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ニューハンプシャー州でバイデン大統領のAI偽電話が広がる

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ニューハンプシャー州の予備選挙でバイデン大統領の声色に似せた自動音声通話が流されて混乱が広がった。もはや何でもありになったアメリカ大統領選挙だがついに何者かがフェイクのAI音声電話をかけて選挙を混乱させようしたようだ。背景には複雑な予備選挙の仕組みと民主党側の混乱があった。自動音声の狙いは明らかになっていないがバイデン候補の躍進を妨害しようとしたという説が有力だがこのほかにヘイリー氏を妨害しようとした可能性もあるのではないかと思う。

ヘイリー氏はトランプ政権化で国連大使を勤めた。元サウスカロライナ州知事でパンジャブ系シーク教徒として育った女性という異色の経歴を持つ。予備選ではトランプ氏に連敗して後がない状態になっている。

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「ニューハンプシャー州」と検索すると「予備選を最初にやる州」という情報が出てくる。人口は140万人弱で住民はほぼ白人という州だがこの「最初に予備選をやる」100年の伝統が州民たちの誇りになっている。

そんなニューハンプシャー州の有権者たちの元にバイデン大統領からとする電話がかかってきている。民主党のキャシー・サリヴァン氏の個人携帯電話からの通話ということになっていた。電話は自動音声によるもので「予備選挙に投票してしまうと本番の選挙での選挙権を失う」ので「選挙権を取っておかなければならない」と主張している。もちろんそんなことなくフェイクである。誰がそんな電話をかけたのかはわかっていないそうだが5000〜25000回ほど掛けられた可能性が指摘されている。

背景にあるのは複雑なニューハンプシャー州の投票の仕組みだ。

無党派が多いニューハンプシャー州の住民は共和党支持・民主党支持・無党派の登録をする。政党として認められているのは共和党、民主党の2つだけである。普通の州では共和党支持者は共和党、民主党支持者は民主党でしか投票できないが、ニューハンプシャー州は特別で直前にどちらの予備選挙に投票するのかを選ぶことができる。ただし両方に投票することはできない。

ヘイリー氏は既存の共和党支持者ではなくトランプ氏の対抗候補として人気がある。無党派層が参加するニューハンプシャー州で躍進できればその後バイデン大統領に対抗できる候補として躍進できるとされてきた。逆に無党派層を選挙から遠ざけてしまえばヘイリー氏は失速しトランプ氏の指名獲得がほぼ確実なものとなるだろう。ここまでを考えると「トランプ陣営が無党派を混乱させようとしているのではないか」という疑念が生じる。トランプだけは嫌という無党派があえて共和党側に投票するとヘイリー氏に勢いがつく。この可能性を避けたかったのではないかということだ。

だが今回はこれだけが混乱の理由ではなかった。バイデン氏は前回のニューハンプシャー州の選挙で出遅れていた。このため今回サウスカロライナから予備選をスタートすることに決めた。ところがニューハンプシャー州は法律で「どの州よりも先に予備選をやること」と定められている。決定に怒ったニューハンプシャー州の民主党は中央に従わないことを決めた。すると中央は「それならばニューハンプシャー州の投票結果は考慮しない」と決定しバイデン大統領もニューハンプシャー州の選挙に参加しなかった。

このまま民主党側の予備選挙が行われるとバイデン氏不在のままで選挙が行われる。CNNによるとバイデン陣営は「リストには入っていないがバイデン氏の名前を書いてくれ」と要請しているという。このためCNNは「何者かがバイデン陣営を妨害しようとしている」という書き方をしている。民主党のキャシー・サリヴァン氏は「バイデン氏の名前を書き込もう」とするキャンペーンを支援しているのでこの運動を妨害できるという見立てだ。TBSがニューハンプシャー州の民主党を取材している。確かに彼らはかなりバイデン氏のやり方に怒っている。

NBCの最初の報道によるとターゲットになった人たちが誰かはわかっていないようで、従ってその電話の意図もよくわからない。無党派に向けられたものなら共和党側の予備選に参加してヘイリー氏を支援したい人を妨害するための電話である可能性がでてくる。一方民主党員に電話がかけられたとするとバイデン氏陣営を妨害しているということになる。

しかしながら結果を見ると別にそんなことをしなくてもよかったのにと感じる。まずヘイリー氏はトランプ氏に勝てなかった。選挙戦を撤退するほどのひどい負け方はしなかったのだが「共和党はほぼトランプ氏で決まりだろう」と言われている。ヘイリー氏が知事をしていたサウスカロライナ州負ければ撤退も現実の可能性として語られるようになりそうだ。

さらにバイデン氏も民主党側の「非公式予備選」のトップだった。つまりバイデン氏もわざわざ100年の伝統を破壊する必要はなかったのだ。

アメリカの大統領選挙はバイデン対トランプでほぼ決まりだろうといわれているわけなのだが、両方の候補ともにヘイリー氏躍進の可能性に内心苛立っていることがわかる。ちなみにヘイリー氏は現在はキリスト教に改宗しているが元々はパンジャブ系のシーク教徒である。仮に大統領になればオバマ氏に続くマイノリティ出身で初の女性大統領ということになる。

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