【お詫びと訂正】当初タイトルを「イランに予想外の反撃 イラン大使も人質に取り「強いパキスタン」をアピール」としていましたが、記事をよく読むと「イラン大使がパキスタンに戻れなくした」ということでした。お互いに大使を送り返し外交関係を途絶したことになります。お詫びして訂正します。
先日、イランがパキスタン領内にミサイル攻撃を加えたというニュースがあった。この手のことは不安定な地域ではよくあることなのだろうと軽く見ていたのだが思わぬ事態に発展しつつある。
パキスタンがイラン領内に報復を加え、イランから送り込まれている大使を人質にとったようだ。背景を調べてみるとやはりというべきか選挙が行われる。パキスタン当局が「強いパキスタン」を国内外にアピールしようとしたのだろうとBBCは見ている。
不安定化する民主主義は外に敵を求める。今回の予想外の報復もそのわかりやすい事例の一つといえそうだ。
今回のパキスタン側の報復についてロイターは次のような識者の声を紹介している。想定外だったというのだ。
米国平和研究所で南アジア安全保障を担当するアスファンディル・ミール氏はロイターに、「イランがパキスタンを攻撃する動機は依然として不明瞭だが、この地域におけるイランの幅広い行動に照らせば事態はエスカレートする可能性がある」と指摘。「パキスタンがイラン領内を攻撃して一線を越えたことはイランで不安を引き起こすだろう。これは米国やイスラエルでさえ越えないようにしている一線だ」と述べた。
さらにBBCによるとパキスタンは註イラン大使を引き上げたが「イランからの大使の入国を認めない」としているという。お互いに交換していた大使がいなくなるということになり、つまりは外交関係の途絶を意味する。
だがきれいごとは言っていられない。大使はイランが再報復を行う際の抑止材料になる。もうこうなると日本の戦国時代さながらだ。
16日の攻撃を受け、パキスタン政府は自国の駐イラン大使を召還。さらに、イランの駐パキスタン大使がパキスタンに戻るのを認めない意向を示した。
想定外と言われようがパキスタン政府には強気に出なければならない事情がある。パキスタンは2月に議会選挙がある。汚職で公民権を剥奪されていたシャリフ元首相は復権する。一方でカーン元首相は出馬を許されなかった。
政府のカーン一派に対する弾圧は徹底している。識字率の低いパキスタンでは投票の際にシンボルが使われる。カーン氏の政党のシンボルはクリケットバットなのだがその使用が禁止された。選挙直前に新しいシンボルを浸透させるのは極めて難しいため事実上の選挙弾圧になる。ロイターが次のように書いている。
A party’s electoral symbol on ballot papers is significant for voters to be able to identify its candidates in the South Asian nation of 241 million people, where the majority of the constituencies are in rural areas with low literacy.
イランにはまともなメディアがないためなぜイランがパキスタン攻撃を行ったのかはよくわからない。だが、結果的に選挙直前のパキスタンを刺激することとなった。イランに対して弱腰の姿勢を見せては選挙に影響が出る。また強気の態度を見せることが現政権に有利に働くかもしれない。民主主義が国際情勢を刺激し予想外の展開を迎えることがあるという事例の一つになった。
考えてみるとハマスの攻撃にも似たような側面がある。きっかけ自体はハマスの暴発とも言えるものだったが政治的に不安定なネタニヤフ首相はこれを最大限に利用しようとしている。ただしイスラエルの国際的立場は不安定なものになりバイデン大統領でさえネタニヤフ首相に苛立っているなどと言われている。
民衆の声が最大限に反映されれば世界は平和になるはずだった。だがこのところの民主主義(特に選挙)は世界情勢の不安定化と排外主義の源泉になっている。これをどう説明すべきかはよくわからないがとにかくそうなっている。
アメリカなどのまともな民主主義の国はイランに対してこのようなめちゃくちゃなことはできないだろうが、そもそも権力闘争に首までどっぷり浸かっているような国はそれなりのやり方でイランと対峙してゆくことになるのかもしれない。それはイスラム専制のイランも同じことだ。中央アジア地域からアラブ圏にかけて日本の戦国時代のような新しい独特の情勢が生まれつつある。