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岸田総理流の「幕引き構想」が明らかに 派閥はもう用済み 選ばれた人間のために周りが犠牲になるのも当然

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検察の処分が決まった。岸田派からも元会計責任者が立件されることになったが岸田総理は「きっと彼がなにか間違えたのであろう、俺は知らないが」と立件にさほど興味を持たなかったようだ。また次の総裁候補の梯子(はしご)となる派閥も焼き払う決断をしたようだ。次の統治機構についての構想はなさそうなので、国民と自民党議員の支持がなくてもやって行けると判断したのだろう。

この先、自民党と岸田総理に何が起ころうと自己責任ということになる。期待されたような逮捕者が出ずに「なんだがっかりだ」と感じた人たちも多いのではないかと思う。つまりこの話題にもさほど注目が集まらなくなるかもしれない。だが、本当に面白いのはおそらくここから先である。大抵の場合「時計がひとりでに作られること」はない。つまり壊れてしまった統治機構がひとりでに元に戻ることはない。

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岸田派の立件のニュースは朝刊に合わせた朝日新聞発信が最初だったようだ。朝日新聞のタイムスタンプが4時でNHKが記事を書いたのが5時22分だった。NHKも画面上では「独自」としている。これまで世話になったNHKと朝日新聞に対して検察が報告をしたという趣がある。

いずれにせよこの2つの媒体が伝えたことで、最終的に「秘書と会計責任者が全部やりました」で幕引きになりそうだ。

「三権分立」を勘違いしている人も多いが、検察はあくまでも行政権(法務省)の配下にあり法務大臣を通じて総理大臣に報告通路がある。法務大臣が検察を指揮することも少なくとも法的には認められている。だが検察に指図をしないまでも報告は求めることができる。

政権から切り離された安倍派には情報は伝わらないはずだ。安倍派の幹部たちも若手に何も説明していないくらいだ。だが、岸田総理にはなんらかの情報が伝わっているはずだ。処分内容は既にまとまっており19日に発表されるのを待つだけという状態になっている。小泉龍司法務大臣は元二階派だが早々と派閥を離脱していた。このため、岸田総理が最も有利な条件で「情報ゲーム」を進めることができる。

今後の今回の一番の焦点は「切り捨てられた側の恨み」である。特に今後予想される処遇の怨念と不透明さは自民党にとって大きな火種になるはずだ。今回の決断は岸田総理の「国民の支持も議員のサポートも必要ない」という意思通告だ。あとはどうなろうが国民には関係ない。つまり岸田総理の自己責任である。

二階俊博氏本人も「秘書が勝手にやりました」「派閥の会計責任者がやりました」でお咎めなしだった。安倍氏は既に亡くなり高齢の二階氏が岸田総理のライバルになることはない。金の流れさえ止めてしまえば二階氏の権力の源泉は失われる。だから二階氏が立件されるかどうかにも実はあまり意味がない。

岸田派・宏池会は2018年から2020年までの3年間に3000万円のパーティー収入が不記載だったことがわかっている。だが、すでに会計責任者ではなくなっているようで「当時の」とか「元」会計責任者と表現されている。

TBSによる岸田総理の総括はまるで他人ごとのようだった。本当にもう岸田派に興味がないのではないかと思う。

「事務的なミスの積み重ねであるという報告を受けております。私自身、在任中から今日まで、それ以上のことは承知をしておりません」

自分は選ばれた人間であり周りの人間は人生をかけて選ばれた人間を守るべきである。会計責任者と会長が切り離されているのはいざとなった時に泥をかぶるためであり今回の措置は当然だと考えているのではないか。そのため岸田総理の表情にはなんら迷いは見られなかった。足元のアリが踏み潰されても可哀想と思わないのと同じような表情だった。知らないというより興味がないのだろう。

権力へのハシゴとしての派閥はもう用済み

岸田氏が伝統ある宏池会に意味を感じているのであれば今回の一連の行動は極めて不自然にしか映らない。だが、彼の政治目的が総理大臣になり任期をできるだけ伸ばすことにあると考えると今回起きたことは簡単に説明ができる。

派閥の領袖の椅子は総理大臣への梯子(はしご)に過ぎない。岸田文雄さんという人間が総理大臣になったところで派閥は役割を終えたことになる。ただし他の派閥が残っている場合その領袖たちが自分の地位を脅かすことになりかねない。そのため岸田総理は岸田派の領袖の地位を手放せなかった。今回安倍派が機能不全に陥ったことで安倍派から自分の地位を脅かす人がでてくることはなくなった。

すると今度は岸田派・宏池会の中から自分を脅かす人が出てくる可能性がある。それが古賀誠氏が後継者と公言して憚らない林芳正官房長官である。だから林芳正氏が宏池会に戻った時にも会長の地位は与えなかった。これを潰すためにはどうすればいいか。岸田派も解散するか無力化してしまえばいいのだ。あくまでも仮説だが「だから総理は岸田派を含む派閥を解散する方向に動き始めた」と説明することができる。自分が登ってきた梯子を焼き払えば屋根には誰も登れなくなる。

