1月2日の韓国メディアは騒然としたことだろう。記者たちに取り囲まれていた李在明（イジェミョン）共に民主党代表が何者かに襲撃された。その後李在明氏は釜山の病院に搬送されたがヘリコプターでソウル大学病院に転送された。手術は成功し一命は取り留めたようだ。
最新情報では容疑者は牙山市に住む不動産仲介業の男（60代）であるとされている。動機については何も語っていない。李在明氏には城南市長時代と京畿道知事時代に汚職の容疑がかけられているが容疑者は黙秘を貫いており動機はわかっていない。
李在明「共に民主党」代表は大統領候補として尹錫悦大統領に僅差で敗れた。その後国会議員として政治家活動を続けているが市長・道知事時代に不動産に絡む汚職を行ったのではないかとされ逮捕状が請求されていた。李在明氏は「捜査には応じる」としていたが土壇場で世間の同情を集めるためハンストを行った。共に民主党の議員たちも「これはみっともない」と感じるようになり、国会で逮捕許諾の議決が出る。その後検察の逮捕状が司法から棄却されたことで政治家活動を再開した。
容疑者は支持者の扮装（ボランティアの支持者たちがアイドルのファンクラブのようなものを作るのが韓国式のようだ）で釜山の新空港建設地の視察中だった李在明氏に近づいた。そしてサインをねだるふりをして首にナイフをかざし頸静脈を損傷させた。深い恨みと決意を感じさせる。最新の報道で政治的な背景のない不動産仲介業者の60代の男であると言うことがわかっている。韓国語の報道では1957년생 김아무개씨と表現されている。1957年生まれの金某氏ということになる。牙山市は京畿道の南に位置する忠清南道にあり釜山からは離れている。
政治的背景は明らかではないのだが、共に民主党政権時代に不動産価格が暴騰しており政治家もかなりの蓄財をしたのではないかと疑われている。政治というよりは経済的な恨みがあったのかもしれないと感じさせる。ただし、金某氏は動機をなんら供述していないという。
韓国で政治と検察の関わりがたびたび疑問視されることがある。総選挙を控えており手心を加えたと批判されかねないため尹錫悦大統領も韓東勳氏（選挙が終わるまで与党「国民の力」の非常対策委員会の指揮をとるのだという）も強い口調で政治的テロを批判している。二人とも特捜検事出身で気心が知れているがそれだけに政治家に対する捜査に関してさまざまな噂にさらされやすいともいえるだろう。おそらく国民の力は李在明氏の汚職を追求し選挙を有利に進めたいと考えていたはずである。
このように李在明氏は共に民主党にとってリスクファクターになっていた。選挙直前に同情票が集まることも予想されるためネット世論ではさまざまな噂が飛び交っているようだ。
そもそも党内で退陣圧力があった代表が亡くなればリスク要素は取り除かれ世間の同情も集まる。不動産価格の高騰に恨みを持つ人を焚き付けて「悲劇」を演出することで政治的なベネフィットを得ようする人も当然出てくるだろう。共に民主党は議員に対して「この件について発信を控えるように」と指示していて退任論も結果的に沈静化している。
単なる経済的動機による私憤である可能性もなくはないのだが、衆人環視の中で容易に李在明代表に近づくことができたということは確かであり、背景に複雑なものを感じさせる事件だった。