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なぜ政治資金規正法の問題は「岸田総理による安倍派いじめ」に堕ちてしまったのか その表面と裏面

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政治資金規正法の問題がマスコミの紙面を賑わせ続けている。だが、リクルート事件を知らない世代を中心に「一体何が問題になっているのかよくわからない」と言う声を聞く。ここでは表面と裏面に分けて理解を深めたい。表面の意見は「公の問題を扱う政治家は清廉潔白でなければならない」というものだ。これはこれできっちり押さえておきたい。だが裏面では「実はこれは単なる党派争いなのだ」というような噂が(根拠の薄いものまで含めて)飛び交っている。

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まず社会人として「表面」を理解するのは重要だ。政治家はお金に清廉でなければならず規則を作る人がまず率先して規範を示さなければならない。だからこそ政治資金規正法はきっちりと守られる必要がある。特に昭和世代はリクルート事件をきっかけにして政治家のお金の問題に対して疑念を持っておりこの話題には敏感だ。法律を作る政治家が規則を守らないのは良くないので厳しく罰せられるべきだ。むしろ今回の事件をきっかけに、今の政治資金規正法が清廉な政治を保つために必要かつ十分な法制度になっているのかをみんなで議論する必要がある。

これをきっちり押さえた上で「裏面」について見てゆきたい。岸田総理による安倍派いじめではないかと考えている人は多いのではないだろうか。

週刊誌レベルでは2つの問題が語られている。

1つは安倍派の内紛である。安倍派は1年経っても新しい領袖を決められなかった。逆に集団指導体制からS氏が放逐されS座長と五人衆が生き残った。放逐されたS氏がこの時の経緯を快く思っておらずX氏と呼ばれる部下が捜査に協力していると言う話がある。元衆議院議員の今井雅人氏のXの投稿にはこの伏字だらけの人物相関図が描かれているが、一部週刊誌では対応する記事が出ている。今井さんの投稿の(ほぼ名指しの)伏字だが週刊誌では実名を出して報じているところがある。

次に「安倍総理時代に押さえつけられていた」検察が自由に動けるようになったことで捜査が進展したとするものもある。枝野幸男氏などは遠慮がちに「東京地検特捜部が元気になっている」とコメントしているが、週刊誌の中には検察の「復讐」などと書くところもある。

自民党の大粛清につながる大事件だと考えている人も一部いるのだろうが、実は今回の捜査はあくまでも不記載をめぐる「形式犯」捜査にすぎない。メディアの中には事務方の起訴「は」確実だろうと書いているところもある。つまり、政治家が立件されるかされないか「は」非常に微妙な情勢だ。

政治家の逮捕にはつながらないかもしれないのになぜここまで話が大きくなってしまったのか。いくつか要因があるように思える。

第一は薗浦健太郎氏の実例だ。形式違反とはいえ公民権停止の処分が下り議員でいられないばかりか立候補すらできなくなっている。今回は「大物政治家」が公民権停止処分を受ける可能性があるなどとされている。

次の原因は支持率の低下だ。今年の漢字が「税」となったように、岸田政権が主導する増税提案に国民が怯え続けた一年だった。目の前で物価高騰が続き生活にゆとりがなくなったと感じている人も増えている。おそらくある程度支持の高い政権であれば検察に対する批判もあったかもしれないが、世論の評価は厳しかった。

検察や東京地検特捜部の事情も大きい。これまでも検察はさまざまな政権疑惑を追求してきたが不発に終わったものが多い。現在の東京地検特捜部のトップは副部長として「桜を見る会」の捜査も指揮していた。だが当時は政治家にまでは辿り着くことはできなかった。特捜部部長が就任したのは4月だがNHKは次のように伝えている。

伊藤氏は10日、報道陣の取材に対し「正直者がばかをみるような社会はなくしたいので、国民が不公正や不公平だと思うような、社会に潜んでいる犯罪を摘発していきたい。国税や公正取引委員会など関係機関と連携して真実を解明していきたい」と抱負を述べました。

特捜部はこれまでの政権との軋轢が蓄積しており安倍派に対する態度が厳しい。防御が固くななかなか崩せなかたという前例もあるためメディアを味方につけて状況を有利に進めようとしたのかもしれない。ところが安倍派の全容を知る人がいなくなっていたため「打たれるがまま」になってしまった。つまりパンチを打ったら効きすぎてしまった可能性がある。

さらに宏池会連合(岸田・麻生)がこの問題を「安倍派問題」にすることで政権内部のパワーバランスを変えようとした。政権は積極的には安倍派を守らず人事で安倍派を一掃することで「政治と金の問題」と政権構造の問題を一気に解決しようとしたといえるだろう。枝野氏の言い方を借りればこれでますます検察が元気になった。

