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SNSでファンが作れないなら農政の抜本改革だ 岸田政権がまたまた大きすぎる看板を掲げる 

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岸田総理が「農政の抜本改革」を打ち出した。随分大きな看板だが今回も掛け声だ俺に終わるのではないかと思う。それにしても低支持率に喘ぎつつ政治と金の問題で揺れる中でなぜ農政改革?と考えた。

まず「安倍派から農業利権を引き剥がしたいのでは」と考えたがそういう事実はないようだ。支持母体であるJAの縮小を止めたいのだろうと考えると説明できる点が多い。

読売新聞が盛んに岸田政権はSNS層に嫌われていてファンが作れないと書いている。政権はどうやったら無党派層の支援を獲得できるのかがわからなくなっているようである。そこで確実な支持母体の再建に方針を転換したのだろう。

確かに予算を振り分けることで支持母体の弱体化を遅らせることはできるかもしれない。だがやはり弱体化を逆転させることは難しい。結局じわじわと衰退が続くだけになってしまうのではないか。

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支持率が低下している岸田総理が農政の抜本改革を打ち出している。2024年は「農政改革元年」になるというのが岸田政権の新しく掲げた看板だ。支持率が低い政権に抜本的な改革などやってほしくないと感じるが、どうせ看板倒れに終わるだろうと言う妙な安心感もある。

農水大臣が安倍派から変わったばかりなので農業利権を安倍派から引き剥がそうとしているのでないかと思ったのだがこれは正しくないようだ。安倍派の農水大臣はそんなに多くない。

次に「改革」の中身を見てみた。看板ばかりが大きく中身がないという図式はやはり踏襲されている。「新しい資本主義」とか「新所得倍増」と同じである。

岸田文雄首相は会合で「農政を抜本的に見直す」と述べた。「食料や肥料の需給変動、国内の急激な人口減少と担い手不足といった国内外の社会課題を正面から捉える」と語った。

新しく農水大臣になった坂本さんは次のように述べている。日本人は急激な変化は嫌いだが大きなワーディングは大好きだ。このため改良を「改革」と言いたがるのかもしれない。

そのうえで、高齢化や担い手不足など日本の農業をとりまく課題が山積していることについて、「日本の農業を立て直し、未来に向かっていくために食料・農業・農村基本法を25年ぶりに改正し、来年にかけて、日本の農業の改革元年にしたい」などと述べ、来年の通常国会に“農政の憲法”と言われる「食料・農業・農村基本法」の改正案を提出し、改革を進めていく考えを示しました。

では、農業の側から強烈なプッシュがあったのか。政治にアイディアがなくても農業側に「これをやってくれれば日本の農業は飛躍的によくなるのに」と考えでもあるのなら応援してあげてもいいかなと感じる。

だが、どうもそうではないようだ。

「改革元年へ審議を尽くせ」という農業新聞の論説にも具体的な話は一向に出てこない。農業経営が厳しくなりちょっとした変化で離農が進むという状態になっているようだ。つまり具体策がないまま縮小に怯えている。

ただこの一連の記事を読むと自民党の狙いが見えてくる。今、JAの数が減っている。平成19年には807あったそうだが令和4年に551まで減少しているそうだ。組合員自体は増えているのだが正組合員の数は減っていて準組合員で補っているという。JAでは事業基盤の確立が目標になっており「アクティブ・メンバーシップ」の確率を目指しているという。アクティブ・メンバーシップとは「組合員が積極的に組合の事業や活動に参加すること」を意味するJA用語だ。つまり、そもそも組合の担い手が減っていることがわかる。

このJAの弱体化は自民党の危機でもある。

前回の参議院議員選挙では藤木眞也氏が187,740票を獲得し、進藤金日子(かねひこ)氏が150759票獲得している。その前の参議院議員選挙では山田俊男氏が217,617票を獲得し、宮崎雅夫氏が137,502票を獲得している。

つまり毎回30万票程度の組織力しかないことになる。組合員の数から見ればもう少し得票があってもよさそうだがおそらくきちんと組織できていないのであろうということがわかる。

代わりに台頭しているのがサブカル系である。自民党はおそらく「無党派は票になる」と認識しているのではないかと思う。

創作系では2019年に山田太郎氏が540,077票を獲得し、2022年には赤松健氏が当選している。どちらも創作と言論の自由を訴えて当選した人たちだ。また「ネット保守」も存在感を増している。例えば和田政宗氏は2019年に288,080票を獲得し、2022年には青山繁晴氏が373,786票を獲得している。

この得票率を見ると「サブカルやネット保守などの無党派層は議席になる」と彼らが考えても不思議ではない。だが、岸田総理は増税メガネというイメージがつき無党派層の獲得に失敗した。読売新聞が連日このような記事を書いている。

SNSの票は無党派にそれなりの塊を作りつつある。これを最初に可視化したのが安倍総理とネット保守(いわゆるネトウヨと呼ばれる人たち)だった。しかし、岸田総理は明らかにこの層の獲得を失敗している。読売新聞は盛んに岸田総理は若い世代を掴むのに失敗したと盛んに伝えているが記事は偏見に満ちている。

偏った情報に惑わされやすいSNS世代が岸田総理に背を向けていると言っている。まともに彼らが何を望んでいるのかを分析するつもりはないようだ。この偏見をもっともらしく心理学者に語らせて偽りの安心感を得ている。

武蔵野大の山崎新講師(早稲田大 招聘研究員、政治心理学)は「偏った情報をもつ少数の熱心なユーザーが意見をぶつけ合うネット空間では、政治家にとっても、熱烈なファンがいるかどうかが重要になる。SNS利用層にファンもアンチも多かった安倍元首相とは対照的に、政策のターゲットを明確に打ち出せなかった岸田首相はファンを作れないまま、アンチだけが増えたのではないか」と分析する。

ネットに偏見を持ち安倍氏を支えるネット保守(熱烈なファン)をやっかみ半分で見ていた今の政権がSNS世代を獲得できるとは思えない。こうした人たちの獲得を諦めて支持母体の再建に舵を切ったのだと考えると今回の農業改革の狙いも見えてくる。

だが、そもそも日本の農業は担い手の減少しており日本の農業は破綻の一歩寸前である。単にJAの活動に参加する熱心な組合員が少なくなったからお金をもっとあげなければと嘆いているだけであればおそらく日本の農政の先行きも自民党の将来の見通しも明るいものにはならないだろう。

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