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国連事務総長のイニシアチブにアメリカ合衆国が拒否権を発動 さらに際立つ「イスラエルの保護者」の立場

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イスラエルとハマスの停戦を求める国連安保理の決議がアメリカの拒否権でブロックされた。アメリカのブロックそのものは珍しくないのだが今回は少し事情が違っている。国連憲章99条に基づくグテーレス国連事務総長の要請だった。国連が設立されてから数回しか発動されたことがないそうだ。

ただし、戦闘自体はあと一ヶ月くらいで終わるのではないかという観測も出ている。仮にこれが正しいとすると「いずれ止まるもの」にたいしてなぜグテーレス事務総長がわざわざ99条を発動したのかという別の疑問が浮かんでくる。またネタニヤフ首相の裁判も再開されている。すぐさま決着するとは思われていないようだが今後ネタニヤフ政権が持続するかも実はよくわからなくなっている。

日本では「戦争はいけないですね」とか「ガザの人たちはかわいそうですね」以上の分析がされることはないが背景には合理的な説明が難しさまざまな事象が展開している。「戦争はいけない」という当たり前のことよりもわかっていないことの方が重要なのかもしれない。

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グレーレス事務総長の発言は日に日に踏み込んだものになっている。イスラエルの戦争犯罪の可能性について言及し、ついにはガザ地区からパレスチナ難民を追い出そうとしているのだろうと指摘している。もちろん、この発言自体は必ずしも誇張ではない。220万人いると言われているガザ地区の住民のうち180万人程度は住む家を失ったと指摘されている。国際的には決して看過されるべき問題ではない。

アメリカ側にも事情がある。この話をQuoraに書いたところ、大統領選挙が本格化する1月ごろまでに停戦に持ち込みたいという話が出ているという指摘があった。確かにBBCにも「イスラエルにあと一ヶ月ほど猶予を与えるかもしれない」と書かれており内容的には合致する。

こうなると別の疑問が出てくる。もうすぐ止まるとわかっているのになぜ停戦決議を繰り返すのかということだ。

この説を採用するとグレーテス事務総長の狙いは「イスラエルを守り続けるアメリカ」という姿勢をあからさまにすることなのだと結論づけることができる。BBCは「アメリカに恥ずかしい思いをさせること」が事務総長の目的だと分析する。

もちろんBBCの分析が正しいかどうかはよくわからない。結果的にはアメリカがイスラエルの後ろ盾になる代わりにイスラエルのガザ戦後処理に保護者として道義的責任を取るべきだという国際世論が形成されつつあるのは確かである。

グテーレス事務総長は単なる国連のまとめ役ではない。ポルトガルの左派政党の出身であり気候問題に関してはアクティビスト的な発言を繰り返している。意外と「政治的な」振る舞いの多い人なのである。

イギリスは今回の提案には拒否権を発動せず棄権した。アメリカがきちんとブロックしてくれるだろうという安心感と共にこの問題から距離を置こうという姿勢が感じられる。イギリスも土壇場で「保護者」の地位を降りてしまった。

ネタニヤフ首相は「自分が首相である間はパレスチナ自治政府がガザ地区を支配することはない」と宣言している。これは国際世論が望むイスラエル・パレスチナの2国間体制とは合致しない。アメリカ合衆国はイスラエル・パレスチナの二国体制を支持し続けているが、一方で「暫定であればイスラエル軍が占領しても構わない」という姿勢である。ネタニヤフ体制が続く限りアメリカはこの危ういバランスをハンドリングし続けなければならない。

ではバイデン政権はそのままネタニヤフ政権を支持し続けるのだろうか?ということになる。だが、どうもそれも怪しい。暴走するイスラエルを扱いかねていてネタニヤフ首相よりも穏健な政権を求めているのではないかという分析も聞かれる。

そんな中ネタニヤフ首相の裁判が再開されるそうだ。The TImes of Israelは裁判は2028年から2029年まで続くだろうとみているそうだ。

イスラエルの司法はネタニヤフ首相の「司法改革」により特権を剥奪されそうになっており、ネタニヤフ政権とは対立する立場である。ガラント国防大臣は超正統派の西岸支配を好ましいと思っておらず、アメリカ合衆国も同意見だ。超正統派は西岸も含めたカナン全体はユダヤ人が統治すべきだと考えている。イスラエル国内のバランスはネタニヤフ首相を要(かなめ)にして危ういバランスを保っている。ネタニヤフ首相がいなくなればヨーロッパとアメリカの意見の違いは解消するが、同時に今までかろうじて保たれてきたイスラエルという不思議な「ユダヤ人国家」の内部崩壊につながりかねない。憲法なきイスラエルは意外とガラス細工なのだ。

現在の主な争点は戦後のガザを誰が支配するかというものなのだが、実はその裏では国連事務総長も入って「ネタニヤフ体制を維持するか、ポストネタニヤフの動きを加速するのか」という駆け引きが始まっているのかもしれないということになるが、多くの類推に基づいている。つまり本当のところはよくわからない。

「戦争がいけない」のは当たり前なのだが、その当たり前にこだわっていると見えなことが多い。今は「わからないこと」の方がむしろ重要と言えるのではないかと思う。

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