連日、政治と金の問題について書いている。SNSのQuoraのコメント欄で「全体像をがわかりにくくなっている」という意見をもらった。改めて関連情報をまとめてみると「意外と色々な報道があり」と感じる。そこでこれまでの情報(誰が逮捕され、誰が立件され、誰が起訴されるか)を簡単にまとめつつ、最後にわかりにくさの理由についても私見ながら分析したい。
報道を見ていると「そういえばあの人の名前が出ていない」という人もいる。
これまでのあらまし
しんぶん赤旗の報道をきっかけに大学教授が調査をして検察に持ち込んだ。朝日新聞を通じて検察の捜査状況が伝わり主に「安倍派と二階派の問題だ」ということになる。安倍派幹部の立件もあるのではないかとされたが、年始になり「議員側の立件は慎重に検討する」とトーンが下がり同時に朝日新聞経由のリークもトーンダウンしていった。現在は読売新聞の情報が確定情報として扱われているようだ。
議員側は逮捕者1名と起訴2名にとどまる見通し
結果的に安倍派幹部7名は不起訴になりそうだと読売新聞が伝えている。
幹部たちは「会長(安倍さんか細田さん)の案件であって自分達は知らない」と証言している。読売新聞によると起訴を免れたとされているのは下村博文・元文部科学相(69)、松野博一・前官房長官(61)、西村康稔・前経済産業相(61)、高木毅・前党国会対策委員長(68)、塩谷立・元文部科学相(73)、世耕弘成・前党参院幹事長(61)、萩生田光一・前党政調会長(60)の7名である。検察審査会がこの判断を覆す可能性は残されている。
立件されるのは不記載が4000万円を超えた池田佳隆衆院議員(57)(同法違反容疑で逮捕)、大野泰正参院議員(64)、谷川弥一衆院議員(82)の3名だ。
立件すなわち逮捕ではない。
池田氏のみ逮捕となっているのは捜査への協力姿勢が見られなかったからである。証拠隠滅を図ったとされ悪質性が際立っていた。一方で高齢の谷川氏は議員辞職の意向を固めた。本人の同意が必要なのだそうだが逮捕されず在宅のままで書類だけが送られる「簡易的な処理」になる。在宅起訴・略式起訴という。罰金と公民権停止がつく可能性が高いが次の選挙に出ないのであれば実害は罰金だけだ。4月に細田博之氏逝去に伴う補欠選挙が予定されているためこれに合わせて長崎でも選挙が行われるものと見られている。
気になる二階会長の処遇
読売新聞は二階氏の名前も出している安倍派と違い存命で現役の会長である。ただし二階会長がどうなるのかについての報道は一切出てきていない。今後の進展が気になる。一応任意で事情を聞かれてはいるようだ。
今後の自民党の対応
自民党は刷新本部を作り議論をしているが安倍派からの参加者10名のうち9名がキックバックを受けて裏金を作っていたことがわかっている。岸田総理は裏金は疑惑に過ぎず排除の論理は適さないとして不問とする方針だ。安倍派議員は「みんなで一斉に修正すれば一人ひとりが目立たないのではないか」と考えており一斉訂正を検討している。不起訴された上で形式的に修正さえすれば「なかったことになる」というのが自民党の基本的な考え方である。中間取りまとめは1月中に出ることになっているが最終的な取りまとめがいつになるのかについて確定的な情報はない。
金丸事件を参照して「今後は脱税でも立件されるのではないか」と期待する声もある。確定した報道ベースではないので今回は言及しない。
今回の問題が分かりにくい理由
今回の件がわかりにくい理由も考察した。
何が良くて何が悪いのかがよくわからない
第一に善悪の基準がはっきりしない。「使用目的がわからないお金(裏金や中抜き)」が悪いのか形式的に法律に合致していればそれでいいのかという議論がない。すでに挙げたように岸田総理は「結果的に立件されなければ修正だけすれば良い」という姿勢だが、有権者が納得するのかはよくわからない。
次に検察の基準も明確ではない。そもそもリークで国民の期待感を高めたという経緯があり、なぜ状況が変わったのかを誰も説明していない。また、4000万円であれば立件されそれ以下は不問になるという基準も検察が独自に定めたものであって法的な規定があるわけではない。今回は逮捕者が出たことで「なぜ他の2名は逮捕されないのだろうか?」という疑問も生じた。Xの投稿を見ていると検察は司法の一部と誤認している人たちもいるようだが正確には法務大臣に指揮下にあり行政権の一部である。司法制度や三権分立について国民の知識があやふやな点もわかりにくさの一因になっている。
さらに「裏金」や「使途不明金」そのものが違法ではないという事情もある。二階氏は幹事長時代に50億円もの資金を政策活動費として受け取っているのだが政党から個人への流れは違法ではない。茂木氏も10億円のお金を受け取っている。さまざまな「報告しなくて良いお金」がある。これらを飲み食いや買い物に使うと「所得」となり納税の義務が発生するのだが、政治資金に使ったと政治家が主張すればそれを信じるしかないというのが現在の法律の立て付けだ。金丸事件を念頭に「脱税で行けるのではないか」とする人もいるが証明は極めて難しい上に検察がどこまで意欲を持っているのかもよくわからない。
寄付とパーティーの基準も曖昧だ。西村康稔氏は実態のない架空パーティーを開いていたとされる。寄付で受け取れないお金をパーティーという形式で受け取っていたものと考えられるのだがこれもまだ事件化はされていない。そもそもなぜパーティーと寄付が分かれているのかもよくわからない。
そもそもなぜそんなにお金が必要なのかもよくわからない
自民党の政治家が「使用目的を報告する必要がないお金」をかなり必要としていたことは確かだが、これが何に使われたのかはよくわからないし、今後これが捜査されるのかもわからない。ただ自民党の議員はやたらに報告義務がないお金を必要としていてそれを何かに使っていることがわかるのみだ。仮に全て政治活動(主に選挙のことなのだろうが)に使われているとすれば恐ろしくコスパが悪い選挙が行われていることになるのだが、本当にそれが適正な支出なのかも全くわからない。
有権者にとっても「所詮は他人ごと」
最後の要素は有権者かもしれない。「そのまま許しますか、厳罰化しますか?」と聞かれると「厳罰化の方がいいに決まっている」とはいう。だが、かと言って投票行動で主権者としての意思を示そうという気運はまったく見られない。
自民党が気に入らなければ選挙で投票しなければいいだけの話だ。だが実際にはそうなっていない。野党への支持につながっていないことから今の政府が負担さえ増やさないでおいてくれるなら別にこのまま放置しても構わないと考える人が多いのではないかと思える。
NHKの調査では自民党の支持率が微増しており逆に立憲民主党と国民民主党の支持が下がっている。地震などの有事に際して東日本大震災の記憶が呼び起こされた可能性がある。
また岸田総理の支持率も若干戻している。地震対応は100点とはいかないがまあまあやっているのではないかという評価だ。能登半島一部の問題だと考えられており自分ごととは見做されていないのではないかと思う。有権者は自分達の問題と他人の問題を極めて厳格に区別している。
派閥に関しては「よくわからない」か「どうでもいい」と考える人が多いようで存廃に関しては意見が分かれた。自民党の派閥の在り方は「勝手に議論してくれればいい」ということなのだろう。人々の関心は賃上げと社会保障の維持にある。
岸田総理がどうしたいのかも見えてこない
岸田総理は「とにかく議論はしていますよ」という形だけを示している。また、議員全体の意見を聞く方針だ。総理自体が派閥についてどのような考えを持っているのかという報道は見られなかった。