イスラエルのガザ侵攻が続いている。アメリカは制止を呼びかけているがネタニヤフ首相は国内政局を優先し戦争継続の意向であると言われている。
ついに戦いは紅海に飛び火しフーシ派による海運リスクが生じている。そこでアメリカは多国籍による「繁栄の守護者作戦」を決行すると宣言した。
繁栄の守護者とは仰々しい名前だが、英語では「Operation Prosperity Guardians」というそうだ。「ガーディアン」である。ガーディアンに参加する精鋭たちはイギリス、バーレーン、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、セイシェル、スペインである。ほぼ西側諸国で構成されており繁栄が即ち「西側諸国の経済優位性」であることがわかる。日本は含まれていない。
代わりに「繁栄にあまり役に立たない」ウクライナの防衛支援は先細るばかりである。ウクライナは軍事作戦の縮小を検討しておりロシアに敗北する可能性も出てきた。
もちろんフーシ派も一向に引く気配はない。多国籍作戦に対抗する意欲を見せている。彼らの強気の裏にはおそらくイランの支援があるものと思われるが、イランは関与を表明しておらずイエメンが裏にいるのだろうとしている。確かにイランとフーシ派の関係は事情に微妙なものである。サウジアラビアとの関係を考慮してイエメンにいるフーシ派を抑えようとしたこともあるようだが失敗している。今回のウクライナとイスラエル情勢を組み合わせると既に第三次世界大戦の様相になってきた。だが、間接戦が多く当事国がバラバラなのが今回の「世界大戦」の特徴だ。まさに染み出す戦争といえるだろう。NATO加盟国のトルコのような複雑な立ち位置の国がある。ハンガリーもEUの中にありながらロシアやトルコに近い。
いずれぬせよ中核にいる西側諸国は繁栄を維持するために力による現状変更を認めたくない。これまでは「現状維持は第二次世界大戦後に作られた世界平和に役立つ」と説明してきたがこの物語はすでに破綻しつつある。さらに力によって押さえつけてきたガザ地区が暴発した。イスラエルとアメリカは懸命に現状を意支持しようとしているが国連などの批判にさらされている。さらに体制の中にも中心と周縁がある。周縁は必ずしも中心の思惑通りに動かない。
だがこうした物語を「欺瞞だ」と切り捨てるわけにはいかない。日本も含めた繁栄を享受している国々がこの物語に載っていることは明らかでありこれを即座に否定することも難しい。
ガザ地区の人道状況は日に日に悪化しており西岸地区のパレスチナ人の状況も悲惨なものになりつつある。イスラエルは記者のアクセスを遮断し国連の職員たちも追い出しているのだが、SNS経由で悲惨な状況が伝わる。アメリカ合衆国には虐げられている黒人とパレスチナ人たちの境遇を重ね合わせる人たちも出てきているようだ。中国、アラブ、アフリカやその他のグローバルサウス諸国が「欺瞞の物語」を信任しなくなっているのは当然と言えるが、実はアメリカの中にも影響が出始めている。
これまで当然だと考えられてきた「正義の物語」が急速に溶け始めており新しい物語もまだ作られていないというのが現状のようだ。そんな中にまるでハリウッド映画のアベンジャーズのような名前で颯爽と現れた「繁栄の守護者」という命名はきわめて空虚に響く。
日本の憲法改正議論は東西冷戦の世界観を引きずったまま「正義と悪」の物語として理解されていて、巻き込まれ不安と悪の討伐願望という二律背反的な心理状態に支配されている。だが世界情勢をもはやそのような単純な構造で語ることはできない。一刻も早くこの現場に追いつくべきだが国内では政局が始まってしまい「それどころではない」と言った状態である。我々はまず国内の政治的混乱を片付けなければならない。