エクアドルの公共放送が占拠され15分に渡って大混乱状態に陥ったという。なぜこんなことになったのかを順を追って調べてみた。占拠された時の映像はYouTubeなどで見ることができる。日本で言えばNHKのニュースに暴徒が乱入したという感じだが中には自慢げに爆発物をひけらかす人もいてまさに「やりたい放題だな」という感じだったようだ。一種のテロだが参加している人にはそれほど悪気もなさそうだ。国家統治という常識が崩壊していることがわかる。
エクアドルは典型的な「バナナ共和国」でまともな国家体制が作れなかった旧スペイン領国家の典型的末路と言える。だが、今では状態がさらに悪化しておりギャングが統治する国になりつつある。難民の発生源になりかねないためアメリカ合衆国がかなり慌てている。非常事態宣言を出しているノボア大統領がアメリカに介入を要請するかが現在の注目ポイントだ。
エクアドルはもともとスペインの植民地(ペルー副王領)だった。スペインの主な関心事は南米からの収奪であり国家統治にはさほど関心を持たなかった。ナポレオン戦争でスペインが弱体化すると各地で内乱が起こり満足な統治機構を持たないままに各地の地方勢力がそれぞれ独立した。
その後、中南米はアメリカのプランテーション経済に組み込まれる。「バナナ共和国」などと言われているように安価な果物の供給地とされた。アメリカの民主主義は企業家による市民統治が基本なので政治家たちは企業活動が有利になるように外交や軍事を動かしさかんに中南米に介入した。
一方で、現地農家は単なる労働力と見做され彼らの人権はさほど重要視されなかった。アメリカ合衆国は民主主義国家だというイメージがあるがそのふれこみには表面と裏面がある。アメリカ合衆国は国内では奴隷を非合法化したが中南米の「奴隷的労働」は放置された。
中南米の庶民の不満の受け皿になったのが反米左派だった。積極的にゲリラ活動を行う国、諦めてしまった国がある一方で、資源国や成功した農業国はバラマキに走る傾向がある。これをポピュリズモと呼ぶ。反米左派がポピュリズモにより財政を悪化させると今度はアメリカに近い自由主義者が政権を奪取するというような状態が生まれた。エクアドルは産油国だが産油資源が国民経済を発展させる方向には向かわず統治機構も作られなかった。
ついにエクアドル経済は破綻する。2000年1月に米ドルが法定通貨になった。これも今回の混乱の遠因になっている。アメリカドルが国内流通するということは国家が通貨を管理しなくなるということを意味する。マネーロンダリングの温床になった。政治が何もしないことで港湾も荒れ果てた。そこに入ってきたのがベネズエラとペルーのギャングたちだ。
ベネズエラとペルーのギャングたちは麻薬輸出のためエクアドルの港に目をつけた。これをきっかけに治安が荒れ始めたとNHKが書いている。当然彼らは国家に税金を納めることはなく自警団を作る。通貨はアメリカドルなのでマネーロンダリングもやりやすい。このため犯罪組織が警察化し病院や学校にみかじめ料を要求するようになった。刑務所も彼らの拠点になってしまった。
エクアドルのラソ大統領が2023年5月17日に大統領令によって議会を解散した。「国営石油会社ペトロエクアドル」の汚職疑惑を大統領が放置していると野党勢力が批判していた。弾劾自体は成立しなかったそうだが危機感を感じた大統領は議会選挙と大統領選挙のやり直しを宣言する。
だがすでにまともな選挙が行えるような状態ではなかった。選挙の数日前に大統領候補のフェルナンド・ビジャビセンシオ氏が殺される。ビジャビセンシオ氏はペトロエクアドルの元組合員で後にジャーナリストとして石油契約を巡る数百万ドルの損失疑惑を告発したとされている。麻薬マネーの流入で国家が混乱している上に政治も機能していないという状態だったことがわかる。
大統領選挙は8月20日に行われたが1回目の投票では決着がつかず10月15日に決選投票が行われた。やり直し選挙のため大統領のは2025年5月までとなる。結局右派と左派の対決になり結果的に実業家のダニエル・ノボア氏が勝利した。バナナで財を成した実業家の息子でありアメリカの支援が期待されている。
新しく誕生したノボア大統領のもとでも政情は安定していない。むしろ悪化の一途を辿っており、刑務所はギャングたちの拠点になっている。ギャングの大物が脱走して街は騒乱状態になっておりノボア大統領は「エクアドルは紛争状態にある」と非常事態を宣言した。ホワイトハウスが協力を表明している。ここで介入しなければ混乱は全土に広がり移民がダリエン地区を超えて押し寄せてくる。
エクアドルだけでなくメキシコ連邦政府も一部の統治権を失っておりギャングに支配されている地域がある。連邦政府は統治権を取り戻すためにあの手この手だがうまくいっていない。現在大統領の有力な候補者であるドナルド・トランプ氏はメキシコに派兵してギャングを掃討すると宣言している。メキシコが移民と麻薬の供給地になっているからである。
イスラエルがハマス掃討に苦労しているように、おそらく米軍がギャングを壊滅させることはできないだろうと米軍の当事者は見ているそうだ。あるギャングを壊滅させたとしてもそれが分裂して増殖するだけだ。結局のところ市民生活を安定させないかぎり問題を根本的に解決することはできない。
中南米ではこのように麻薬の製造が産業化している地域がある。麻薬はアメリカ合衆国の治安も悪化させるが送り出し国の民主主義にとっても大きなリスク要因に成長しつつある。