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「誰もでもよかった」で21歳の陸上自衛隊員逮捕 気になる動機と背景

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かなり「取り扱い注意」という感じでおそらくメジャーなニュースにはならないのだろう。だが、個人的には防衛費増強・増税の裏で自衛隊員の処遇が改善されていないことが気になっている。隊員の処遇改善が進まずなぜか装備品を買うためのお金の話ばかりが盛り上がっているのは極めて不健全だと感じる。いくら道具を揃えても最後にそれを扱うのは人のはずである。

京都市東山区のマンションで老人を刺殺したとして21歳の陸上自衛隊員が逮捕された。容疑者は「誰でもよかった」と供述しているという。

記事のヘッドラインは「京都・マンション男性の殺害、21歳の自衛官を殺人容疑で逮捕…面識なく「誰でも良かった」」である。初見では「若い陸上自衛隊員がお金に困って強盗でも働いたのか」と思えるのだが、実はそうでもなさそうなのである。ただ報道を見ても合理的な動機が全く見えてこない。

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注意せずに記事を読むと強盗でも働いたのかと思える。だが、京都新聞で読むとどうもそうではないようだ。京都新聞は、「これはモノトリ目的の犯行ではない」と示唆しているようだ。

捜査本部の説明では、岡田さんは3日午後8時45分ごろ、血を流して倒れているところを住民に発見された。死因は背中を数回刺されたことによる失血死で、肋骨が複数折れていた。襲われた際、何らかの方法で胸に強い圧力を受けた可能性がある。岡田さんの室内は荒らされておらず、発見時に所持していた財布には数万円の現金が入っていた。

確かに読売新聞の記事も「踊り場で刺殺」となっている。複数回刺されており殺意はあったようだ。一部は心臓や肺に達していた。現場の状況から見ると通りがかりを刺されたというよりは「狩り」にあったような感じだ。

お金を取る目的ではなく単に言い争いになって人を刺したわけでもないということになる。ただしおそらく殺意はあった。だから、ナイフは心臓や肺に達していた。さらに胸も強く圧迫されていた。被害者と加害容疑者には面識がなかったようだ。加害容疑者は「誰でもよかった」と言っている。普通人に向ける感情ではない。山で動物を見かけたら「獲物はなんでもよかった」と思うだろう。

これを素直に読むとふらっと駐屯地の外に出た陸上自衛官がランダムにマンションに入り人通りのない場所で抵抗しなさそうな老人(82歳)を滅多刺しにして「狩った」ことになってしまう。普通のメンタリティで想像しても全く理解できないのだが、少なくとも容疑者には強い気持ちがあったようだ。

こうなると、人手不足の中自衛隊員の精神状態について選抜時にフィルタリングがきちんとできているのか、入隊したあとにも継続的にメンタル面のマネジメントができているのかなどが気になる。6月に起きた射撃場での銃乱射事件も踏まえると人手不足の中で「銃が撃ってみたい」という人や「人の殺し方を覚えたい」という動機を持っている人を排除するのは極めて大切である。射撃訓練の時も「射撃訓練以外に接点はなかった」とされている。つまり恨みは動機ではなかったようだ。

ただし、最近ではこの手のニュースがローカルニュースから全国ニュースに昇格することは少ない。少子高齢化などを背景にした人手不足が進行している上に自衛艦の採用方針も場当たり的に変更されている。抜本的な解決策は難しいため「水島千翔隊員個人」の問題として処理されるのであろうという気がする。

陸上自衛隊員は国土防衛のために例外的に殺傷訓練を受けている。だから、普段から組織的にケアをして手厚い管理をするべきだ。だが、おそらくこの問題を「陸上自衛隊の」とした途端に「自衛隊を悪くいうな」「陸上自衛隊員全員を異常者扱いするな」という人が出てくるだろう。

最近のマスコミはこうした議論が分かれそうなトピックを扱わなくなった。全国ニュースにするには刺激が強すぎるとして今回も不幸な例外的事件として扱われるのではないかと思うがこれはおそらく非常に危険なことだ。

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