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医師会利権をめぐる争奪戦か 自見英子大臣をめぐる駆け引きが意外と面白かった

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派閥と金をめぐる問題は「政治をきれいに行うべき」という建前を振りかざすよりも慌てふためく政界の人間模様を眺めている方が面白いと感じる。自見英子大臣をめぐる二階派と岸田内閣の駆け引きもそんな「おもしろ人間模様」の一つである。国民のための政治という建前をかなぐり捨てて敵味方に分かれて支援団体を争うという図式が浮かんでくる。「真面目な話をちゃかすな」と腹を立てる人もいるだろうし、他人事だしまあいいかと感じる人もいるだろう。

人間模様がやや複雑なので手元に白い紙でも置いて相関図を書いてみるとわかりやすいかもしれない。最後には「怒ったおじいさん」も出てくる。

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まず最初に上下に二つの丸を書こう。そこに線を引いて「親子」と記入する。自見英子氏は自見庄三郎氏の娘だ。北九州市育ちだが東京でお医者さんをしていた。自見庄三郎氏の議員秘書を務めたあと参議院の比例区から自民党公認で出馬した。

自見庄三郎さんははもともと医学者だったそうだ。元は中曽根派に所属していたが山崎拓氏と行動を共にして山崎派を結成した。郵政国会で反対票を投じたことで公認を失い自民党を離党している。国政復帰を目指すが医師会の支援を得られずに武見敬三氏に負けている。

ここがかなり複雑だ。武見敬三さんと自見庄三郎さんの丸は横に並べて「ライバル」と書く必要がある。武見敬三さんは麻生派である。上に丸をもう一つ書いて線で結び「派閥の領袖」と書こう。

一部の県医師会は自見さんと武見さんの二人を推薦しているそうである。その後、自見庄三郎さんは国民新党から立候補し参議院議員に復帰している。国民新党は民主党政権の一翼を担い大臣職を歴任した。その後国民新党が解体すると無所属での参議院選挙出馬を目指すが叶わなかった。

医師会としてはやはり「自民党候補」でなければこまる。敵対勢力で大臣まで務めた人が応援に参加するわけにもいかない。次女の英子さんの立候補は背景に複雑な事情があったのではないか。このため自見英子さんには「裏切り者の娘」という強い意識が生まれたようだ。これが強い上昇志向を生み出しているとする分析がある。

武見敬三氏も医師会会長だった武見太郎氏の息子である。武見敬三氏と自見庄三郎氏はライバルだったのだから現在の二人の関係はかなり微妙なものなのだろう。

今回、なぜ自見英子さんは二階派志帥会なのかと思ったが、今回調べていて「なるほど」と思った。これも今回の図表の難しいところだ。中曽根派は亀井派と合併して志帥会になっているのだから「お父さんが抜けたところ」に所属するのが筋というのが理屈だったのだろう。つまり「お父さんは抜けるべきではなかった」ということになるのだが詳しい経緯はわからなかった。

自見さんを大臣にというのは岸田総理の希望だったようである。二階派は2名の大臣を入れてほしいと要望したが岸田総理は1名だけの推薦を受けるとした。だが蓋を開けてみると二階派の大臣は2名だった。ただし二階派が推薦した人ではなく「それとは別の」人物が充てられており、それがおそらく自見さんだ。二階派はこの時「屈辱だ」と怒りをあらわにしたと読売新聞が書いているのだが怒っている理由が書かれていない。

かつてお父さんが抜けたところに娘が戻ってきた。ところが岸田さんはそれを狙っていた。だから二階さんはこの時点で「怒りをあらわにした」のである。二階さんと自見さんの間に線ができたがこの二人の間の線をどうラベリングしていいか迷うところであろう。二人の関係ももう少し細かくみてみたい。

デイリー新潮は興味深いことを書いている。「過去3年の献金額は約2億円! 医師会ベッタリでカネを集める大臣2名の名前とは?」という扇情的なタイトルだ。

記事にはさまざまな情報が入っている。前半は自見英子さん関連の内容は武見敬三さんの内容になっているのだが、自見さんの部分だけを抜粋する。ちなみに武見さんの部分は「脱法的錬金術だ」と書かれている。