政策集団は止めなくても構わない。重要なのはお金の流れだ。連座性にして派閥の金の流れを止めてしまえばあとは党から個人に渡す政策活動費のみが資金源ということになる。実は派閥資金の透明化は今権力を持っている人に都合のいい「刷新」なのだ。

これに抵抗すると思われるのが麻生太郎副総裁と組んで次の総理大臣を狙う茂木氏である。旧竹下派の領袖の地位が源泉になっている。今後茂木氏と麻生氏の情報発信が一つの見どころになりそうだ。

梯子を焼き払うということは屋根から降りられなくなるということでもある

派閥がなくなると岸田派議員と言えども総理大臣の意向によって人事が決まることになる。だから切り離されることがわかっていても意向に逆らうことはできない。所定のシナリオに沿って回答をせざるを得ない。あくまでも「間違いましたごめんなさい」で済ませるつもりのようだ。TBSが伝える岸田派のコメントは次の通りだ。

「ノルマ超過分の還付(キックバック)を収支報告書から除外するなどの不適正な処理を行うことを意図したものではありません。記載漏れが生じたことについて、深くお詫び申し上げます」

こうなるともはや誰が逮捕されるのかとか誰が生き延びたのかということはどうでも良くなる。もともと岸田総理は安倍総理のように無党派への支持を集めることで権力基盤を固めようとしてきた。しかしそれに失敗すると今度は自分を追い落としそうなものを切り崩すという戦略にでた。

ところが岸田総理の構想は検察捜査という「機会」を利用したものであり次の統治機構に関する構想がない。これは今後岸田総理が難しい決断を迫られた時に自分に代わって周囲を説得してくれる人がいなくなるということを意味している。派閥の領袖を通じて派閥をまとめることもできなくなってしまうのだから、あとは孤立した官邸が全てコントロールすることになる。

今後人事は岸田総理の好き嫌いによって決まることになる。少なくとも周りはそうみるだろう。当然排除された人はなぜ自分が取り立てられないのかがわからないと不満を募らせてゆくはずだ。

加藤の乱のルートと安倍派の末期のルートを参考に次について考えてみよう。

小渕恵三総理は無投票再選を望んでいたが加藤紘一氏が対抗に立った。これに腹を立てた小渕氏は加藤一派を役職から遠ざけた。小渕恵三氏が亡くなると談合によって森喜朗総理が誕生した。森喜朗総理は当時から失言が目立ち国民は森首相を支持しなかった。当時国民に人気があった加藤紘一氏はこれをチャンスと捉えてマスコミの応援をバックに森喜朗を討伐しようとした。当時は野中広務という剛腕の幹事長がおり加藤派を切り崩したとされている。だが、岸田総理にはそのような懐刀はいない。さらに言えば加藤紘一氏のように期待されるニューリーダーもいない。

加藤氏のように人気のあるリーダーがいない場合にはさらに悲惨なことになる。

安倍晋三氏は自分を脅かす後継者を造らず複数の領袖候補を競わせる戦略をとった。さらに派閥の外にいる高市早苗氏を総裁候補に立てて清和会のリーダー候補を牽制する。徹底的に後継者を作らないのが安倍流だった。高市氏には組織的背景がなく安倍氏としては利用しやすいコマだったといえるだろう。安倍晋三氏が亡くなった後、森喜朗元会長がこの戦略を継承し「自分が可愛がっている複数名」を競わせることで発言力を増そうとした。結果的に安倍派の統制は乱れ今回の事件をきっかけに崩壊に向かおうとしている。

国民に人気が高いリーダーが出ればそのリーダーの下で倒閣運動が起きるが仮に誰も出なければ統制を失って内部崩壊する。今回の政治刷新会議でも岸田総理に物申すという人が出てこなかったことから統制を失って内部崩壊に向かうルートの方が起きる確率は高いように思える。これは実権を失いつつあった当時の天皇が貴族たちを牽制して自分の政治力を保ったのに似ている。だが内裏内の闘争が「政治のすべて」になったことで平安朝は当地の実効力を失っていった。

いずれにせよ、岸田総理はもはや国民の信頼も議員のサポートも必要ないと考えているようである。この先岸田政権と自民党がどうなるかはわからないが「国家予算と党費さえ掌握できれば国民の助けなんかいらない」として次の統治機構についてなんら示さずに権力維持に舵を切ったといえる。いわば岸田総理が党内クーデターを仕掛けたといえる。

総理の決断を尊重して見守りたい。あとは自民党がどうなろうがそれは彼の決断による彼の問題だ。いわば岸田総理の自己責任と言える。混乱するか収まるかはひとえに彼次第といえる。国民が関知するところではない。

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