年内に援助資金が枯渇するとされていたが、アメリカ合衆国でウクライナ支援を含む防衛関連予算(国防権限法)が可決された。すでに上院を通過しており大統領もサインする予定だ。だがその予算はバイデン大統領が期待するようなものではなかった。共和党はバイデン大統領の追い落としに夢中になっており、バイデン大統領はイスラエルを持て余している。ゼレンスキー大統領はわざわざホワイトハウスにまで出かけたのだが思っているような支援は得られなかった。大統領選挙を前にアメリカ合衆国の外交政策が迷走している。
ウクライナへの支援を含む国防権限法がクリスマス前の議会を通過したとロイターが伝えている。日本語版はサマリーだけだが、英語版のロイターは詳細を伝えている。「ああよかった」とと感じたのだがどうも内容に違和感がある。通過した予算は当初の$61bil(610億)よりもずっと低い$300mil(3億)に過ぎなかったと書かれている。
The bill extends one measure to help Ukraine, the Ukraine Security Assistance Initiative, through the end of 2026, authorizing $300 million for the program in the fiscal year ending Sept. 30, 2024, and the next one.
However, that figure is a tiny compared to the $61 billion in assistance for Ukraine Biden has asked Congress to approve to help Kyiv as it battles a Russian invasion that began in February 2022.
That emergency spending request is bogged down in Congress, as Republicans have refused to approve assistance for Ukraine without Democrats agreeing to a significant toughening of immigration law.
Ukrainian President Volodymyr Zelenskiy met with lawmakers at the Capitol on Tuesday to make his case for the funding requested by Biden, but emerged from the meetings without Republican commitments.
民主党側は引き続きウクライナを支援すると約束しているが共和党側がコミットしなかったようだ。ゼレンスキー大統領は共和党に会う前に会合を抜けたなどと書かれている。
共和党は代わりにバイデン大統領の吊し上げでに夢中になっている。形式的には弾劾決議を目指すのだが採決される見込みは低い。それよりも委員会などでバイデン大統領とハンター・バイデン氏を吊し上げトランプ大統領再選の材料にしたいのだろう。ホワイトハウス側が議会に非協力的な姿勢だったため弾劾裁判プロセスを開始する圧力が高まったと分析する媒体もあり対立は深まるばかりだ。
ウクライナの支援が抑制される一方で両党が熱心に進めているのがイスラエル支援である。国際世論は即時人道停戦を求めているがアメリカがブロックしているため国際世論のアメリカに対する反発は高まっている。バイデン大統領はイスラエルに翻意を促しているがイスラエルの姿勢は却って硬直化した。バイデン大統領はアメリカとイスラエルを切り離そうとしたのだろうがそれには成功しなかったといえるだろう。板挟みになったアメリカ政府は「停戦は必要だが今すぐは難しい」と苦しい言い訳をしている。
バイデン大統領はイスラエルへの支援をやめられないのは「条件をつける」といった途端にユダヤ系の人たちが共和党に移ってしまうことを恐れているからだろう。イスラエルの支援に対して「何らかのレッドラインを設けるつもりはない」と表明している。つまり結果的に「イスラエルが何をやってもアメリカは認めますよ」という意味になる。
選挙戦を前提とすると極めて「正しい」意思決定だがおそらく国際社会は今後もアメリカ合衆国をイスラエルの代理人とみなし一体のものとして批判することになるだろう。国連総会の決議ではカナダとオーストラリアに離反されている。残りはイギリスだけだがこれも反対はせず棄権しただけの対応に留まっている。
かつて「正義や民主主義を守れ」と盛り上がっていたアメリカだが「成果の出ないウクライナは票にならない」と考える人たちが増えており結果的に見捨てられつつあるように見える。一方で「票になる(正確は支持表明で寄付が集まる)」イスラエルの支援は強力に推進されている。だが、これもアメリカの国際的な評価を失墜させる。
バイデン政権の終わりも視野に入る中、アメリカ合衆国は外交的に非常に厳しい状況に置かれており打開の目処は立っていない。アメリカ経済は好調だがこの好調の波に乗れない人たちの間では不満が高まっているようだ。バイデン大統領の支持は低迷している。政策では勝てないためバイデン陣営はトランプ支持を妨害する方向に動いておりこれが却って共和党の強硬な対応につながっているとの分析もある。
少なくとも2024年11月に大統領が決まるまではこの泥沼が続きそうだ。政治家が姿勢を明確にし寄附を公明正大に集めるのは健全な民主主義の一形態と言えるのだが、やはり行き過ぎによる弊害は大きいようだ。人々が短期的な支持集めに夢中になるとどうしても中長期的な国益について考える人は少なくなる。