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派閥事務所強制捜査で「安倍派のいちばん長い日」に 二階派と安倍派で分かれる処遇とその理由を考える 

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NHKが「【速報中】安倍派 二階派の事務所に強制捜査 東京地検特捜部」という記事を流していた。歴代首相を輩出していた清和会と二階幹事長のもとで権勢をほしいままにしてきた二階派に強制調査が入る様子がNHKによって生中継されたのだ。今回の「いくさ」でNHKが官軍側についたことがわかる。

今回の記事のメインテーマは「なぜ安倍派の大臣は一掃されたが二階派の大臣は残ったか」なのだが、この「官軍が変わった」というのが今回の仮説のベースである。つまりこれまで清和会・宏池会連合政権で政権交代が起き宏池会政権の樹立に向けて動いているという仮説である。

仮に1月までに事態掌握が完了すれば革命は成功ということになるが当然そうならない可能性もある。岸田総理のいう「政治改革の新しい枠組み」が完成して予算編成になれば革命成功だが支持率が落ち続けるともうその後の状況は誰にも予想ができなくなる。

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二階派にも強制捜査が入っているのだから「安倍派と二階派の一番長い日」にしてもよさそうだ。だが、今回はタイトルから二階派は除いた。安倍派は今回の件で粛清の対象となったが二階派の大臣は首を切られなかった。このことから今回の件が単なる政治事件ではなく宏池会と清和会の権力闘争という側面があることがわかる。

岸田総理の「新しい何とか」には中身がないことが多いが、今回の政治改革の新しい枠組みにはビジョンがある。それは政党全体を岸田派にすることである。このためには混乱が収まるまでに枠組みを完成させなければならない。

既に田崎史郎さんが「朝日新聞とNHKが協力し検察が主導した」と看破しており、今回の問題は政治と検察という対立構造がある。だがこれとは別に清和会と宏池会というもう一つの対立構造が存在する。この二つが連携していない可能性があるため構造を理解しないままで事象だけを捉えると「何が起きているのかわからない」という印象が生まれる。

ただし、内輪の権力闘争なので国民生活には全く何の関係もない。既にインフレが始まっており国民生活には痛みを伴う変化が起き始めている。さらに国際状況も大きく変化している。

今回は二階派の大臣が更迭されなかったことから岸田総理の狙いが清和会の破壊と二階派からの収奪にあることがわかる。今回の問題を「壇ノ浦」とすると清和会は平家になる。平家にあらずんば人にあらずという時代が長かったため全体として討伐されなければならない対象と見做されている。まさに「驕る平家は久しからず」だ。だが二階派はそうではない。

例えば二階派大臣のひとりである自見英子万博担当大臣は二階派が推した人ではなかった。医師会が背景にいるため宏池会・岸田派が医師会を欲しがっているのかもしれない。ちなみにもう一人の医師会系議員の武見敬三厚生労働大臣は麻生派なのだそうだ。もともと麻生派と二階派で分け合っていたのだ。岸田氏も麻生氏も「支持母体狩り」をしているのは国民民主党との連携交渉を見ても明らかだ。あの騒ぎの背景には連合があった。

一方で二階氏の了承のもとで派閥を離脱する意向の小泉法務大臣は事情が違っている。

小泉さんは郵政民営化に反対し自民党を離党している。小泉大臣は清和会に複雑な思いを持っているのだが、この清和会は安倍晋三総理大臣ではなく小泉総理大臣のことなのである。自民党の党籍を持たないまま特別会員として二階派入りしたことから「別に派閥はどこでも良かった」ということになるだろう。

同じように複雑な感情を持っているのが、齋藤健新経済産業大臣だ。農林水産大臣の時に「石破茂を応援するなら閣僚を辞任しろ」と迫られた過去がある。通産官僚として能力があるから「適材適所」とは言えるのだが、長い間安倍派が持っていた経済閣僚の地位を手に入れたことに意味があると考えることもできる。ちなみに、この人もついこの前までは法務大臣だった。

半藤一利の小説に「日本のいちばん長い日」という作品がある。8月15日の玉音放送を扱った作品で1967年に映画にもなっている。日本の運命が変わり大きく統治体制が変わった日だが、実際に何が起きたのかを知っている人はそれほど多くなかったが「大本営機密日誌」が残っており、それをもとにドキュメンタリを作ることができた。

