだ。「パリを封鎖する」と息巻く農民たちがトラクターに乗って反乱を起こした。先日首相になったばかりの「イケメン首相」のアタル氏は牧草を前に集会を行い農民たちをなだめているが農民の一部はいまだに怒っている。

農民たちの怒りの理由は多岐にわたる。環境に配慮しすぎた「意識高い系」の政策がフランス政府の頭越しにEU議会から押し付けられている。小売業者は農産物を安く買い叩きたがる。穀物市場は世界的にリンクしており価格が乱高下する。外国からは安い農産品が輸入されてくる。これらの要素が重なったが最終的に「ディーゼル燃料の値上がり」が引き金になり農民が蜂起した。フランスだけでなく先進国で農業を維持することが難しくなっていると言うことがわかる。France24によると同様の抗議はフランス、ドイツ、ルーマニア、ポーランドで起きているそうだ。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






フランスの各地で農民たちがトラクターに乗って抗議運動を起こしている。抗議運動のニュースは1月下旬ごろからフランス各地に広がっていて落とし所が見つからない。

先日首相になったばかりのアタル氏はオートガロンヌ県の畜産場で農民たちと協議した。牧草の上に原稿を起き農民たちと語り合う写真が掲載されている。アタル首相の対策(ディーゼルに対する増税の中止などが盛り込まれている)に納得した農民もいれば運動を継続すると言っている農民もいる。ディーゼル燃料の値上げは単にきっかけにすぎない。ティッピングポイント(沸点)を超えた放棄運動がこの先どうなるのか見通しが立たなくなっている。

フランスの農業の置かれた状況はかなり深刻だ。きつくて休みも取れず、儲からないという理由で若者は農業を目指さなくなっている。結果的に農業従事者人口は高齢化する。さらに、10年間で10万の事業所がなくなった。また穀物相場が世界的に連動しているため穀物価格が下落すると農家は生計が維持できなくなるという。新興国では安価で小麦が作れるため価格競争力もない。

しかしながら一つひとつの記事を読んでも一体何を解決すれば農民が納得するのかと言う落とし所が見えてこない。ヨーロッパでは左派的な環境保護政策に人気があり農業への規制が強まっている。また消費者が安い食品を求めるため小売は農家への支払いを安く抑えようとする。こうしたさまざまな問題が積み重なってフランスの農業経営は随分長い間圧迫されてきた。まとめると「左派的な政策」と「新自由主義的な競争社会」の間に置かれていると言えるのだが、状況がここまで混乱すると構造分析をしても意味はない。今目の前で怒っている農家をなんとかなだめなければならない。

一体誰のせいなのかも分かりにくくなっている。ディーゼル補助金の削減を決めたのはフランス政府なのだが環境関係の規制を決めているのはブリュッセルのEUである。つまり官僚機構への反発がある。しかし農家の経営が圧迫される根本原因は自由主義経済だ。消費者は安い食料品を求める。

EUは6月に議会選挙を控えているが右派の躍進があるのではないかと言われている。環境や多様性に配慮する「意識の高い」左派に対して、もう我慢ができなくなった右派の人たちが怒っているという構図だ。右派はこの農民放棄とサイレントマジョリティの移民に対する怒りを結びつけたい。極右の移民に対する批判はエスカレートしており左派は反発している。

とにかくみんな何かに怒っているが誰に怒っていいかわからない。そこでトラクターに乗ってパリを目指すことにしたのだろう。「パリにはきっと何かを決めている人がいる」というわけだ。

イエローベスト運動の時には政府に従っていた警察も今回の騒ぎへの介入を控えているという。そもそも警察労働組合も「パリオリンピックに動員するなら割り増し手当をよこせ」という運動をおこなっている。イエローベスト運動の時には「一部の人たちが怒っている」と言う感じだったが、もはや警察も介入を控えるほど「みんなが何かに怒っている」状態になっている。警察の積極介入がないため市庁舎の前にゴミ(家畜の排泄物のように見える)をぶちまけたりとやりたい放題になっている。

一部は牛歩戦術でトラクターをゆっくり走らせる行動に出ているが、France24の報道では「カタツムリ作戦」と呼ばれテレビ朝日は「エスカルゴ作戦」と報じている。

フランス24には「抗議(protest)」というタグがあり農民反乱の様子も含めた政府に対する抗議活動の様子がまとまっている。農民がおいた牧草に車が突っ込み2名がなくなるという痛ましい事故の様子も含まれている。

アメリカの大統領選挙で国民が分断された様子は日本にも伝わってくるようになった。左派的な理想主義を「単なるきれいごと」と考える国民が増えていてそれがトランプ氏の躍進につながっていると言う側面がある。多様化や人口動態の変化、さらに意欲的な環境保護政策などのによって生まれる社会変化が激しすぎるためそれについてゆけない市民が大勢生まれている。同じようなことがフランスやドイツなどの「西側先進国」でも起きているのだが、国際ニュース安全保障問題中心で、こうしたニュースにまで注目する人はまだあまり多くないようだ。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です