ここまでは週刊誌の噂とSNSの投稿といういかにも怪しげな情報ソースをもとに考察を進めてきた。だが、一流メディアだから全て正しいと言うことにもならない。もちろん彼らは間違ったことを書くわけではないが一種の偏りはある。

その偏りが絶妙なバランスを構成していたのだが今回はそれが崩れてしまった。

これまで政権を擁護してきた産経新聞は今回は擁護姿勢に回らなかった。産経新聞は消費税減税などを提案しているが岸田政権には聞き入れてもらっていない。安倍派の組織的な問題である可能性を取り上げたときには「あの産経新聞が」などと話題になった。

裏金システム、組織的に構築か 安倍派パーティー収入不記載(産経新聞)

朝日新聞は当初から「安倍派一掃」などと煽り気味に報道している。今度は「清和会と宏池会の戦いが始まり岸田政権の終わりの始まりが見えてきた」などと状況を盛り上げ続けている。朝日新聞が嵐を起こそうとしても産経・読売がそれをブロックすると言う構造が今回は崩れている。

では、この問題は単なるコップの中の嵐であり本来は取るに足らないことなのかということになる。むしろ問題は「入り」ではなく「出」つまりお金の流れた先なのではないかと思われる。

今回の不記載の件は単なる形式問題なのだが実際に5億円ほどのお金の行方がわからなくなっていると言う事実がある。つまり出どころのわからないお金というのが5億円ほど作られていることになる。既に官房機密費が選挙対策に使われたことは官房長官経験者の証言で明らかになっており、さらに河井克行元法務大臣の事件が示すように、出どころがわからないお金が買収に使われたこともわかっている。

戦前に普通選挙が始まって以来「お金で票を売る」人が後を絶たない。戦後は「公明運動」で買収を防ごうとしたがうまくゆかなかった。こうした歴史があり今でも公職選挙法は戸別訪問を禁止している。戸別訪問が買収の温床になるという懸念が払拭できないからである。前回政治と金の問題が出た時も政党助成金を入れれば選挙運動は正常化されるだろうという期待があったのだがどうやらちょっと目を離すと昔の悪習が復活するという政治的土壌は残っているようだ。

つまり、今回の問題で本当に考えるべきなのは不記載のお金が一体何に使われているのかということなのである。無党派層が政治に関心を持たなくなる中、生活者目線の政策よりも既得権を優遇する政策ばかりが実施される背景にはやはりこうした「あまり説明したくないお金」の存在があるのではないか。

仮にこれが全く解明されず単に形式の問題で数人の逮捕者が出ただけになってしまうと「なんだ検察の捜査もマスコミの煽りも全て単なる政局だったのか」で終わりかねない。

おそらく今回の問題ではそもそもの起点である「なぜ政治は清廉でなければならないのか」と言う理解がきちんと共有されていない上に、平成・令和世代から人気が高かった安倍派が「いじめられている」と言う印象が強くなっている。中高年は昭和の記憶と現在の一連の出来事がつながっているが、平成・令和組の中には「なにがなんだかわけがわからない」と言う人が多くいるかもしれない。

人事情報は二転三転している。最新ではやはり予算編成の途中で政調会長と経済産業大臣も含めて安倍派を一掃する判断をしたようだ。ただし政務官レベルの人たちはノルマをこなすので精一杯だったとされており「自己申告でどうぞ」と言うことになりつつある。

いずれにせよ予算編成の大詰めで大臣、副大臣、政務官が大幅に入れ替わることになり霞ヶ関は大混乱しそうである。これまでの財務省側の説明は全て振り出しに戻り一から説明し直しになってしまう上に、誰が後退するのかも実はよくわかっていない。財務大臣は戸惑いを隠さなかった。

萩生田政調会長については田崎史郎氏が「総理大臣は経済政策を最後までやってくれと慰留したが自分だけが処分を逃れるわけにはゆかないといった」と説明する一方で「かなり頭に来ていて清和会と宏池会の争いは避けられないだろう」とする観測が並立している。

また誰が安倍派の中でこのスキームを考えついたのかについても情報は錯綜気味だ。田崎史郎氏は「20年、いや25年くらいは行われていた」としている。田崎さんの情報が確かなら現在の執行部は昔の慣習をただ守っていただけで誰も指示はしていなかったことになる。だが「ここ数年で方針が変わったのだから事務総長などトップの指示があったのだろう」とする観測も出ており意見が分かれている。ここ数年で変わったとなると「指示した人が政権内部にいる」ということになる。冒頭に挙げた今井雅人氏のX情報によると「古巣から会計責任者を連れてきた人がいる」ということになっている。この人も偶然だがS氏である。

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