メディアと国家の関係が強い中国では毎日のように「繁栄するすばらしい中国」という報道が出ている。確かに経済的な豊かさを実現した人たちもいて一種の多幸状態にあると言って良い。
だが満ちれば欠けるという理(ことわり)の通り内部には問題も抱え始めた。内部では汚職がなくならず指導者が突然消える。さらに自分達の理屈に合わない国際情勢への苛立ちも強めている。
台湾(中華民国)では1月13日に総統選挙が行われる。中国はかなり強硬にこの選挙に介入している。内部では軍の統制強化も始まっている。日本関連では尖閣諸島を毎日見回りをして必要ならば漁船に立ち入り調査をすべきだと宣言した。国家統制のための強すぎる自意識が膨らめば膨らむほど衝突の危険性が増す。そんな状態だ。
岸田政権はバランス外交を背景にする宏池会系の政権であり林芳正官房長官も親中派と見られることがある。すぐさま中国が極端な選択肢をとる可能性はそれほど高くないのだろうが、現実に差し迫る問題にどう対処するかに注視する必要もありそうだ。
台湾(中華民国)で年明け1月13日に総統選挙が行われる。現在の民主進歩党の候補者が一歩リードしているが中国共産党は彼らを独立勢力と見做しておりあからさまな選挙干渉をおこなっている。野党候補は民進党が政権を取れば中国が攻撃してくると相手陣営を攻撃する。これに呼応して中国当局も「断固粉砕する」と言っている。これを合わせると当然「民進党の出方次第では戦争だ」と宣言したことになってしまう。
背景にある理論はおそらくそれほど難しいものではない。習近平国家主席は毛沢東生誕130年に合わせた演説で「台湾の再統一は不可避」だと宣言した。
CNNは今にも中国が襲いかかってくるのではないかと見ているようだが、内容をよく見るとどうもそうではないようだ。毛沢東生誕130周年を記念した演説の一環であり中国の国家建設が途中であるということを示しているに過ぎない。
日光東照宮に逆さ葵と逆さ柱がある。徳川家康を神として祀った神社だが家康の国家建設が完成したとなると「そこから崩壊が始まる」とするのが陰陽五行説の基本原理だ。このため未完成な部分をわざと残しておき「まだ完成していない」として崩壊を防ごうとしているのである。つまり崩壊を防ぐためには「欠け」の存在が重要なのだ。
ところが、実際には習近平国家主席が権力を掌握したことで一種の完成した状態が作られている。敵がいなくなったことで今後汚職をした人たちは全て習近平体制の一部ということになる。
外務大臣と国防大臣が突然消えた。二ヶ月経って国防大臣が決まったのだが、今度はロケット軍の幹部たちが解任されている。詳細は報道されていないが汚職によるものと考えられているそうだ。なんらかの強いミッションを与えておかないと身内で利益を溜め込み出すという中国独特の「ダイナミズム」があるため前進を止められなくなっていることがわかる。
汚職を防ぐためにはなんらかの強い目標が必要だ。外向きには「共産党に忠実な鉄の軍隊を編成する」と宣言している。肥大化する自意識と内部腐敗のバランスを取るのにものすごく苦労しているように感じられる。
このインバランスが「唯一の欠け」である台湾に向かう。
日本関連では中国にとってはおそらく大した価値がない尖閣諸島に向かっている。毎日海域を警備し必要があれば漁船を臨検すべきだという指令が出ているそうだ。本来日本の海域であるはずだがここで漁をすることは難しい。これではなんのための領土・領海なのかわからない。日本政府はなんらかの解答を出す必要がある。
これを受け海警局が、2024年は毎日必ず尖閣周辺に艦船を派遣し、必要時には日本の漁船に立ち入り検査する計画を策定したことも判明した。
強くて繁栄した中国という自意識は経済面でも見られる。
人民日報に興味深い論文が載っている。「中国を「読み解く」ための鍵は、中国式現代化を理解することだ」というタイトルである。中国式現代化を定義し発展途上国に代替選択肢を提供すると宣言している。そのスケールは壮大で、まともなジャーナリズムのない中国知識層の肥大化した自意識を満足させるのに大いに役立っている。
AFPは中国メディアの記事を連日載せている。ニュースのタブから中国メディアを選択すると記事を読むことができる。民族が共に助け合って繁栄を享受しているというような報道が連日流れてくる。もちろんたまに問題も起きるが政治の力強いリーダーシップで全て解決していることになっている。
確かにこれも事実の一つの側面ではあるのだろう。だが、現実はいいことばかりではない。イタリアは「恩恵がない」として一帯一路構想から離脱した。イタリアはEUの他の代替選択肢を探したのだろうが結局それほど魅力的なものではなかったようだ。
エチオピアがデフォルトを起こした。中国の政府はエチオピアの債権整理に同意したようだが「民間」はそうではなかった。中国の企業は民と官が癒着した構造になっている。結局これを整理するためにG20で再建整理の枠組みが作られつつある。ザンビアとガーナがこの枠組みに加わることになっており、エチオピアも含まれることになりそうだ。中国の無秩序な貸付は繁栄の代替選択肢ではなくモラルハザートをもたらしただけだった。そしてそれを始末するのはG20のお仕事というわけだ。無責任極まりない。
アルゼンチンはBRICSに加わらないことにした。アルゼンチンは経済が破綻しかけておりブラジルの左派政権の誘いに乗りBRICSによる救済に最後の望みをかけてきた。アメリカドルの体制から離脱し独自の通貨構想を持っているとも言われる。だがミレイ新大統領はこの路線を転換してしまった。2024年1月1日からの加盟の数日前の離脱表明になった。BRICSへの参加国はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、サウジアラビア、イラン、UAE、エチオピア、エジプトの10カ国になりそうだ。
おそらく中国・習近平国家主席の本当の敵はこの「満ち」なのだろう。習近平氏が国家権力を掌握することで政治的キャリアは頂点に達した。民衆も一定の経済繁栄を手にして満足しているようだ。東洋的な伝統に従うならば夏は秋の気配を含んでおり、やがて冬に向かって進むことになる。
ただし東洋哲学に耽ってもいられない。
日本関連では具体的に尖閣諸島での衝突が想定される事態になっておりもはや台湾有事を懸念するという状態ではなくなりつつある。宏池会系岸田政権はもともとバランス外交で知られており、林芳正官房長官も「親中派」と見做されている。具体的に尖閣に迫る危機にどのように対応するのかも注視すべきだろう。単に政治的に不安定になっている「アメリカに依存します」だけでは解決策にはならない。かといってどうすべきだという議論も全く進んでいない。