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もう政治家なんかいらないのではないか 国民の注目不在で迷走する大学改革議論

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蓮舫議員が「大学制度改革」に反対するツイートを複数出している。なんとなく何かに反対していることはわかるのだが一体何に反対しているのかがわからない。そこで色々調べたのだが結果として「もう政治家はいらないのではないか」と思った。

政治家の役割の一つに利害調整がある。日本の大学の地位は低下している。一方で大学側には十分な研究資金が回ってこないという不満がある。本来であれば政治家たちは両方から話を聞き「何がこの国にとって必要なのか」を見定めなければならない。

だが大学改革ではこれが実現できていない。10兆円の巨大ファンドを作ったはいいのだが運用に失敗して赤字を出した。そしてこのファンドの導入をきっかけに大学の自治を奪おうとしているという形跡がある。これらの不毛な議論はメディアでは全く取り上げられていない。誰も大学の置かれた状況に興味がないのである。

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一連のつぶやきから蓮舫議員が何かを言っていることはわかった。だが、一体何を言っているのかわからない上にまとまった記事もない。政府は一体何を目指し立憲民主党が何に反対しているのかは自分で調べなければならない。

まずまとまった記事がないのが驚きである。一応大学関係者側が書いた記事はあるが「続きは有料で」というものが多かった。かろうじて無料で全部が読めるのは第一生命経済研究所の「10兆円の大学ファンドが直面する課題と展望」である。

第一生命経済研究所は改革については肯定的に扱っている。どうやら10兆円のファンドというものがあるようだ。このファンドは3,000億円の運用益が出るとされておりこれを国際卓越大学に配分する計画になっている。国の教育予算が費用が減っているため集中投資することにしたのだろう。

ところが実際にやってみると運用益は出ず赤字だったそうだ。ファンドはJSTという組織が運営する。日経新聞によると運用益は604億円の赤字だった。国際的に金利が上昇し債権が下落したためだ。成功しているハーヴァード大学はオルタナティブ投資という最新の投資手法を使って成功しているそうだが、JSTは「手堅く」行こうとして失敗したことになる。

国際卓越大学は「東京大、京都大、東北大」のなかから1〜2校が選定される予定になっているという。ファンドそのものが利権になってしまう可能性があるが、さらに加計学園の問題を見ても明らかなように「おそらく選定の過程でさまざまな政治的利権の話がでてくるのであろう」という悪い予感もする。政権は変わったが文教族と呼ばれる人たちが入れ替わったわけではない。

ただ、蓮舫氏が怒っているのはそのことではないようだ。つまり別の問題がある。国際卓越大学には国のお金が入るので「合議体」を作ってガバナンスを強化することになっている。この合議体を一定数の大学に拡大することにしたようだ。内部資料がなく誰が何の目的で指示をしたのかがわからないというのが議員の主張らしい。

蓮舫議員のTweetは「卓越大学に設置が必要としていた合議体」を一定規模に広げたとしている。つまり元々は国からファンドを入れるからガバナンスが必要であるとしていたものを「どういうわけか」他の大学にも広げようとしているのだと読み取れる。だが、それを読み解くためには、まず「10兆円ファンド」と言うものが存在していることを知っている必要があり、さらに、政府は国立大学を思想的に支配しようとしているという(おそらくは証明不能の)前提を置いた上で、文部科学省と背景にいる文教族の意図を推察しなければならない。

合議体は大学から反発を受けているNHKに記事が出ている。運営方針会議の設置を求めると言う内容だが委員の選出に対して文部科学大臣の承認が必要になることについて「自治を損なう」として反発が出ているようである。おそらく背景にある状況はかなり複雑なのだが文部科学省とその背景にいる文教族(安倍派が多いと言われる)が何を狙っているのかがわからない。

加えてアカデミアからの反発が感情的なしこりによるものである可能性も高い。日本学術会議の問題がまだ解決していないのだ。安倍政権に批判的だった人が任命されなかったという「事件」をきっかけに改革議論が進んでいる。国に助言する機関とされていたが安倍政権は「国の政策に賛同してくれない厄介な機関だ」と考えていた。これを政治の意思決定から切り離したいのだろう。政府は翼賛的な会議だけを残したいのだ。

メディアは政治と金の問題で国会が揺れているがそのどさくさに紛れ流ように参議院文教科学委員会を通過してしまった。大学側にはかなりの不信感があるようで付帯決議がつけられた。これまでの政治的軋轢と感情的なしこりが全く解決していないことがわかる。アカデミアは人事権を背景にして学問の自由が奪われることを警戒している。

  • 運営方針会議が重要事項を決定する権限を有する組織であることを踏まえ、委員の選任では、ジェンダーバランスをはじめとする多様性に留意し、選定過程の透明性・公正性が担保されるよう検討を行うこと
  • 文部科学大臣が委員を承認するにあたっては過去に政府の意に沿わない言動があった人などについて、言論活動や思想信条を理由に恣意的(しいてき)に承認を拒否することのないよう、大学の自主性・自律性に十分に留意すること

ただ、この一連の議論を読んでも特に立憲民主党側を応援しようという気にもならなかった。確かに政府と与党の政策や意思決定はかなり杜撰なものだ。日本経済が再び成長するためには官学の連携が必要だが現在の関係は極めて不健全である。

だが、日本の大学の国際的な地位が下がってきていることも確かである。予算が少ないことも問題なのだが閉鎖的で旧態依然とした体質にも問題はあるはずである。いわゆる「象牙の塔」の弊害である。成長と学問の自由はどちらも重要なのだから、政治は利害の異なる人たちを呼んで何が本当にこの国にふさわしい政策なのかを聞いた上で裁定を行う必要がある。

いずれにせよ一連の議論を読んでも政治がこうした役割を果たしている形跡は認められなかった。だから政治の側からどちらかを選んで応援しようという気持ちにならない。代わりの結論は「だったら政治はいらないのではないか」というものだった。

いずれにせよこの問題がメディアで大きく取り上げられることはなく論点の整理も進んでいない。少子化や防衛のように負担を伴う議論ではないため国民は「どうぞご自由に」と考えているのだろう。極端な言い方かもしれないが、夢や物語を語らなくなった政治に注目している人などもう誰もいないのではないか。

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