TBSが衝撃的な見出しのニュースを出している。「こども大綱を閣議決定 2028年度ごろまでに「今の自分が好きだ」70%に引き上げ目標」というヘッドラインである。ヘッドラインだけを見ると大人ばかりかこどもも自分のことを嫌いなのかなどと感じてしまう。
ただし記事を見ると現状の肯定感は60%ということになっている。つまり10%の底上げがなぜヘッドラインになっているのかがよくわからない。
あまり注目されないニュースなのだろうが細かくみてゆきたい。
こどもの自己肯定感が「国際的に低い」というニュースをたまに聞く。原典は内閣府が出している子ども・若者は白書だそうだ。比較は「欧米など6カ国との比較」になっており厳密には「国際的に低い」かどうかはわからない。なんとなく「日本のこどもの自己肯定感は低いのか」と印象がある中でTBSが見出しにこの数字を持ってきたのはあまり適切とは言えないようだ。
TBSの記事では「自分のことが好きと感じているこどもは60%いる」そうなので、取り立てて自己肯定感が低いというわけではなさそうだ。
他にどんな数値目標が出たのかが気になった。こども家庭庁のウェブサイトを見てみたが加藤鮎子大臣の顔がでてくるだけで「目標とその意味づけ」を表現したコンテンツが存在しない。ふりがな付きで子供に向けたメッセージが出ているが、こどもに「これどういう意味なのか?」と聞かれても説明できそうにないほど漠然としている。
朝日新聞が具体的な目標を書いている。たくさんあるそうだが、そのうちの4つが例示されている。どうやら政府のイメージ戦略のためにお金を使うようだ。
- 大綱を見直すおおむね5年後までに「政策に関して意見を聴いてもらえている」と思う子ども・若者の割合を20・3%(2023年)から70%に
- こどもまんなか社会の実現に向かっている」と思う人の割合を15・7%(23年)から70%に
- 自国の将来は明るい」と思う子どもらの割合を31%(18年)から55%に
- 結婚、妊娠、こども・子育てに温かい社会の実現に向かっている」と思う人の割合を27・8%(23年)から70%に
そもそも政府がお金を使うと子供の自己肯定感が上がるのか?という疑問はあるがここで止まっていては話が前に進まないので「お金を使えば自己肯定感が上がる」ということにしておこう。具体的な目標を見ると「政府のやってる感」を評価する人が増えれば成功ということになっているようである。つまり広報戦略なのだ。
じゃあ「広報に向けていくら使うんですかね」という話になる。
こども政策担当大臣の加藤鮎子氏は次のような文書を出している。年間予算は5.3兆円になるそうだ。つまり「年間予算を5.3兆円も使って政府はよくやっていると言わせる」ことが目標として適切なのかを考えるべきなのだとわかる。
第一に考えられる理由は「そもそも岸田総理は政策には興味がない」というものなのだろうがもはやそれについて議論をしてもあまり意味はなさそうだ。むしろ二番目の「政府広報上都合が悪い」という点を中心に見てゆきたい。
第一の理由として挙げられるのが岸田総理の頭の中だ。総理の頭の中は派閥の駆け引きと来年の総裁再選でいっぱいになっている。加藤の乱あたりから始まった清和会と宏池会の抗争を自分がトップのうちに解決したいという気持ちと、宏池会側に利権(支持母体)を引きつけておきたいという内部抗争が政治のメインのテーマになっている。このためミサイルの輸出解禁や完成兵器の輸出など業界に具体的な恩恵のある政策はかなりのスピード感で仕上がってゆく。一方でこども・家庭政策は「単なる政府広報のためのイメージ戦略」といった位置づけである。無党派にはざっくりした印象さえ与えておけばいいやというおざなりさが感じられる。
政府の無策の成果は確実に現れている。教育現場の荒廃がかなり進んでいるようだ。モチベーションの低下が主な理由になっており深く静かに進行するのが特徴である。何のために働いているかわからないという先生が増えている。
学校における教師はすでに消耗品扱いになっている。全体で6,000人以上がうつ病で休職しているそうだ。特に目立つのが20代である。「新兵」から先に潰れていってしまい「生活のために」と働く先生だけが選別されるという状態だ。
せっかく先生になったのに何をやっているのかわからない、とにかく時間がないと考える人が多いようである。NHKは次のような理由を挙げている。逃げ出す教師と真面目に取り組む教師の間に差が開いていることがわかる。
- 教員間での業務量や内容のばらつき、
- 保護者からの過度な要望や苦情への対応のほか、
- コロナ禍で児童生徒や教職員間でのコミュニケーションの取りづらさがあったことなど
追い詰められているのは大人だけではない。まだ割合としては60人に1名だそうだが「乱用目的で市販薬を使用した経験がある」という高校生が増えている。もう薬でも飲まないとやっていられないというこどもたちがSNSで情報を交換しあっているそうだ。
さらに困窮母子家庭で親子の欠食が広がっており給食が命綱になっているという報道も珍しくない。また給食の予算が足りずカロリー確保が難しくなっているという報道もある。表面上は豊かな国だがまるで戦中のような「欠食・カロリー不足」がニュースになる時代だ。
個人的には「物語」に頼るような国家運営には反対だが、現実を見る限り「何のために生きているのかわからない」という状況が蔓延する中で脱落したら終わりというゲームへの参加を余儀なくされる人が増えている。おそらく今の国家に最も必要とされているのは生活向上につながる目標設定なのだろう。だが実際に政府がやろうとしているのは「岸田政権はこどもを大切にしているいい政権だ」という印象をつけるためのイメージ戦略に過ぎない。
そもそも、支持政党なしが60%を占めている状態でこどもだけが「政策について意見を聴いてもらえている」と思えるようになるとはどうしても思えない。こどもだけではなく大人も「政府は国民の声を聞いていない」と感じているのではないか。そう、考えて資料を探してみた。令和4年の調査結果が見つかった。反映されていると考える国民は減っているそうだ。
全般的にみて、国の政策に国民の考えや意見がどの程度反映されていると思うか聞いたところ、「反映されている」とする者の割合が26.6%(「かなり反映されている」の割合2.2%と「ある程度反映されている」の割合24.4%との合計)、「反映されていない」とする者の割合が71.4%(「あまり反映されていない」の割合52.0%と「ほとんど反映されていない」の割合19.5%との合計)となっている。
大人もこどもも「今の政府は自分達のことを見てくれていない」と感じている。まず「おとな家庭庁」と「おとな政策」が必要なのではないかという気さえする。