中国の外相と岸田外務大臣が会談したというニュースが、多くの日本人を立腹させている。このニュースで強調されているのは、中国が突きつけた「対日要求四か条」だ。
- 歴史を反省し「一つの中国」の政策を厳守すること。
- 「中国脅威論」や「中国経済衰退論」をまき散らさないこと。
- 経済面では中国を対等に扱うこと。
- 国際・地域協力で中国への対抗心を捨てること。
これを聞いて「当然の要求だな」と思った。国際的には日本はアメリカの属国であり、独自の外交権限を持たない。中国人は格にこだわる。だから国家主席は行政府の長にすぎない首相ではなく天皇に会いたがるのだ。日本の利権を分け合うのであれば、中国はアメリカと交渉するはずだ。
そもそも「属国」なのだから、大国のように中国に張り合おうとするのが「不相応なのだ」と中国は考えているのではないだろうか。安倍政権はアメリカの権威を笠に着て威張っているにすぎない。これは軍事力の面でいえば、事実だといえる。アメリカからも「日本はフリーライダーだ」という声が挙りつつある。
この中で種類が違って見えるのは「経済面で中国を対等に扱うこと」という項目だ。安倍政権は中国を閉め出すためにTPPを推進しようとしているわけだが、中国としては「あんたが中国を閉め出すなら、あんたも何されてもいいんだよね」ということになる。当たり前の要求である。
中国が日本を厚遇してくれるのは、日本がお土産を持ち込んだときだ。これは朝貢と言われる。すると、中国は大国としての威厳を示す必要がある。庇護と見返りを与えるのである。すると、問題になるのは「岸田さんは何かお土産を持っていったのか」ということで、言い換えれば「岸田さんはいったい何をしに行ったのか」ということになる。ニュースでは全く伝えられない視点だ。これが伝われば、国民は岸田外交の巧拙について評価できるのだが、情報が何もないので「中国が一方的に要求してきた」とか「岸田(もう、世間では呼び捨てになっている)は何をしに行ったのだ。がつんと言い返すべきだ」などと言われてしまうのである。
日本が朝貢外交を展開すれば、すぐさま「屈辱だ」という声が飛んでくるだろうが、国交の正常化を通じて権益の確保を狙ったものと思われる。要求があるなら「お土産」を持ってゆくのが基本である。にも関わらず安倍政権には「お願いする姿勢」が足りない。
- 安倍政権は自分でコストを支払わないのにも関わらず、アメリカの威を借りて分不相応の権威を振りかざしている。
- 一方で敵対的な言動を繰り返し、中国を仮想敵とし、国際的な中国の囲い込みを画策している。
- にも関わらず域内で商売させてくれと言っている。
なぜ、これで会談が成立すると思ったのかは不明だが、中枢にいる人たちがお坊ちゃん育ちで、自分の意志を忖度してもらって育ったのかもしれない。人に何かお願いしたことがないのだろう。だから、開発費をばらまくというサンタクロース型の外交しかできないのだ。
中国の件はあまり心配にならないのだが、懸念が二つある。一つはロシアとの領土交渉で功を焦るあまり、相手の課題な要求を丸呑みしてしまわないかという点だ。ロシアからの北方領土交渉がゼロ回答だったら慶賀だと思った方がよさそうだ。ラブロフ外相は「北方領土は交渉対象だ」と言ってみたり「平和条約と領土は別」と言ってみたり一貫性がないが、言い換えればロシアは日本と交渉したがっているということになる。
もう一つは、アメリカとの関係だ。アメリカは明らかに費用負担を要求をしており、日本はいったんそれを飲んだ。もしここで実行しないと「やはりあいつら(つまり日本そのものだ)は口ばかりで信頼ならない」と言われる可能性が高い。アメリカ人はしつこく要求するので、日本人は嫌われたくないばかりに曖昧に返事をすることがある。すると、たいていアメリカ人は後で怒りだすのだ。「お前イエスといったじゃないか」というわけだ。
「安倍政権はアメリカにフリーライドしている」と言われてもピンとこない人がいるかもしれない。中にはアメリカに相応の負担をしているなどと主張する人(政治家でもこういうことを言う人がいる)がいるので、念のために書いておく。例えていえば、たまたまパーティで会った有名人と撮影した写真をインスタグラムにのせて、自分の経歴を詐称するようなものだ。口に出しては言わないが「私は、こんな人たちと同格ですよ」とほのめかすわけだ。これが誰の機嫌を損ねるかは一目瞭然だ。そのうち、誰も相手にしてくれなくなるだろう。