ざっくり解説 時々深掘り

鈴木前総務大臣が「キックバックは政治文化」と主張

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

更迭されたばかりの鈴木淳司前総務大臣が「還流(キックバック)」は政治文化のようなものだったと説明した。政務活動費であり裏金ではなかったとの主張だ。「文化だから継承し保護されるべき」とでも言いたかったのだろうか。

政治家には報告する義務がないお金を手に入れることができる法律を超えた存在だと主張したことになる。こんな認識の人がついこの前まで総務大臣として地方自治体運営や放送行政などに絶大な権限を持っていた。恐ろしい限りだ。

なぜこんな人が総務大臣になれたのだろうという気がするが、岸田総理の政治的生い立ちを見るとその謎が解けてくる。ドタバタで宏池会本流の領袖に就任したという大きな幸運がその後の岸田総理の運命を徐々に狂わせてゆく。ラッキーで手に入れたものは簡単に崩れ去る。このためどうしても派閥均衡で頭がいっぱいになってしまうのだ。

今後検察が情報を小出しにするにつれ「除名嘆願」のための「説明」が政治家から次々と出てくるだろう。時事通信の世論調査によれば内閣支持率と政党支持率は共に2割を切っているがこれは底ではないのかもしれない。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






呆れるほかはないがまず言い訳を聞いてみよう。

鈴木前総務大臣は記者たちの取材に答えた。キックバック(還流)を受けたお金は「わずか」60万円であり全て使わずに金庫に保管してあるとした。その上で現金で受け取っていて事務所経費に使えば問題はないと認識していたと説明している。

鈴木氏はノルマ通りにパーティー券を捌いていたが新型コロナ禍でノルマが縮小された時にも同額を売り切ったといってる。社会はロックダウンに怯え飲食店の売り上げも大きなダメージを受けていたが安倍派は「密」につながりかねないパーティーを続けていたことがわかる。「それはそれ、これはこれ」だったわけだ。

「お金は使っていない」と説明しているが、現金でもらっているのだから金庫にあるお金がパーティー券の余剰金であるなどと証明できるはずもない。

この程度の説明で国民が納得すると考える人がつい最近まで総務大臣をやっていたのだと改めて思い知らされる。「ちょっとくらいで昔からやっている」ことは全て「文化だ」といえば説明ができると考えている。国民も税務署などで使ってみてはいかがかと思うが、おそらく税務署からは鼻で笑われて終わりになるだろう。

鈴木さんには説明責任能力はなさそうだ。となるとなぜこんな人が総務大臣に任命されたのだろうか?という気がする。何か特別なものすごい経歴でもあるのか。

愛知県瀬戸市出身で現在は愛知7区の選出だそうだが選挙にはそれほど強いわけではないようだ。総務畑(自治か通信など)で目立った功績はなさそうなので派閥順送りで推薦されたものと思われる。よく岸田総理は「適材適所だ」と主張する。その実態はたんなる派閥均衡型人事である。

岸田総理が派閥均衡にこだわり続けるのには理由がある。「派閥」をラッキーで手に入れている。

宏池会は清和会系・森内閣の倒閣を目指した加藤の乱で混乱した。その後、下野して谷垣総裁の元で再起を図る。ところが派閥の実力者だった古賀誠氏は谷垣氏への支援を断り林芳正氏を後継総裁にと指名する。結果的に谷垣氏は宏池会から離脱した。結局この時に総裁になったのは清和会系の安倍晋三元総理だった。古賀氏は責任をとって宏池会の会長を退いた。当事者となった林芳正氏は派閥会長にもなれなくなりその後を継いだのが岸田文雄氏だった。

仮に古賀誠氏の計略がうまくいっていれば林芳正官房長官はもっと早い段階で総理大臣になっていたかもしれないのだが、今は岸田総理の官房長官だ。

岸田氏が総理総裁になれたのは宏池会という名門派閥の領袖だったからなのだが、その地位は宏池会分裂というゴタゴタによって手に入れたものだった。この後も古賀誠氏は林芳正氏を次の宏池会のリーダーに据えたいと発言を続けている。かつての打倒相手だった清和会と組む岸田総理を裏切り者と考えているのだろう。

逆に岸田氏は「ラッキー」で手に入れた地位を守るためにはどんな人たちであっても手を組まなければいられないという危機的なマインドセットを持ち続けている可能性がある。だから政策よりも政局と党内バランスを優先してしまう。トリガー条項で玉木雄一郎氏に譲歩したのもその表れと言えるだろう。

皮肉なことに今回官房長官となった林芳正氏は古賀誠氏の後ろ盾のためにかなり微妙な立場に追いやられている。岸田総理がつい最近まで派閥を離脱できなかったのは会長職を簒奪される可能性があるためだ。このため次期会長職はおかず従ってそのまま「岸田派」と呼ばれ続けている。

国会が終わった後の記者会見で岸田総理は「もう先のことなど考えられない」と言っている。心理的には宏池会分裂後の混乱期に入ったとの認識なのだろう。ここでどう動くかによって自分の将来が決まる。ついに派閥改革に乗り出した。派閥の力を弱めることで相対的に自分の力を強めようとする気持ちになっているのではないかと思う。

俯瞰で見るとこのゲームは検察主導で進んでいる。検察は「あいつがあんなことを喋ったぞ」とマスコミに流す。その度に安倍派の事務方は動揺する。こうして次々に証拠を掴んでゆき本来は出るはずのない二重帳簿があったところまで突き止めた。組織的に防衛していればおそらくこんな証拠は出てこなかっただろう。

今後捜査が進むとマスコミへのリークは抑制的になるかもしれない。今度はなにが行われているかを流さないことで政治側が疑心暗鬼に陥る。「有罪になるかならないか」「起訴されるかされないか」のラインを曖昧にすることで、鈴木前総務大臣や宮沢前防衛副大臣のように「公開自白」に追い込まれる人は増える可能性がある。

普通に考えるとこれは自民党全体の危機だが、宏池会分裂の経緯を見ると岸田総理はこれを「新たな神風」と考えている可能性すらある。

自民党が混乱すればするほど「見苦しい釈明」は増えてゆくだろう。これまでも「頭悪いのか」「派閥からしゃべるなと言われた」などの迷言が飛び出しており自民党と内閣の支持率は麻生政権以来(つまり下野前夜)と同じ程度まで下がっている。

おそらく自民党の今後の体制は検察が握っているわけだが、岸田総理の「派閥改革」はこれをさらに混乱させるものと思われる。伝統ある宏池会領袖の椅子を「ラッキー」で手にいれた岸田総理だがはたしてそれは岸田氏と自民党にとって今でも幸運だったといえるのだろうか。そんな気がする。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です