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リベラル受難の時代 マクロン政権が「学校での制服の義務化」と国歌教育の義務化を検討

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マクロン政権が公立学校での制服の義務化に向けて試験導入を行う。同時に国歌を学校で教えることを義務化すべきであるとも表明した。「フランス人としてのアイデンティティ強化」を狙った動きと考えられる。日本のリベラルは「世界ではこんな政策が実施されている(世界とはたいていヨーロッパのことだ)」とフランスやドイツを引き合いに出すことが多いが、そのフランスで「愛国教育」に向けた右傾化の動きが始まっていることになる。

右派は「それ見た事か」と大喜びだろうがこれもちょっと考え直した方がいい。おそらく団結は敵を必要とする。つまり団結は排外主義とセットになっている。

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AFPの記事自体は極めて短いものでこれだけを読んでも良く内容はわからない。「制服を導入すると格差が是正される」などと導入理由を説明している。ただし今回は試験導入するだけで直ちに全国で制服義務化が実施されるというわけではない。

マクロン大統領の発言には極めて「集団主義的な」価値観が盛り込まれている。フランスは個人主義の国と表現されることが多いだけに意外な感じがする。

私たちがもっと団結し、価値観や共通の文化を共有し、教室や街頭、公共交通機関や店舗で互いに敬意を持つことを学び直せば、フランスはもっと強くなる

さらに「学校で市民教育(日本で言えば公民のようなものだろう)カリキュラムを2倍に増やす」とか「小学校で全員にラ・マルセイエーズ(国歌)を学ばせるべきだ」などと主張しており、制服の狙いが「集団への帰属意識を高める」ことにあるのは明らかである。

このマクロン大統領の突然の表明に違和感はない。フランスではルペン氏が率いる極右政党への支持が高まっており、EU議会選挙では躍進するものと見られている。移民政策は極右を排除する形で採決されたが保守の言い分を多く含んだものとなった。内閣が動揺したため女性首相を切り捨て、若い男性の首相を起用する。アタル首相はイスラム系の衣装アバヤの公立学校での着用禁止などで国民に人気があった。つまり、離反する保守層を繋ぎ止めるための選挙対策としての右傾化という側面がある。

アフリカ系の住民が増え「フランス人とは何か」という問いに対する答えは自明のものではなくなりつつある。

モロッコがワールドカップで躍進した時にはフランスとベルギーでサポーターが暴徒化した。日頃から経済的に不遇だと感じているモロッコ系の一部のファンがサッカーでの躍進をきっかけに暴動を起こしたのだ。中にはすでにフランスで生まれフランス国籍を持っている人もおり「フランス人とは何か」というアイデンティティが揺れていることがわかる。

今回の表明の裏には財政的に国民福祉を支えられないという事情もありそうだ。大統領は同時に「子ども・医療関連の新施策発表 政権立て直し狙う」と表明したが具体策には乏しかった。

立て直しの中には育児休暇の短縮なども含まれている。年金改革からの一貫した流れだ。マクロン大統領は福祉支出の削減を行おうとしている。フランスの子育て支援の手厚さも日本のリベラルから引き合いに出されることが多いが実はフランスの政策は行き詰まり始めている。具体策に乏しいため「精神的引き締め」で乗り切ろうとしているのかもしれない。

人々が団結するためには外に敵を必要とする。フランスの場合それは外国製品の締め出しや移民の排斥だったりするだろう。つまり、団結と排斥はセットにならないと効果を発揮しない。この見解は現時点では仮説に過ぎない。これが正しいかどうかはEU議会選挙の結果によって明らかになるだろう。マクロン氏が率いる政党が勝てば仮説は棄却されルペン氏が勝てば支持される。

フランスはサブサハラからの撤退を進めておりかつての地域大国からヨーロッパの普通の国に移行しようとしている。もう経済的にアフリカを支援できないという事情があるがこの現実を受け入れることができない人も多いはずだ。

日本もアジアでの経済的優位性が低下した時に愛国教育の必要性が声高に叫ばれた。当時も愛国と中国や韓国に対する蔑視感情がセットになって展開されていた。他人に対する排除には罪悪感が働くためそれを正当化するなんらかの理由が必要になる。政権を担っているマクロン大統領はさすがにアフリカ系フランス人の排除などを言い出すことはできないが実際にはイスラム系排除を強く打ち出せば打ち出すほど政権維持には有利に働く。と同時にそれは国内に深刻な文化闘争を引き起こすだろう。アメリカ合衆国で起きていることを見ればそれが良くわかる。

排外主義を打ち出せないマクロン大統領の今回の提案はそれほど右派には響かないのではないかと感じる。サイレントマジョリティは「団結」だけでは納得しないのではないか。

年金受給年齢の引き上げや各種補助金の削減提案はイエローベスト運動を引き起こした。マクロン大統領の支持率は下がってゆくがフランスでは左派と極右が協力できずマクロン大統領はかろうじて大統領として再選された。しかし議会での支配権を失ってしまい旧来の保守派と協力しなければ政権が運営できなくなっている。結局、フランスが行き着いた先は「愛国心と排外運動」だったことになるが「切り捨てられそうになっている怒り」を抱える中流のなかの下層が納得するとは思えない。今回のマクロン大統領の政策はたんなる「何かの始まり」に過ぎないのかもしれない。

団結が国を強くするのならいくらでもやってもらって構わないという気がするが、おそらく国家権力が団結を強調するのは何かが失敗した時なのではないかと思う。指差して声高に何かを批判している間、人々は内側の問題について考えずに済む。ただそれだけのことである。民主主義はおそらくは本質的にこうした状況を自然に修復することはできない。

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Comments

“リベラル受難の時代 マクロン政権が「学校での制服の義務化」と国歌教育の義務化を検討” への2件のフィードバック

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    以前から「愛国心」という言葉を聞くと、なぜだか忌避感のようなもの持っていました。今回の記事を読み、「団結は排外主義とセットになっている」という言葉を読んで腑に落ちました。排外主義がちらついているのを感じていたのが理由だったと分かりました。
    愛国心を唱えるのに排外的な言動は不要で理想的だと思いますが、排外的な言動が不要な状況ならば、愛国心を唱えなくても自然に愛国心を持てるのでしょう。

    1. 集団を作って争うというのはヒトとしての本能みたいなものですもんね。民主主義の歴史ってこの本能に抗う歴史だったと思うのですが、それが逆行しているんだろうなあという気がします。