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トランプ氏が日本の原爆投下を引き合いに「アメリカの大統領は何をやってもいいんだ」と主張

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時事通信が「トランプ氏、原爆例に大統領免責主張 特権なければ「落とさなかった」」という記事を書いている。被爆国の日本としては「なんというひどいことを言うのだ」と言う気持ちになる。ましてやそのような認識を持った人が同盟国アメリカ合衆国の大統領になる可能性がある。考えただけで暗澹(あんたん)としたものを感じる。だがおそらくこの感覚はアメリカ人にとって特に特異なものではないだろう。

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時事通信の記事は次のような組み立てになっている。

  • アメリカの大統領は国を守るためにはなんだってやっていい。
  • だから私も大統領就任中には何をやってもいいはずだ。
  • だから自分が刑事訴追されるのはおかしい。

この文脈で「原爆」が使われている。決して褒められたことではないがアメリカを守るためには仕方がない行為の例として引き合いに出されているのだろう。

トランプ氏の発言に被爆地の犠牲者に対する敬意は感じられない。だが、これはトランプ氏にとっては通常運転である。トランプ氏は常に「自分を支持する美しい人々」に包まれているがその外側にいる人たちに対する関心は高くない。メキシコ国境の向こうには麻薬や精神障害にまみれた邪悪な人たちが大勢いるに違いないと言うような主張が展開されている。

同盟国とは言えトランプ氏にとって日本は「壁の外側のどうでもいい世界」の一つだ。

ただしこのトランプ氏の「美しい世界」に共鳴する人は増えている。オレゴン州のコーカスではトランプ氏が圧勝している。後がなくなったニッキー・ヘイリー氏はついにトランプ氏は頭がおかしくなったのではないか?と主張し始めた。人格攻撃をする以外に有効な対策が見つからないのだろう。

ではなぜヘイリー氏はトランプ氏はおかしくなったと主張したのだろうか。トランプ氏は民主党のニッキー・ヘイリー氏を攻撃する発言を繰り返したがどうも辻褄が合わない。どうやら民主党のペロシ氏と混同しているようだ。おそらくトランプ氏にとっては「自分に逆らう嫌なガミガミ女」くらいの括りになっているのかもしれない。トランプ氏の外側の世界に対する彼の認識はその程度だ。これでは議論が噛み合わない。

ではアメリカ合衆国はこの発言をどれくらいひどいものだと感じているのだろうか。Newsweekに記事が出ているので読んでみた。

この記事が問題にしているのは被爆国に対する配慮ではない。トランプ氏の主張が法的に正しいかどうかだ。つまり彼らにとって重要なのは法的な理屈であって被爆国・同盟国に対する共感ではない。アメリカ合衆国の法的枠組みはかつての絶対王政のような無限免責特権を大統領には与えていないため、最高裁判所がトランプ氏の主張を認めるようなことはないだろうと言っている。なのでアメリカ人とこの議論をすると彼らはやたらと「彼らの法的な整合性」にこだわり共感を求める日本人とは話が噛み合わない。

Newsweekの記事にはトランプ氏の発言について否定的なコメントも掲載されているがこの内容も被爆国の感情からは受け入れ難いものだ。「広島ではなくワシントンDCなら起訴されていた」と言うコメントが紹介されている。広島に原爆を落とすのは国を守る正当な行為だと言う意味になる。だからワシントンDCの議会襲撃と一緒にしてはいけないという。

さらにこの記事には公平性メーターというものが取り付けてあり読者が記事を評価ができるようになっている。当然評価は「左に傾いた不公正なもの」となっている。トランプ氏を批判するものはすべて「社会主義者の妨害」と見做されてしまう。そこに同盟国に対して寄り添うという姿勢は感じられない。

アメリカ合衆国は日本の大切な同盟国であり日本の安全保障は大きくアメリカ合衆国に依存している。このためこの程度のことをあまり大きく騒ぎ立てるべきでもないのだろう。

だが、アメリカ人が自分達の外側に対して関心を持たないという点はよく理解しておくべきだろう。彼らにとって重要なのは「自分達の裏庭の芝生がきれいか」どうかであってその外側にいる人たちがどんな気持ちで何を考えているのかにはさほど関心がない。その意味ではトランプワールドの中で美しさに浸っている人たちが極めて偏ったおかしな人たちというわけでもないのだろう。彼らは典型的なアメリカ人に過ぎないのだ。

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