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「岸田総理は選挙で192万円丸儲け」に怒る国民と「違法ではないので罪に問うことはできない」という理不尽

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NEWSポストセブンが「岸田文雄首相に「選挙資金192万円着服」疑惑 政党交付金から出された選挙資金の残余金を返還せず「非課税の個人所得」に」という記事が出ている。SNSのトレンドワードで知ったが「X」の人たちはかなり怒っていたようだ。記事には「着服」と書かれているがポイントは「違法ではなく脱法」という点にある。つまりこれは違法ではないので罪に問えない可能性が高い。

この問題は合法だからこそ今後の岸田政権と自民党に悪影響が大きいといえるだろう。法律ではなく人々が持っている一般的な感覚に違反している。こうした価値基準を「徳」とか「道徳」という。今回の行為は非常に徳のない行為である。もっと平たい言葉で言えば「そりゃないぜ岸田さん」ということになる。

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まず記事を読む。

選挙に出る政治家個人が政党や政治団体から寄付を受ける。選挙にかかった経費を差し引くと余剰金や赤字が出る。しかし現在の法制度は余剰金を想定していないようで返還せず手元に残したとしても収入と見做されない。したがって報告の義務も納税の義務もない。NEWSポストセブンはこれを脱法行為だといっている。上脇博之教授は法の抜け道だと表現する。つまり道徳的には問題があるが法律論から見ればあくまでも合法なのだ。

徳を失った君主は天から見放されると東洋では考える。道徳とか倫理というと嫌う人がいると思う。仁義と言ってもいい。もっと平たい言葉で言えば「そりゃないぜ岸田さん」ということだ。ただ「そりゃないぜ」が組織全体に広がると統治の正統性「君主としての徳」が失われるというのが東洋の伝統的な考え方である。徳を失った統治者の元では世が乱れる。

田崎史郎氏が証言しているようにこれまで歴代の官邸は法務省を通じて「黒を白にするではないがいろいろと」やってきた。これが通るのだから世論が逆転すると「黒でなくても責められる」事になる。価値基準が逆転することを「革命」という。極めて東洋的な考え方である。

毎日新聞が「裏金疑惑は何が問題か」という記事を書いている。ざっくり要旨をまとめると「政治家がいっぱいお金を使うと悪いことに使うに決まっているから監視しないといけない」という内容だ。非要するに「政治家は何か悪いことをやっているに違いない」と決めつけている。普段なら問題になるだろうしコメントも「毎日新聞は世論を誘導しようとしている」と看破している。

だが、政党支持率が落ちると「特に黒と証明されなくても十分に怪しい」という言説が効果を発揮してしまう。つまり価値基準が変わり始めている。実際に政党支持率はどんどん下がっておりついには予算成立と引き換えに退陣になるのではないかと予想するメディアも出てきた。竹下内閣がリクルート事件の処理に失敗して退陣した故事にならったものである。この後自民党は結局政権を失っている。「政治家が徳を失ったため有権者に見限られた」のがリクルート事件だった。

現在、安倍派と二階派で問題に立件されそうだ。だが、記事は「安倍派側・二階派側」と書いている。政治家を罪に問えない可能性がある。これだけ騒ぎになり政治家が誰も逮捕されなかったとなると国民は「政治家は自分達に都合のいいルールを作って逃げた」と考えるだろう。

では、年明けに何かが起きて政党支持率が上がれば岸田総理問題は帳消しになるだろうか。おそらくそうはならないだろう。

岸田総裁は今回の件で「派閥改革をやる」と宣言しているのだが具体策は示していない。捜査が進展して全貌がわかるまで自分達の政党が何をやっているのかが把握できない状態になっている。このため「捜査の推移を見て検討する」といっている。つまり、岸田総裁はもはや自民党を統治していない。

今回大臣・副大臣たちが安倍派であるというだけでポストを追われている。この問題は「徳」と「実利」の両面で組織としての自民党を直撃するだろう。今後安倍派にいる限り役職に就けないという人も出てくる。と同時に捜査が行われ裁判の過程で安倍は幹部たちがスキームを利用してお金儲けをしていたという図式が浮かび上がるはずである。つまり下の方の議員たちが上の方の議員たちに「そりゃないぜ」と感じる可能性が高い。さらに自民党には地方組織もある。

実は有権者に対して徳を失ったというより自民党の中の人たちが自民党の統治に正統性を見出せなくなったことの方がインパクトが大きい。仮に上の方の人たちが誰も処罰されなければこれらはすべて合法ということになる。だが、会計責任者は立件されることがほぼ確実と言われている。下の方の人たちはますます「そりゃないぜ」と思うことだろう。

「上の方の人たち」が「下の方の人たち」を搾取する構図はもはや珍しくはない。問題はそれが検察によって透明化されてしまうという点にある。安倍派は既にトップの人たちが何も語らなくなり組織としては機能不全に陥っていると言われる。上の方の人たちは既に逃げてしまった。

岸田総理は政党改革を行うと表明しているがいまだに具体策は出ていない。いずれにせよ、分配機能が壊れたままで派閥を解体すると今度は政党が問題をそのまま抱え込むことになる。制度を作るのはそれほど難しくないだろう。問題は政治家が「政治家への信頼」と言っている徳を取り戻せるかどうかだ。

田崎史郎さんのいう「黒を白に」してきた代償は非常に大きかった。少なくとも安倍派と二階派では自分達が作ったはずの法律の内容を理解できなくなっていた。さまざまなスキームが開発され組織全体として何が起きているのかすら把握できなくなっている。道徳・倫理・仁義とどう呼んでも構わないが「白と黒の線引き」が組織統治にとって極めて大切であるということがわかる。次の道徳の教科書にぜひ採用すべき事例である。

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