石川県能登地方から佐渡にかけて存在する長い海底断層に起因すると見られる群発地震が起き、令和6年能登地震と命名された。東日本大震災の経験からテレビは強い口調で逃げるようにと呼びかけていた。元日ののんびりムードが一転し怖い思いをした人もいるかもしれない。だがNHKのアナウンサーのトーンは原発情報では一転して抑制的になっていた。潜在的に原発問題を刺激することを恐れたのだろう。この時には全く考えもしなかったのだが実は志賀原発は休止中だった。敷地内にある断層の性質が議論になっていたためだ。
NHKのトーンは人々の間にかなりの動揺をもたらした。人工地震ネタが飛び交い、復興増税を気にする人もいた。普段から「負担増」に強い警戒心を持っている人がいかに多いかということもよくわかる。
初めにお断りしておく。「運が良かった」というのはかなり不謹慎な見解だ。マグニチュード7.6で最大震度7なので犠牲者なしというわけにはいかなかった。これを書いている時点で7名の方の死亡が確認されており夜明けの後の報告でさらに被害が増えるかもしれない。輪島市では火災の情報もある。逃げ遅れた人がいるとされている。
一方、国際ニュースをまとめている関係から中央アジアで地震が頻発している情報に接してきた感覚からすると被害者の数は桁違いに少なかったとも感じている。
たとえばアフガニスタンでは2022年にM6.1の地震があり1000人以上がなくなっている。また2023年にはM6.3の地震がありこちらでは2000人以上の死者が出ている。
アフガニスタンにはプレート近くで地震が多いことが分かっていながらも耐震性のある家で暮らせない人が大勢いる。特にタリバン体制になってからは女性が容易に外に出られなくなり犠牲者に女性が多かった。
2023年の年末には中国の甘粛省でM6.2の地震があり127名(報道当時)がなくなっている。こちらも耐震性のない建物が多かったようだ。
このことから日本の地震対策がかなり進んでいることがわかる。耐震性がある建物が多く電気やガスなどのインフラにも対策が施されている。単に先進国だからというわけではない。阪神淡路大震災(最大震度7でマグニチュード7.3)などの断層直下型の地震の経験から学んだものだ。つまり、我々は過去の犠牲を伴う教訓の上にかろうじて生かされているというところがある。我々は地震を克服したわけではない。なんとか付き合い方を学んだ結果として犠牲者の数が減っている。
今回(令和6年能登半島地震と命名)の最も大きかった揺れは志賀町で起きた。佐渡島に向かう断層の一部と考えられる。断層は50キロメートルに及び長ければ長いほど蓄積するエネルギーが大きいのだそうだ。時事通信は次のように伝えている。
能登半島周辺では3年前から地震活動が活発だった。しかし、今回はマグニチュード(M)7.6と、ここ数年で起きた地震よりエネルギーが格段に大きく、田所准教授は「50キロ以上の長さの断層が動いた可能性がある」と説明する。
原発をめぐる流言が飛び交うのではないかと心配したがSNSの対応は抑制的だった。だが一度冷静になって「そういえば原発はどうなっていたのだろうか?」と考えた。
結論から言えば大したことは起きなかった。外部電源が一部使えなくなったがバックアップ系統があり核燃料は冷やされ続けていた。変圧器が爆発し火災が起きたようだが無事に鎮火されている。
しかしながらこの原発は経団連からのプレッシャーなどもあり早期の運転再開が求められていた。東日本大震災の教訓に基づき7年前に専門家から「将来動く可能性が否定できない」と指摘が出されていたが、2023年3月には「敷地内にある断層は活断層ではない」と認定されていた。ただし審査項目に積み残しがありすぐに再開する見通しは立っていない。
もともと東日本大震災の経験から生まれた厳しめの判断だったが、経団連などからの強い圧力もあり次第に議論は「地震が起きるか」ではなく「敷地内の活断層かどうか」という議論に矮小化されていた。最終的に「敷地内には活断層はないから安全であるといっていいのではないか」という楽観的な判断に変質している。これが覆ると困ると感じたのだろう。当時厳しめの判断をした有識者たちの意見はあえて聞かなかったそうだ。有識者たちも「お墨付きを与えた」とはみなされなくなったのかもしれない。
結果的に今回の地震で原告団の指摘の正しさが証明されてしまった。NHKは彼らの懸念を次のように報道していた。
一方、志賀原発の再稼働の差し止めを求めて訴えを起こしている原告団は「審査は十分尽くされたといえるのだろうか。審査方法は妥当だったのだろうか」としたうえで、「志賀原発が活断層に囲まれた原発であることが次々と明らかになる中、敷地内断層に限っては『活動性なし』と断言できるのか、周辺断層からの影響はないのか、よりいっそう慎重な審査と判断が求められるはずだ」などとしています。
敷地の外と中で断層の性質が変わるとは考えられないのだし、敷地内に断層がなくても周辺が動けば地震は起こる。
確かに安価な燃料で発電ができる原子力発電所は燃料を輸入に頼る我が国にとって重要な発電手段といえるだろう。だが、我々の安全が実は過去の犠牲を伴う地震の教訓によって支えられているということも忘れてはならない。今回もおそらく「結果的に何もなかった」だけで東日本大震災の教訓がなければなんらかの被害が出ていた可能性もある。今後きちんと検証すべきだろう。
今回の地震では「人工地震」や「偽の救助要請」などのフェイクニュースも飛び交っていたようだ。さらに「復興増税」を警戒する人々もいる。NHKなどの強いトーンが潜在意識に眠っている危機感を呼び覚ました格好だ。ネットユーザーがいかに岸田政権の負担増加圧力にさらされているのかということもよくわかった。
災害になると気になって情報の海の中に飛び込んでゆく人もいる。被災地にいる人以外は「勇気を持って情報から離れる」という選択も検討すべきなのかもしれない。災害情報との付き合い方は被災地からの距離やストレス耐性などによって大きく異なるはずだ。