「ああまだ番組として続いているんだ」と思った。「朝まで生テレビ」の元日スペシャルで田原総一郎さんが田崎史郎さんを怒鳴りつけたそうだ。田崎さんは「議員は逮捕されない」と断言している。これだけ裏金問題が報道されているのにそれはおかしいのではないかという田原さんの気持ちはわかるのだが、実際には「そういうこともあるのかもな」という気がする。報道のトーンが微妙に変わりつつあるからだ。
スポーツ報知に「田原総一郎氏、「朝生」で田崎史郎氏が「裏金事件」を巡り政治家の「逮捕者ない」発言に憤慨…「誰も逮捕されないのはおかしい!」」という記事が出ている。
田崎史郎さんは「(議員の)物理的な逮捕はない」と断言しておりそれに対して田原総一郎さんが「こんなスキャンダルが出て誰も逮捕されないのはおかしいよ!」と憤っている。確かに田原総一郎さんを応援したくなる。どう考えてもおかしいからだ。
田崎史郎さんはテレビでかなり便利な使われ方をしている。普段は自民党有力者と食事ができる貴重な情報源として取り扱われているのだがスキャンダルが起きた時に自民党議員に代わって「叱られる」という役割がある。
年末のテレビ番組で田崎史郎さんは泉房穂さんに怒られており「すっきりした」とか「泉さんを新しいコメンテータに迎えるべきだ」と評判になっている。蓮舫参議院議員もこれに乗り「金額で足切りをするなどとは許容し難い」「何を守っているのか」などと田崎史郎氏を批判していた。
政治報道にはいくつかの側面がある。問題を掘り起こし問題解決に寄与することもあるのだが、情報バラエティ化した政治番組では「視聴者のカタルシスを呼び込んで終わり」になることの方が多い。泉房穂さんの発言で「ああすっきりした」と感じる人が多いのはそのためだ。その意味では泉さんも田崎さんも「いい仕事をしている」といえる。プロレスには「いいもの」と「わるもの」が必要だが「わるもの」を演じられる人は少ない。事情に詳しい割に何を言われてもニコニコしている田崎史郎さんは叩かれ役としてかなり便利な存在だ。
だが実際の報道は「田崎さんベース」で進んでいる。検察が軌道修正をしている。共同通信が年末に「会計責任者らを1月刑事処分へ 高額受領議員側も立件可否検討」というヘッドラインの記事を出している。会計責任者の処分はほぼ決まった。だが高額受領議員は「立件の可否検討」とトーンが落ちている。さらにいえば安倍派幹部に対する言及はない。
当初検察は政治側からの圧力を恐れて積極的に情報を開示してきた。朝日新聞とNHKの報道が目立っていたことからなんらかの情報通路ができていたものとみられる。だがある時からこのルートの情報が少なくなった。
代わりに登場したのがTBSや産経新聞などだ。TBSは「【独自】キックバックを「地方議員に配る資金に充てた」 安倍派の一部議員が東京地検特捜部に説明 自民・安倍派「裏金」事件」という記事を出し、産経新聞は「<独自>安倍派複数議員「中抜き」 パーティー収入不記載拡大、10億円超か」と「<独自>森元首相の関与有無解明へ 東京地検、パーティー収入不記載事件」と2本の<独自>記事を出している。検察が媒体を選んで使い分けていることがわかる。
ここから考えられる落とし所は次のようなものになる。
形式犯なので事務方は立件する。さらに地方議員などに裏金が渡っており森喜朗氏に上納された可能性もある。ついでに言えば中抜きをしていた議員もいるらしい。だが今の法律では彼らを立件することはできないかもしれない。検察には権限がなく調査もできない可能性すらある。
田原総一郎さんでなくても「そりゃおかしいよ!」と言いたくなる。
だが、法律を変えなければ「裏金」は残ったままということになる。国民がどう思おうが田原総一郎さんが吠えようが、彼らは無罪放免ということになりかねないというのが現在の法律の形である。とうぜん法律を作る人に有利になっている。
ここで国民の側が「政治家を叩いてすっきりしました」で満足してしまうとこの話は終わりになってしまう。特に泉房穂さんは「いい仕事」をしすぎた。視聴者たちは泉さんの代弁に満足しており、そこで「ああよかった」で解散してしまう。田原総一郎さんの発言に「そうだそうだ」と思う人が多いとやはり同じことになってしまうのだ。
田崎史郎さんは一貫して「それは国民の選択ですよね」と言い続けている。実はこの人が一番冷静なのかもしれないと思う。おそらく田崎さんを代理で叩いて満足していてはいけないのだ。