この「日本のいちばん長い日」と今回の出来事には大きな違いがある。日本のいちばん長い日には明確な昭和天皇という責任者がおり記録も残っていた。今回安倍派として声明は出ているが責任者が出てきて謝罪や説明を行うことはなかった。そればかりか所属議員にもなんの説明もないそうだ。あれほど安倍総理の後継者になりたかった人たちが今は「自分は代表する立場にない」と逃げ回っている。せめて誰かが手記でも残してくれていればと思うのだが、それは期待できないかもしれない。仮に後に再構成できたとしても「藪の中」のような仕上がりにしかならない。今は「安倍晋三氏は裏金に怒っていた」とか「森喜朗氏の時代からあったようだ」とか「亡くなった細田博之氏が裏金を指示したのではないか」という噂が飛び交っている。同じ事象に関する証言とは思えないほどの食い違いぶりだ。

今回の出来事をみて「もうしばらくは憲法改正など無理だろう」と感じた。政治資金規正法にはいくつもの穴が開いていた。つまりもともと政治家に都合がいい法律になっていた。だが田崎史郎氏曰く「黒を白にしていた」時代が長かったために、一体何が良くて何がいけないのかすらわからなくなってしまったようだが、法律なので国会議員がその気になれば法律を改正することができる。

しかし同じような調子で統治者に都合のいい「穴のあいた」憲法を作られてしまうと、おそらく誰も制御ができなくなる。

現在の憲法議論には「政治家の地位」に関わるものが多い。一つは緊急事態条項だが萩生田政調会長は地方の議席を多くすべきだという我田引水の議論を呼びかけている。落ち着いて憲法議論がしたい自民党を含む超党派の人たちから見ればいい迷惑だろう。憲法改正を声高に叫ぶ人たちほど統治者としての自覚も責任感もなく、ひたすらプレイヤーとして派閥闘争を繰り広げている。誰も国民生活には興味がない。興味があるのは自分達の地位だけなのである。

実際には統治の観点から憲法改正を研究している与野党の議員たちがいることを考えると複雑な気持ちになる。世界情勢の変化に合わせて憲法を変えてゆくことじたいは極めて重要である。日本の憲法は国連ができる前の世界情勢が前提になっており国連ができて東西冷戦が始まって以降の世界情勢を反映していない。

冒頭に、検察と政治の対立と自民党内部の対立は別の構造であると書いた。今後の注目ポイントの一つはおそらくこの2つの対立が接続しているのかという点にあるのではないか。

これを説明する前にまず安倍派と二階派の構造の違いを知る必要がある。安倍派では派閥と所属議員の両方に不記載があった。ところが二階派は派閥の側にしか不記載がない。つまり安倍派は議員と派閥両方に「裏金」の可能性があるが、二階派は派閥にのみ可能性がある。二階派がどのようにお金を集め何に使っていたのかはまだわかっていないがパーティーだけだったとは考えにくい。

既に自見大臣が二階派に対して行った寄付に不記載があることがわかっている。つまりパーティーだけでなくその他の経路でお金が渡っていたということだ。自見大臣は派閥と自分の関係を「別人格でありよくわかりません」として説明を拒んでいる。派閥と議員が同一人格であるなどと思っている人は誰もいない。

仮に検察と政治がまったくつながっていなければ、二階派の財政事情が自見大臣に飛び火してそれが総理大臣の任命責任問題になる可能性がある。つまり岸田総理は火種を抱え込んだことになる。このときになぜ安倍派の閣僚を切ったのに二階派は切らなかったのかとして問題になるだろう。ただ、法務大臣経由で検察とつながっているのであればある程度のコントロールも可能になる。例えば自見さんは何も知らなかったが二階派が勝手に裏金にしていたというような結論にすることも可能だ。外からは検証ができない。

岸田総理は加藤の乱に血判状で参加した経験があり「政治家として勝負をかけたときは、絶対に負け戦をしてはダメだ」と悟ったと自著に書いている。国民への負担軽減策の検討はダラダラとやっており「新しい何とか」には中身がないのだが、今回の「派閥改革」だけは猛スピードで進んでいる。おそらくもはや次の選挙も見えていないだろうし支持率の低下も気にしていないだろう。まさに「火の玉」になって自民党全体の信頼を燃やしながら派閥闘争に邁進している。勝負をかけたのだから勝ち以外の選択肢はない。

最終的な目標は「強大な岸田派の樹立」なのかもしれないが、国民がこれを支持するかは全く別の話である。また「勝負をかけた」と言っているが、仮に検察の騒ぎに乗っているだけという可能性もある。「混乱に乗じて勝負をかけた」ということになる。つまり岸田総理のシナリオ通りに物事が進むのかはわからない。

ただ既に刃物を振りかぶって襲い掛かる状態になっているのだからここは振り下ろすしかない。あとは「なるようになる」ということなのかもしれない。

繰り返しになるがもはや政治は国民のことなど考えていないだろう。ただ彼らは目の前の戦いに勝たなければならない。これが今回の「仮説」の結論だ。これが間違っていることを望みたい。

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