ドイツで極右政党と分類されているAfD(ドイツの為の選択肢)などが移民追放を謀議したとしてちょっとした騒ぎになっている。「肌の色の違う人たちは出てゆけ」とはかつてのナチスを思わせる議論だが東ドイツでは支持を伸ばしているそうだ。
ナチスの台頭を経験しているドイツはAfDを排除する為の法律を適用することもできるが、その実施には慎重なのだとう。却ってサイレントマジョリティを団結させかねないという事情がある。
時事通信が「極右政党、移民追放を謀議か ナチス想起に波紋広がる―ドイツ」という記事を書いている。AfDが中心になりナチスを思わせるおぞましい計画で活動禁止なども取り沙汰されているという。肌の色の違う人たちを追い出してアフリカのどこかに移住させるという計画だそうだ。つまり有色人種を捨てるゴミ箱のようなものを北アフリカに作れと言っている。いうまでもないことだが現在のアフリカにそんな植民地はない。
確かにおぞましい計画なのだが色々と考えるところがある。第一にこの手の議論はヨーロッパ全体に広がっている。移民送り出しは実際にイギリスで話し合われている。受け入れ先はルワンダだが、現在最高裁判所が法律を差し止めている状態だ。
こうした極論は普段は政治的な意見を表明しない「サイレントマジョリティ」たちの受け皿になっている。おそらく何らかの経済的な不満が背景にあるものと思われるが声なき声なので彼らが何に不満を感じているのかがよくわからない。時事通信はCDU(保守野党)からも謀議に参加した議員がいると指摘しており一定の広がりを感じさせる。
ただしこれだけでは内情がよくわからないのでもう一つ記事を探して読んでみた。「Germany’s far-right AfD is soaring. Can a ban stop it?」というタイトルでAfDを政治的に排除すべきかが議論されている。
SPDの党首サスキア・エスケン(Saskia Esken)氏は禁止案の議論に賛成を表明した。一方でAfDの共同党首であるアリス・ワイデル(Alice Elisabeth Weidel)氏は「禁止という考えは馬鹿げている」と言っている。法的にはAfDを禁止することもできるそうだが「これが却って相手を増長させかねない」というリスクがある。仮にSPDへの支持が高くAfDの支持が低いならば良いのだろうが今の状態では政治的に不利だから迫害したと言われかねない。
BBCの報道によるとドイツでは2023年のバイエルンとヘッセン州を皮切りに2年にわたって州議会議員選挙が行われ2025年の連邦議会選挙が行われることになっている。比較的裕福なバイエルン・ヘッセンでさえもAfDが支持を伸ばしている。2024年の東ドイツ地域の地方選挙ではAfDが第一政党になる可能性が高い。いったんAfDが首長ポストを得ると保守を中心に極右と協力しようとする議員が出てくる。今回の謀議に中道保守政党から参加者があったのもそのためだろう。
フランスでも極右の主張を一部取り入れる形で保守が移民排斥に近い動きを見せている。ユダヤ系の若い首相が任命された。学校でのアバヤの禁止などを打ち出したことがある。また文化大臣として起用されたラシダ・ダチ氏も保守系のベテランとされる。サルコジ政権下で失言で知られる人なのだそうだ。
AFPによるとダチ氏は過去の記事でこのように描写されている。
ダチ氏は法相時代、有名デザイナーのドレスを好み、ゴシップマガジンの表紙を飾るなどの派手な振る舞いが軽率すぎると批判を招き、前年に辞任に追い込まれたが、その後、欧州議会の議員に就任している。
イアン・ブレマー氏率いるユーラシアグループはヨーロッパでの極右の台頭は「思っているほど大きな問題ではない」と指摘している。だがイギリス、ドイツ、フランスなどヨーロッパ先進国の状況を見ると「本当に大した問題ではないのだろうか?」といささか不安な気持ちになる。