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予算編成中の閣僚交代と党人事は前代未聞 党内政局を優先し「おともだち」の林芳正氏が官房長官に就任

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政治と金の問題は安倍派問題にすり替えられ内閣と党人事から安倍派が一掃された。岸田総理は安倍派を切り捨てたわけではないと主張するが今回の件を利用し人事を思い通りに進めた事になる。その象徴が林芳正官房長官の起用だった。ただ宏池会・岸田派色が強まったことで「清和会色が弱まれば弱まるほど経済が悪くなった」と感じる人は増えてゆくはずだ。つまり却って逆効果なのかもしれない。

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林芳正氏は将来の総理大臣を目指すと公言しており、そのためには衆議院選挙区から当選する必要がある。選挙区が4から3に減らされる山口県でそれはかなりの難事業だったが河村建夫氏を放逐することでこれを成し遂げた。河村氏は二階派の幹事長だったため二階派は林芳正氏を快く思っていない。さらに古賀誠氏は岸田総理が安倍派に接近することを快く思っていないため「林氏を将来の宏池会領袖に」と公言している。そして、福岡県で麻生太郎副総裁と古賀誠氏はとても仲が悪い。さらに林芳正氏の選挙区は安倍晋三元総理の地元である下関市を含むようになる。つまり安倍派も林氏のことを快く思っていないだろう。

岸田総理が宏池会・岸田派で人事を固めたいと考えるのは自然なことだ。林氏はこれまでもピンチの時に駆けつける「リリーフエース」として活躍しておりおそらく政権運営は安定するだろう。

だが、林氏は党内に全世代の怨念を起点とするさまざまな軋轢を抱えている。今回の件で悪者になった安倍派もおそらく宏池会を恨むことになるだろう。すでに「キックバックを少額受けただけなのに内閣から追い出された」といっている大臣もいる。

宏池会色を払拭するために「官房長官人事は難航した」と宣伝し浜田靖一氏にわざわざ断らせている。「色々な人を検討したものの仕方なく林芳正氏を選ばざるを得なかった」という形を作った。岸田総理の安倍派一掃の意図は明白だが、岸田総理は「1人1人の意向を確認した」と強調している。党内からの反発を気にしていることがわかるが、結局自分の意向を押し通してしまうのだ。

スキャンダルを利用して元々作りたかった内閣を作ったという意味では「火事場泥棒」だったと表現できるのだがおそらくこれはかなり悪い選択だった。

第一に有権者は自民党と派閥の関係を理解していない。今回の細かすぎる報道もおそらくは有権者には伝わらないだろうし「この問題は安倍派問題である」という内輪の論理も国民に伝わることはないだろう。時事通信によれば岸田内閣の支持率はついに2割を割り込み17%にまで下落した。今回は維新が不満の受け皿になっておらず立憲民主党がやや支持を伸ばしている。

次に経済政策に影響が出そうだ。経済政策の牽引役を安倍派から取り戻したのはよかったが予算編成は途中まで進んでいる。萩生田氏はすでに辞表を提出しているが「予算編成が終わるまで待ってくれ」と指示されている。ロイターは「脱デフレ」の筋書きが狂うだろうと心配している。日銀の金融政策変更に体制内部から反対していた人たちが今度は外に出て「景気を良くするためには積極的な財政支出が必要なのに」と岸田政権への不満を喧伝するだろう。安倍派はもはや党内野党だ。

実際の悪影響よりも懸念が大きいのが印象の問題だ。

岸田総理は安倍政権を引き継いだ政権だ。だがコロナ前とコロナ後ではかなり経済状況が変わっている。全ての変化を岸田総理が引き起こしたわけではないのだが「清和会から宏池会に政権が変わったら生活が苦しくなった」と感じている人は多いのではないかと思う。

今回も本予算の編成は清和会系の政調会長のもとで行われているが、説明と実施は別の人たちが行うことになる。仮に政権交代が行われなければ少なくとも9月までは「純粋に宏池会が主導した」経済政策が実行されることになる。ロイターは「脱デフレの急先鋒がいなくなった」と心配しているが、おそらくざっくりと「宏池会色が強まったせいで我々の暮らしが破壊された」と感じる人の方が多いはずである。

鍵になるのは好調な海外の景気と冷え込んだ内需の温度差だ。好調な経済Aと不調な経済Bへの分極化が進んでいて日銀は対応に苦慮している。経済Aから見た好景気も経済Bにとっては単なるスタグフレーションに過ぎない。金融政策はこのどちらかを選択しなければならないため「全てが青信号にならなくても見切り発車する」といっているが、日銀は選びかねているようだ。

日銀が金融政策を変更すれば円安は解消されるが金利が上昇を始める。逆に身動きが取れなければ2023年の再現になる。つまり一度円高に触れたのち揺り戻すだろう。これはインフレを助長し国民経済を苦しめる。つまり経済Bは「金利上昇か物価高」の二択を迫られている。懸念されていたインフレ税がいよいよ現実のものとなる。

こうなってしまうとおそらく「宏池会純化が進めば進むほど経済が悪くなった」と感じる人が増えてゆくはずだ。「火の玉」となって「渦中の栗」を拾ったはずの宏池会が「火だるま」になってしまう可能性は高いのではないだろうか。国民経済そっちのけで危険な火遊びが続く。

この政局の陰でいくつかのことが決まっている。まず少子化対策の骨子が発表された。三人の子供を持っている家庭が優遇されるという内容だったが第一子が扶養を離れると「子供は二人しかいない」ということになり援助が受けられないという点が反発されているようだ。

次に税制大綱だが防衛増税の必要性は維持したものの開始時期に対しての議論はしなかった。将来の支出増の不安を残しつつ、法人税の引き上げが検討されており財界(特に内需系の経済)からの反発も予想される。

診療報酬は自民党の支持母体である医師会に花を持たせるという意味で1%程度引き上げが決まった。人件費に充てるという名目になっているがクリニックを中心に内部留保として溜め込んでいるという実態がある。今回もインフレに対応するほどの引き上げになっておらず、なおかつ政府の約束していた歳出削減も果たされないという内容になった。つまり非常に中途半端な内容で双方から不満が出る可能性がある。

このように政府の不人気の理由は「これまでのように気前よく分配できなくなったから」なのだがおそらく有権者もマスコミも政局と政策は区別しないだろう。

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