  • 自見さんは自見庄三郎さんが引退した後に全国比例区で当選した
  • 妻子ある橋本岳氏と略奪婚した
  • 入閣前に公職選挙法違反疑惑があった
  • 自見さんの党支部やひまわり会に対して日医連から3年で1億3000万円以上の献金がある
  • 離党した庄三郎氏の娘であることから上昇志向が強くお金の流れにうるさい

ここまでは既に知られていた。だが平時にはこれ以上のことは伝わってこない。今回有事だったことでさまざまな情報が報道されることになった。

まず当初の経緯から岸田総理が「二階派から自見さんを一本釣りし、一本釣りされた二階派は怒っていた」ことはわかっている。

新潮いわく「上昇志向の強い自見さん」は「二階会長や幹部の皆さんにも丁寧にお話しした」と言っている。確かに話はしたのだろう。だが、二階さんは激怒しているそうだ。朝日新聞が「だが、二階俊博会長(84)は周囲に自見氏への怒りをぶちまけ、派閥側は退会を認めなかった」と書いている。かつて幹事長として強い影響力を持っていた二階さん(84歳)は非主流に追いやられとにかくめちゃくちゃ怒っている。そして朝日新聞がそれを面白おかしく取り上げている。

自見さんにしてみれば単に医師会関連のお金を二階派に吸い上げられるより、岸田さんについて言った方が得であることは間違いがない。岸田総理にしてもそれは同様だ。これまでの金の流れを自分たちのほうに向けることができる。だが朝日新聞のいうように「二階氏が激怒している」ならば番頭格に過ぎない武田良太事務局長がそれを認めるわけにもいかないのだろう。

今回非常に興味深いのは二階派と麻生派の関係である。まず岸田総理と麻生副総裁の間に「岸田総理が傾倒する」と書いておこう。「岸田政権で強まる麻生氏への依存 人事で存在感も不安の声」という産経新聞の記事が参考になる。

武田良太氏は地元福岡(特に北九州市)で麻生太郎氏と仲が悪いことが知られている。岸田総理は麻生副総裁への傾斜を強めている。仮に自見さんが岸田派ではなく麻生派にはいるようなことがあればもうこれは大騒ぎになるだろう。北九州市は戦争状態だとする記事もある。アエラドットの記述は次の通り。

麻生氏は現在、派閥の会長として茂木派とともに岸田文雄首相を支える主流派だ。しかし、菅義偉前首相の時代は、武田氏が所属する二階派会長の二階俊博氏が幹事長として力を発揮し、武田氏も総務相として重用された。そうした因縁もある。

ちなみに麻生太郎氏と古賀誠氏の間にも「敵対関係」がある。総裁候補擁立をめぐって仲違いがあったようだ。古賀誠氏と林芳正氏は師弟関係にある。古賀さんが林さんを総裁候補に立てたが麻生さんはそれに乗らなかった。林芳正氏と岸田総理はライバルかつ首相と官房長官という間柄である。古賀さんは林さんに目をかけており「宏池会の将来の領袖は林氏であるべきだ」と今も主張している。このため古賀誠氏と岸田総理は「かつては師弟関係だったが?」という間柄になる。

ちなみに郵政民営化で対立した亀井さんと小泉さんは最近山崎拓氏を交えて「メシトモ」になっている。山崎さんが20年ぶりに飯でもどうだと誘ったそうである。小泉さんは「昔の話をして、今日は面白かった」と話した。」そうだ。

冷静に考えてみれば政治と金の問題で自民党は大揺れに揺れているのだから「利権だナワバリだ」など言っていられる状態ではない。だが、おそらく当事者たちにはおそらくもう国民生活は見えていないだろう。自見さんをめぐる醜い駆け引きを見ているとそれが浮き彫りになる。

一方の陣営は「あいつから大切なものを奪ってやった」と喜んでおり、一方の陣営は顔を真っ赤にして怒っている。そしてその争いは中央政界だけでなく地方にまで波及しているのだ。このように「取った取られた」という相関図を広げてゆくと国民生活そっちのけの政界曼荼羅のようなものが完成するはずだ。あとはSNSのXで発表するなり自分で観察してニヤニヤするなりして有効活用してほしい。

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