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リーダーシップ論から見る – 安倍は何に失敗したのか

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安保法制が改正されてからしばらく経った。しばらく、この問題から離れてから眺めてみると、安倍がなぜ失敗したのかがよくわかる。安倍にはリーダーの資質が決定的に欠けていることが分かる。リーダーシップの欠如は様々な弊害を生み出している。
と、同時にリーダーというものがどのような資質を持っていなければならないのかということもよく分かる。今回は安倍のリーダーシップの欠如に着目して、リーダーシップについて学んでみたい。
まず、環境を見てみよう。戦後、日本は連合国から武装解除させられた。日本が武装解除を前提とした憲法を作ったのは連合国を納得させアメリカの単独統治を正当化するためだった。アメリカ側にも利点はあったろうが、日本側としても虐待した中国(当時は国民党)が入ってくるのは避けたかったのではないだろうか。憲法はその線に沿って作られたが、後に米軍が展開する必要から再軍備を迫られた。結果、憲法と現状が合致しなくなったが、アメリカは特にねじれにはこだわらなかった。法律の整合性を取るのは日本の内政の問題であって、アメリカとしては必要な機能さえ満たせればよいからだ。結果、憲法と実勢がねじれる現状が温存された。
ところが、外的環境が変わった。東西冷戦が集結し、ソ連が世界秩序の担い手の地位から撤退した。アメリカは拡大する軍事費を一人では賄いきれなくなり、各国にはっきりと世界秩序の維持に必要なコストを支払うようにと伝えるようになった。また、オバマ政権時代入ってから、アメリカは何回か連邦予算凍結の危機に直面している。最近出始めた記事によると、イギリスにはGDPの2%を軍備に当てるようにプレッシャーをかけていたそうだ。オバマ大統領は「フリーライド」を嫌っているとも言われている。
さて、安倍の第一の失敗は、展望とビジョンに欠けているところだ。実際にはアメリカが困窮しているのだが、それを勝手に自分の思い込みに置き換えた。それは「中国の脅威が強まっている」というありもしない図式だ。
そればかりか、安倍はアメリカを自分の権威付けに利用しようとした。自分たちはアメリカとうまくやっていますよという図式である。そのために、アメリカ政府からの要求を隠蔽した。
この結果、安倍は日本人に必要な「意識変革」を迫ることができなかった。アメリカは第二次世界大戦後、東側陣営との対抗上日本を優遇する必要があった。日本人は意識改革をする必要があった。ところが、安倍はそれをやらなかった。代わりに「自民党に従っていれば、何も変えなくてすむ」という偽りの安心感を与えた。「負担が増えることはない」とも明言した。
ここまで「アメリカ」という主語を使ってきたが、実はこれも間違っている。実際にはジャパンハンドラーと言われる特定の関心を持った人たちとオバマ政権は別の意図を持っていたようだ。ジャパンハンドラーは「日本のナショナリズムを高揚させるために中国の脅威を利用しろ」とか「ホルムズ海峡に展開しろ」というジャパンハンドラーの要求を「アメリカの要求だ」と思い込んだ。後にホルムズ海峡の事例は議論を混乱させることになる。状況が変わり、イランが国際社会に復帰したからだ。
結果的に、安倍は展望とビジョンを持たず、状況認識を間違え、コミュニケーションの通路もうまく確保せず、必要な変革を国民に迫らなかった。リーダーシップの機能はビジョンを明確にし、冷静な状況分析をもとに、必要な変革を受け入れ可能なものにすることだが、どれも果たせなかった。
では、安倍のリーダーシップの欠落はどのような弊害をもたらしたのか考えてみよう。
まず、そもそものねじれの原因である憲法第九条の改正がほぼ不可能になった。解釈でどうとでもなるのだから、あえて変える必要はないわけだ。「国民に人権があるのがおかしい」などと言い放つ議員が野放しになっており、国民は憲法改正そのものに消極的だ。憲法改正によって「俺たちが威張れるようになる」という幻想を持った人たちが大勢いて、実務的なニーズの充足が難しくなっている。
次に現状認識に歪みを生じた。今でも「中国が攻めて来る」と考えている人は多い。逆に「安倍は戦争を企んでいる」と考える人もいる。リーダーは組織を統合するものだが。下手なリーダーは混乱を作る。結果、国防上では何をやろうとしても「感情的な議論」が不可避になる。そればかりか、本当に必要な課題から目がそらされている。この夏の参議院選挙の争点は「立憲主義」だそうだが、本来ならやらなければならないことはいくらでもあるはずだ。
第三に、変化に対応できなくなった。政府の議論はガラスでお城を組み立てるように繊細なものになっているのだが、アメリカの状況は変わりつつある。オバマ大統領がほのめかしていた要求はあからさまなものに変わりつつあるのだ。トランプ候補は「防衛費の分担のない国から撤退する」とか「自前で核でもなんでも持てばいい」などと言いはじめている。別の候補は裏から軍事費の負担を求めるはずだ。だが、日本は国民に様々な約束をしており、柔軟に状況に対応することができない。今後、対応を迫られるたびに「国論を二分する」大騒ぎが繰り返されるだろう。
さて、ここまでは表向きの混乱だ。しかし、その裏には別の混乱もある。それは信頼関係を損なったことである。
表立って語られることはないだろうが、日米関係はかなり深刻なダメージを受けているはずである。アメリカは「〜だから〜しろ」と要求してきているはずだ。「〜しないなら〜ということになる」とも言ってきているだろう。ところが、安倍政権はにやにやしながら勝手な解釈をしているのではないだろうか。「分かってますよ、本当は中国をやっつけたいんですよね」といった具合だ。予めジャパンハンドラーに吹き込まれた情報が文脈を与えているのだ。「日本は交渉相手にならない。明確に要求を伝えても真剣に受け止めているかは分からない」と思っているはずだ。
優れたリーダーは組織を統合し潜在力をうまく利用するが、無能なリーダーは組織を分断しする。日本は明らかに無能なリーダーを頂いており、安全保障や経済上の大きな脅威になっている。国民は目前の課題に注力せず、意味のない議論を繰り広げるばかりだ。
このことから、リーダーシップというものがいかに大切かということがよく分かる。

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