年末に京葉線の通勤快速が廃止になり快速列車も大幅減便になるというニュースが出ていた。JR東日本は普通列車の混雑緩和が理由であるとしているが千葉市の神谷市長は猛烈に反対している。蘇我と幕張の資産価値が下がるというのだ。
だが調べてみるとJRの本音はどうやら別のところにありそうだ。鉄道系YouTubeなどは普通に「特急に乗ってほしいのだろう」と指摘する。中には、定期券旅客輸送でさえ赤字に陥っているという指摘もある。定期券の赤字を新幹線などのビジネス客が補填する構造が企業の経費削減で成り立たなくなっているようだ。
意外に知られていない都市の鉄道事情について調べた。
JR東日本の発表が波紋を広げている。通勤快速だけでなく快速も無くすという内容が「突然の変更」と受け止められた。京葉線の通勤快速がなくなり快速列車を減便すると普通列車の追い抜き待ちがなくなり所要時間は2〜3分短くなるという、だが蘇我から東京までの所要時間は最大20分程度長くなるそうだ。また快速列車に期待して幕張新都心にマンションを買った人たちも「東京が遠くなった」と落胆するだろう。
急に通勤快速を無くすのは乱暴なのではないかという人もいるかもしれないが実は通勤快速の本数はそれほど多くないようだ。今回JR東日本の決定が大きく響いたのは「どちらも完全に無くす」というものだったからだ。最終的にはなぜかディズニーランド・ディズニーシーへの爆破予告というよくわからない事件も発生している。
しかしながら神谷市長が怒っている理由はよくわからない。
蘇我駅は千葉市の南のはずれにあり、京葉線そのものが千葉市の中心を離れて通っている。幕張新都心などにも大した影響がない。確かに東京に行くのは不便になるのだが10分程度余計にかかるに過ぎない。にも関わらず神谷市長は「説明は納得・承伏できない」と憤っている。
神谷市長側の事情はなんとなく想像がつく。
背後に開発の再開に期待する自民党系市議の存在があるのだろう。千葉市には東京に住めなくなった人たちに住宅を供給するために農地を売った人たちが大勢いた。だが、バブルが崩壊するとこの「土建・土地整理」が暴走を始める。政令指定都市として恥ずかしくない都市作りをすべきだということになり過剰な投資が行われた。結果的に鶴岡市長が汚職で逮捕され、その後2013年に有罪が確定した。また、南部蘇我土地区画整理事業も破綻した。千葉市が不良債権の一部を肩代わりしている。和解のために千葉市民が支払った金額は費用は3億5千万円だった。
市職員あがりの市長と自民党系市議が結託して開発を進めた結果、千葉市の財政は破綻したのだ。この状況を変えたのが民主党系の熊谷市長だった。利権に期待する自民党系の市議たちを敵に回さず財政再建を掲げてきた。平成21年(2009年)に財政健全化宣言が行われ平成28年(2016年)に解除されている。財政破綻寸前まで行ったのだからさすがに自民党系の市議たちも大人しくしている他はなかった。
この熊谷市長は県知事に転身しあとを継いだのが副市長だった神谷氏だ。事実上の後継候補と見られている。一部離反はあったが自民党系の長老たちは神谷氏を支えた。神谷氏は当然これに応える必要がある。
財政再建が成し遂げられたことで千葉市では都市開発が再開されている。おそらく自民党系の人たちをこれ以上我慢させておくことはできない。神谷市長は蘇我副都心の開発計画に影響が出ると言っているが、ショッピングモールとジェフユナイテッドのホームグラウンドがあるくらいで「副都心」という規模の街になっていない。たいして需要が見込めるような地域でもないのである。
政治的に反対しているポーズを見せなければならない神谷市長の気持ちはわかる。
だがJR東日本の方の理由がよくわからない。JR東日本の本音が報道からは見えてこないからだ。
YouTubeで鉄道系のコンテンツを見ていると近年JR東日本は通勤快速を続々と廃止していると指摘するものが多い。実は特急列車の利用が減っているそうだ。今度のダイヤ改正では房総特急も減便になるという。
通勤快速や快速列車をいくら走らせてもJR東日本には定期券収入くらいしか入ってこない。その乗客のうちに特急列車に客が移ってほしいというのが本音なのかもしれない。
NHKの報道によると千葉支社長は次のように言っている。
ダイヤ改正の3つの目的は
- 混雑の平準化
- 各駅停車しか停まらない駅の利便性の向上
- 各駅停車の所要時間の短縮
である。これは何がなんでも実行する。
「何かできることがないか検討する」と言っているがおそらくこれは「特急なら早く着きます」ということなのだろう。この地域には競合路線がない。このためJR東日本が通勤快速をやめますと言っても千葉市民は従わざるを得ない。早く東京に行きたい人は特急列車に乗ってくれというのがJR東日本の本音なのではないか。
ではこのJR東日本の主張は金儲け主義で理不尽なものなのだろうか。実は経営状況がかなり厳しくなっているそうだ。
JR東日本は地方に多くの不採算路線を多く抱えている上にコロナ禍で減った需要も回復していない。
- JR東日本の「コロナダメージ」がハンパない理由(東洋経済)
それでも都心はさぞかし儲けているのではないかと思われそうだが実は定期券で赤字が出ている。これを知らない人はかなり多いのではないか。
在来線の営業利益をさらに細かく見ていくと、衝撃的な事実を思い知らされる。JR東日本が2019年度に在来線の定期券で上げた営業収入は4835億円であった。旅客人キロは747億6600万人キロであったから、旅客1人1km乗車時の営業収入は6.47円となる。もうおわかりのとおり、定期券を携えた旅客が1人1km乗車したときに1.45円の赤字が生じるのだ。したがって、営業損失は1084億円となる。
こうなると、通勤定期代金を値上げするか地方路線を切り捨てるかくらいしかやることがなくなるのだが、地方路線を切り捨てる場合には地域と誠意を持って話し合いをしなければならないことになっている。地方自治体と鉄道会社だけで話し合うと平行線を辿ることは目に見えているため国が介入すべきだという議論が行われている。2022年の調査では輸送密度1000人未満という線区は35路線あるとのことである。
地方の路線は切り捨てられず、定期券では赤字が出ている。これまではそれを出張客で取りもしていたのだがそれも難しくなってきている。こうなると「特急に乗ってください」というJR東日本の本音を一方的に糾弾するのもなかなか難しい。
JR東日本の千葉支社長も「いや実は……」くらいのことを言うべきなのかもしれない。通勤定期券の話がどれくらい信憑性があるものなのかはわからないのだが、そろそろ何かを変えなければならない時期に入っている。