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マイナス金利の解除は3月かそれとも4月以降か 本格的なインフレスタートで助かる人と切り捨てられる人

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今年初めての日銀政策会合が開かれた。内容はマイナス金利の維持だったがロイターが「コラム:3月のマイナス解除、否定しなかった植田総裁会見の本音」というコラムを書いている。年度明けを待たずに3月にもマイナス金利が解除されるのではないかという内容だ。いよいよインフレが始まる。好循環に乗ることができれば成長の果実の恩恵を得ることができそうだ。

ただ「どうやら見切り発車になりそう」ということもわかってきた。全ての条件が揃わなくても見切り発車で政策を変更することが予想されるため積み残されて取り残される人たちが出てくるだろう。

政治が何もしないため、結果的に日銀が切り捨てる人を決めることになるというわけだ。ただし金融政策が一夜にしてガラッと入れ替わるわけではない。希望的観測を述べるならば「動向を見極めつつ準備する時間はある」のかもしれない。

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植田総裁は春闘の動向を見て「どうやら政策変更の前提である賃上げが達成される可能性が高まった」と言っている。つまり春闘に参加するような企業の労働者は政策変更の恩恵を受ける。問題は中小企業だ。「中小企業の賃金の上昇を待たない」ことを匂わせた。仮に「上げようと思えば上げられるが躊躇っている」という会社で働く労働者は流れに乗れるのだから救われる。だが「賃上げは無理」な中小企業はこの動きについてゆけず切り捨てられることになるだろう。

さらに政策変更時点で「消費への悪影響が将来解消される見込みがあれば」政策を変更しても構わないと言っている。あくまでも日銀の「見立て」で見切り発車となる。実際に消費に悪影響が出ても「間違っていましたごめんなさい」で済んでしまう可能性があるということだし「全員をボートに乗せられませんでしたがそれはそれで仕方ないですね」となるかもしれない。日銀の総裁は総理大臣の任命なので国民に対して直接責任を取る必要はない。今回の大きなポイントの一つは「消費への悪影響が見られても見切り発車しますよ」というこの宣言にあるといえる。詳しくはコラム本文を見ていただきたい。

展望レポートを待たなくても政策変更はあり得るとしたことから「世界経済の諸状況を考えると経済統計に縛られてはいられない」という焦りのようなものも感じるが、全ては植田総裁ら日銀幹部の「塩梅」にかかっているといえそうだ。

では今回の日銀展望はどのようなものだったのかも見てゆきたい。ロイターの表題は「対面型サービス」の回復である。

物価の伸びは緩やかだが「賃金上昇の原資を得るべく回復している」と日銀は主張している。特に対面型サービスの伸びが目立つというのがロイターの表題の含みだろう。では「対面型サービス」とは何か。別途調べるとこれはこれはコロナ禍で需要が抑制されていたサービスを意味する。コロナ禍下では外出が控えられたため「従業員と客が対面接触する」サービスの需要が低下し従って価格転嫁などできなかった。2022年ごろの経済展望では「コロナ禍は終わったのになぜか対面型サービスが伸びずおうち需要だけが高まっている」とされてきた。

これがようやく回復期に入っているということは単に「ようやく日常が戻り始めた」ことを意味しているだけなのかもしれない。「対面型サービスが回復したこと」=「デフレマインドの脱却」とは言い切れない。さらに旅行業が伸びているのはおそらく円安により割安感が増したことによる外需インフレだ。外国人が多い観光地はバブルのような状態になっているところもあると聞く。

おそらくそんなことは日銀もわかっているだろう。だが今までのアベノミクスは持続できないのだから、あらゆる「良い兆候」を拾い出して、世の中はインフレ転換した、いやそうに違いないと言い続けるしかない。

つまり今の時点で恩恵を感じ始めている人にとっては「早くインフレが始まらないかなあ」ということだ。逆に今「どうも業績が回復しないなあ」と感じている企業で働いている人たちはおそらくこのまま切り捨てられることになる。あとは「政府と企業でなんとかしてください」というのが日銀の本音なのだろう。都市部や人気の観光地はおそらくこれで助かるだろうが僻地は切り捨てられることになりそうだ。つまり自分が今どこにいるのかを見極めて「明日生き残るため」の行動を始めなければならないということだ。

もう一つ影響を受けそうなのが医療・社会福祉である。仮に政府が突然目覚めて「明日から日本の経済を良くするために実効性のあるプランを立てます」と言えば話は別だが、今の所は自己責任を徹底するしかなさそうだ。岸田政権は政治と金の問題に揺れており中長期的な社会展望を立てられる状態ではなくなっている。

懲罰感情に基づいた「政局報道」も重要なのだが、経済に対する影響は別のところで冷静に観察する必要がある。財務省は2027年度には利払費が5.6兆円増えるだろうとの資産を出している。2027年度の仮定利息は2.4%である。日本全体の経済が好循環を起こせばこの利払費を賄うことは可能だ。だが、仮に政治が何もせず単にインフレだけが進行することになれば、その負担は医療・社会福祉の受益者がなんらかの形で負うことになる。

おそらく岸田政権はそれほど長くもたないのではないかと思うのだが2027年ごろの政権担当者はかなり苦労することになりそうだ。野党の指導者たちも本音では政権など担当したくないと考えているかもしれない。冷静に野党の発信を見るとデフレからインフレへの転換を前提にした独自の経済政策を提唱している野党はない。自民党政権が続くことを前提にしてその政策の不備を糾弾している政党と「政治家が身を切る改革をすれば増税は避けられる」と叫んでいる野党があるばかりだ。身を切る改革政党の中にも玉砕不可避のインパール作戦のような巨大プロジェクトを進めているところがある。政党によってはまとまった政策すら作れず幹部同士がいがみ合っている姿が見せ物になっているところもあると言った具合である。

このような状態で一つだけ確かなのは「政治家はだいたい責任を取らないものだ」という点だけである。動向を冷静に見極めてできる範囲で備えるしかない。

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